見出し画像

【医療マガジン】エピソード10 直子の決断(2/4)

いよいよ、直子が本題を切り出した。
 
 
「ふたりとも、百田寿郎さんも『しらこわ』も知らないわけじゃないんだから、わかってるわよね?『かかりつけ医大賞』のことは」
 
「知ってるけど」と眞。「うん、知ってるよ」と美香。
 
「さっきね。エントリー書類、ポストに入れてきたところ」
 
「理想のドクター、見つかったんだ」
 
「まぁね。それはともかく、私はこれから100歳まで、百田寿郎さんと生きてくことにしたから」
 
「ゲゲ~ッ!」と兄と妹。
 
「まさか、結婚すんの~っ!?」
 
「バカッ! ホントはそうしたいんだけどねぇ・・・」
 
顔を見合わす眞と美香。
 
「そうしたいところだけど、まだ会ったことすらないし・・・」
 
「あっ。そうだった! だから『かかりつけ医大賞』にエントリーして、最終選考のときに会うんだったよね?」
 
「えっ、そうなんだ」
 
「そ。そのためにも、お母さんがイチ押ししてるドクターが最後の10人の候補に残らないとダメなのよ。でね。それはともかくよ。お母さん、思ったのよね。『しらこわ』の影響をモロに受けて、医者の品定めしながらね。コロナになってさ、以前みたいに、素子や美子とお芝居や買い物行ったり、飲み歩いたりもそうそうできなくなったでしょ? 社交ダンスもカラオケも料理教室も、前みたいにみんなでガヤガヤできないじゃない。
 
だから、志保ちゃんと響介君にパソコン教わって、SNSもはじめて、YouTube観るようになって、で、偶然『しらこわ』で百田さんに出会って。そして百田寿郎という男性にときめきを感じて、『しらこわ』だけじゃなくって、ラジオの人生相談とか、彼の本とか、メディアに掲載されてる記事とかさ。いろいろ勉強してるうちに思ったのよね。感じたのよ、生きがいみたいなものを。
 
いろんな医者を観察してね、自分が感じたことをまとめてさ。それをこの街の人たちに届けてあげたいなって。あっちこっちまわって情報集めるのも、それを整理してまとめるのも、それを街の人たちに届けてあげるのも、どれも楽しいのよ。やりがいあんのよ。かかりた医大賞が終わっても続けていきたいなってね」
 
「つまり、おふくろが100歳まで生きてく意味を見つけちゃったってぇことか!」
 
「ピンポ~ン!」
 
「すごいじゃん、お母さん!なんかカッコイイ。クールだよ、クール。すっごいクールだよっ!」
 
「ありがと・・・。でもね、まだあるのよ」
 
眞と美香の、母を見るまなざしが真剣だ。
 
「百田さんが出してる本、ぜぇんぶ読んだわ。でね。彼が世の中に広めようとしている真の終活っていうのがあってね。まぁ、老後の価値観みたいなものよね。お母さん、その通りだって思ったの」
 
「ふむふむ」と頷く兄妹。
 
「でもね。思っただけじゃダメなのよ。意味ないのよ。実行しなきゃ、結果が出ないの。価値がないのよ」
 
「えっ、ちょっと何ぃ?お母さん、超かっこいい! ええっ、どうしちゃったの、お母さん」
 
「だからね。百田寿郎さんの提唱する真の終活をね。お母さん、ヤルわよ。だから今日、私が『かかりつけ医大賞』にエントリーした今日。そして、私・世尾直子が77回目の誕生日、喜寿を迎える今日この日に、ふたりにそれを宣言するためにね。そして、具体的に、お母さんがこれから100歳までこうやって生きてくからよろしくねって言うためにね、来てもらったってぇ~ことっ!」
 
・・・・・・
 
眞と美香は、一気にまくしたてた母親のことばを噛みしめるように沈黙している。それを見つめる直子。
 
眞が口を切った。
 
「あのさ。詳しいこと、まだ聞いてないからよくわかんないんだけどさ。なんて言ったらいいか・・・。おふくろに面と向かってこんなこと言うの、なんかこっぱずかしいんだけどさ。驚いたよ。感動してる。オレのおふくろって、スゲェなって。おふくろの子でよかったなって、なんか思っちゃった・・・」
 
美香の瞳はうるんでいる。
 
「お母さん、まだよく理解してないかもだけど、よかったねっ!キラキラ輝いて見えるよ!なんか、涙でちゃうよ。いいじゃん。やんなよ。お母さんが思うように、自由に、とことんやんなよ。応援するから私。お父さん死んでさ。ガクッと落ち込んでさ。でも、段々と元通りになって、三人娘でどうにか楽しく過ごしてくれればいいなって思ってたんだけどさ。『しらこわ』観るようになってから、変わったよね。っていうか、ギア、上がったよね。がぜんポジティブになった」
 
「生きがいだよ・・・。生きる意味。それを発見できたことで人生と主体的に向き合えるってぇこと?言うのは簡単だけど、おふくろはそのスタートラインに立ってる。いや、もう走り始めてるんだよな。オレもだけど、うちの社員にも、そこに気づかせなきゃいけないって思ったよ。会社も、生きがいを感じてもらえるような会社にしなくちゃいけないって思った。参ったよ、おふくろには。サンキュ」
 
「あらまぁ。なんかふたりとも、良い子になっちゃったみたいねぇ。やっぱり、百田さんはすごいわ。私の話なんて、ぜぇんぶ百田さんの受け売りだから」
 
「そんなことないよ。お母さん自身の、自分のことばとして喋ってたよ」
 
「ああ。本気を感じたよ。だから、おふくろのこれからの生き方?それがどういうものだったとしても、オレもコイツ(美香)も応援するよ。できることは何でもすっから」
 
「そう? じゃ、よかったわ。あれやこれやあなたたちの希望やら都合やらを押しつけられたらどうしようって思ってたから」
 
「そんなことあるわけないっしょ。おふくろの人生なんだからさ」
 
「そうだよ。何にも縛らないよ、私たちは」
 
気づけば3人は、水の入ったコップだけを前に話し込んでいた。ちょっとの間ができて、3人で顔を見合わせて、ハッとして、美香がコールボタンを押す。とりあえずということで、ドリンクバーを注文した。
 
思い思いの飲み物をすすりながら、話は後半戦にはいっていく…。
(To be continued.)

【参考図書】
Amazon.co.jp: 終活バイブル!永遠の親子愛で紡ぐハッピーエンディングストーリー 電子書籍: 山崎宏: Kindleストア

開業医が読まざるを得ない本: 2025年に選ばれ生き残っているために | 山崎 宏 | PR | Kindleストア | Amazon

Amazon.co.jp: 目指すは!“かかりつけ医”より“かかりた医”でしょ!: 患者も医者も知っておきたい20の“常識” : 山崎宏: 本

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?