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【医療マガジン】エピソード4 眞と百田の出会い(前編)

『しらこわ』の世界観に魅せられた直子は行動に出る。新型コロナの影響で外出や仲間と交流する機会が激減したのを埋めるかの如く、まずは、かねてより出入りしている4つのクリニックのリサーチをしてみることにしたのだ。
 
番組の過去動画で、華乃宮小町の出演回をピックアップした直子は、その教え通り、まずは医者の診療スタイルとコミュニケーションスタイルについて再確認することにした。もう10年以上も通っている内科では、高血圧と高脂血症のクスリを減らしていくことができないかどうかを質問してみた。そして、もっとも長いつきあいの内科医の言葉に打ちひしがれた…。
 
「まぁ、こういっては失礼ですが、もう年齢も年齢ですからねぇ。ある程度はクスリの力も借りないとねぇ」と告げられて少なからずショックを受けた。『しらこわ』のなかで、小町が「気のせい、歳のせい、陽気のせい」にする医者はロクなもんじゃないと言っていたからだ。それに、直子にしても本当は、検査数値を適正化することよりも、健康を取り戻すための方法を教えてもらいたかったのだが、かかりつけ医の答えは答えになっていなかった。
 
整形外科では、5年も飲み続けている骨粗しょう症のクスリをやめたいと伝えてみた。そのせいかどうかはわからないものの、胃に不具合を感じていたこともあって、クスリをやめたらどうなるのかを質問してみたのである。
ところが、かかりつけ医いわく、「そうは言ってもねぇ。長い目で見て続けていこうよ。クスリを飲んでいるからこの程度で済んでいるわけでね。やめちゃったらこれまでの苦労が水の泡でしょ。ますます骨がスカスカになっちゃうよ」。これも、小町の話からすると怪しい対応だった。
 
「そもそも、骨粗しょう症のクスリほど骨密度の改善に効果のないものはない。そんなことよりも、いかに骨を強くしたり、筋力をつけたりするのか。本質的で根本的な健康指導をしてくれなきゃ、かかりつけ医の意味がない」と、小町が語っていたからだ。
 
それに、何よりも腹立たしいのがタメ口だ。明らかに年長の直子に対して、あの口のきき方は何なのか。これまではさして気にならなかった直子だが、小町や百田のいう医者のチェックポイントを学んでいる今となっては、この整形外科との決別を決定づける要因となった。
 
後頭部の炎症が気になって通い始めた皮膚科も、いつしか1年半も通い続けていた。痒い原因はカビだと言われ、軟膏の処方に加え、「市販のシャンプーは汚れや皮脂を落とすだけで、頭皮や髪を保護してくれないから」という理由で、結構な価格のシャンプーまで買わされている。にもかかわらず、症状の改善が芳しくない。なのになぜ通院を続けているのかと自問自答すれば、小町が指摘していたとおり惰性であり、かかりつけ医への遠慮からくるものだった。
 
が、もはや直子は変わったのだ。ストレートに「かゆみがなかなか改善されず悩んでいる」と伝えて医者の対応を見ることにしたのだ。そして愕然とした。「そうですかぁ?炎症はかなり収まってきてるんですけどねぇ」ときたもんだ。これでは、試着した服が若干キツくて動きづらいと言っているのに、「いや、ちょうどいいと思いますよぉ」と言われているようなものではないか。ただひたすら従順に医者の意のままに行動してきた結果がこれである。直子は心のなかで華乃宮小町に感謝していた。
 
半年前からモノがかすんで見えるような気がして通い始めた眼科。加齢に伴う水晶体の汚れからくる白内障(老人性白内障)との診断で点眼薬をもらっていたが、手術をせずに症状の進行を鈍化させるための対策について質問をぶつけてみる。そうしたところ…。
 
「白内障の手術は眼科手術の中でも安全性が高いのですが、日常生活に支障がなければ無理に手術する必要はありません。気をつけたいのは、眼圧からくる視神経の障害で視野が狭くなる緑内障です。これは白内障との併発の可能性が高いので、現在は予防の意味で点眼薬を使用しています。
 
これまで世尾さんのご不安に気づかず申し訳なかったのですが、緑内障を予防するには、食生活や目を疲れさせないためのマッサージについてガイドさせていただきますね。緑内障に限らず、眼に良いといわれている栄養素が含まれているものを意識的に食べてみてください。ブルーベリー・カシス、ホタテ・あわび・サザエ・牡蠣、ほうれん草・かぼちゃなどの緑黄色野菜。こういったところです。お嫌いなものはありますか?
 
あと、お酒はお好きでしょうか?飲酒がすぎると肝臓に負担がかかりますよね。肝臓の働きが弱くなると、眼球内の水分が枯渇することで眼圧が上昇し、神経をやられがちです。あと、糖分や脂質の摂り過ぎもよくないです。血糖値があがって、血流も悪くなりますからね。眼球周りの血行不良は緑内障の原因です。野菜や魚、海藻類などを中心にバランスのとれた食生活を心がけてみてください。でも、あんまり意識しすぎてストレスになってもいけませんので、相談しながら無理せずにできるところから始めてみてはどうでしょうかね。
 
それから…。最近はコロナで家にいる時間が多いでしょうから、テレビを見る時間も増えていると思います。あと、スマホもそうですよね。眼精疲労を回避するためには、こめかみや眉間のツボを刺激するマッサージが有効です。睡眠時にはホットアイマスクで眼の周辺をあたためて血行を改善させるのもいいですよね。この紙に詳しくまとめてありますから読んでみてください。わかりづらい点があったら、いつでも遠慮なく訊いてくださいネ。電話でも構いません。うちのスタッフであれば、全員理解しているはずですから」
 
直子はうれしかった。かかりつけ医に対して自分のほうから質問のボールを投げてみることで、はじめてその医者の診療スタイル、価値観、哲学、患者への配慮等が見えてくるものだ。それがよぉ~くわかった。そして、直子のかかりつけ医4人のうち、ただひとり。眼科の若いドクターが二重丸であることがわかったのだ。心のエンマ帳にマルをつける。直子の眼科医を見る目が一気に変わった瞬間だった。
 
と、直子がかかりつけ医の品定めに精力的に動いているとき、直子の長男である眞は、オフィスで百田寿郎の事務所にメールを打っていた。大手電機メーカーの人事部に勤務している眞は、ここ数年、社員の介護離職問題への対応に取り組んでいた。介護休業制度を用意してはいるのだが、これを取得した社員たちの評価は芳しくなかった。親の介護に自ら携わってしまったがために、親子関係のみならず、自分の家庭にまで支障が出てしまうケースが後を絶たないのである。
 
そんな状況下で、ある時から、母親の直子がやたらとLINEを送ってくるようになった。時には電話で、熱く語ってもきた。何を??? 『しらこわ』と百田寿郎についてである。「とにかく一度観てみなさい」・「あなたの仕事にもきっと役立つはずだから」・「キャスターの百田寿郎が実にいい」・「百田の著作をアマゾンで買って送っておくから」…といった具合である。
 
たまたま気が向いた時に、YouTubeチャンネルを覗いてみた。そして、過去動画のサムネイルで目についた「介護離職は死んでもするな」・「老親という名のリスク」・「これからの会社が社員のために真っ先に取り組むべき福利厚生とは」・「介護休業制度の落とし穴」等々をクリックするうちに、いつしか『しらこわ』の番組内で語られている内容を社内会議の場でも使うようになっていった。
 
そして今、眞は、人事・労務・総務といった現場社員を後方支援する部署を対象に、親の介護に係る社内研修を企画中である。その一環で、まずは百田寿郎を講師として招き、問題意識・当事者意識・危機意識を喚起する目的で講演会を開催しようと思いつき、講師依頼レターを打っている真っ最中である。
 
「はっきり言って、仕事と介護の両立は無理です。だから介護保険制度ができて、親の介護はプロに任せようということになったのです」
 
「介護休業制度の利用は、早まらないでください。できればやめてください。理由は簡単です。あなたの人生が台無しになるからです」
 
「老親リスクにそなえてください。同時に、現役世代であるみなさん自身もまた、息子さん・娘さんのリスクであることを認識してください」
 
「認知症を発症した親を施設に入れることを躊躇しないで!親の側だって、仕事や家庭で忙しいわが子に介護してほしいなどとは決して願っていなかったはずです。とにもかくにも、みなさん、初動が遅すぎます」
 
眞の頭の中では、こうした『しらこわ』の過去動画の中で百田が発していたフレーズが強烈に印象に残っていた。(To be continued.)

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