【認知症予防大作戦005】禁断のラブレターで秘めた想いを文字にしよう

さて、言葉でストレートに想いを伝えるのも素晴らしい恋愛行為のひとつですが、ここでは、世界三大美女のひとりとされる小野小町や、紫式部や清少納言ら女流歌人が活躍した平安の頃に思いを馳せてみましょう。

日本最古の歌集である万葉集。そこで読まれている歌は、基本的に挽歌か相聞歌です。挽歌というのは、死んだ人を悼む歌。相聞歌というのは、恋愛の歌です。四季折々の風物詩を絡めながら、相手を想う心情を「もののあわれ」に表現したラブレターと言っていいと思います。この切なさやいじらしさは、現代人の心にも十分に伝わってきます。遥か昔も令和の今も、私たち人間にとって恋愛とは、片想いでも両思いでも、常に希望の灯であり、常に悩みの種でもあったのです。

和歌は31文字で紡がれる日本独自の定型歌です。当時、高貴な男女は、夫婦でない限り直接対面することは叶いませんでした。そこで、想いを伝えるツールとして和歌が威力を発揮するわけです。たったの31文字です。わずか31文字から滲み出て伝わってくる人柄に、まだ見ぬ人への想いを掻き立てていったのです。なんか、すっごいロマンティックですよねぇ。

和歌を詠むというのは、認知症予防には実に効果的です。短い言葉でさまざまな思いを表現することは、脳のトレーニングには最適です。先述のように、アタマとココロと手を同時に使う必要があるからです。紙とペンさえあれば、いつでも気軽に始められるのもグッドです。作品ができたら、新聞や雑誌に投稿したり、同じ趣味を持つ仲間と同人誌なんか作ったりしたら、自己実現にもなるからモチベーションもあがりますよね。
シニアの間では川柳が浸透していますが、ここはひとつ、やんごとなき想い人に、貴族の時代をマネて、渾身のラブレターをしたためてみようじゃないですか!

そういえば、歌手の由紀さおりさんの歌に『恋文』というのがあります。実にグッドな歌です。彼女には、他に『手紙』という歌もあります。どちらも名曲ですが、後者のほうが大ヒットしましたね。でも、やはり『恋文』が素晴らしい! この歌のテーマは、男性に対するオンナの一途な恋慕の情です。想い人に面と向かって打ち明けることができなくて、狂おしいまでの熱い想いを文字という形で便箋の上にしたためて、男性への恋心を再確認する…。

この世界観は、彼女の最大のヒット曲『手紙』と基本的に同じです。でも、時代背景や男女の間柄が大きく異なります。というのも、『恋文』の歌詞は候文調の言い回しだからです。例えば、「朝に夕に~ 貴方様を~ お慕い申し候(そうろう)」といった具合です。この「候」という言葉の力が由紀さんのやんごとなきボイスに乗っかることで、ドライ感が漂う『手紙』には感じられない色艶と狂おしいまでのやるせなさが伝わってくるのだと思います。

さて、私の場合は、学生時代からなぜか国文学を学んでいる女性と関わることが多かったように思います。百人一首やいろは歌、あるいは源氏物語や平家物語。そうした古典に触れる機会は、普通ならなかったでしょう。なんせ、古典はコテンコテンにダメでしたからね(笑)。それでも好きな女性と親しくなるためには、無い知恵を絞って歌を交換したものでした。そんな記憶は云十年を経た今でも、鮮明に残っているのですから、私たちの脳というのはすごいと思います。

夢うつつ 深紅に染まりし奥山よ まろく照らすは きみが微笑み
逢ふたびに 別離ちかづく悲恋かな 十六夜ふ月にも 悔恨の情
黄昏て まぼろし奏でる虫の音に 恋も身近な 濃い紅葉かな

時効ですから話しますが、私にも、想いを寄せていた年上の女性を振り向かせようと、短期間に100通の恋文を届けた青春時代がありました。ほとんどが代表的な古典和歌集の切り貼りでしたが、相手の女性はとても感激してくれました。ある時、私からの恋文がちょうど100通になったからと、初めて家の中に招き入れてくれました。拙い恋文を全部保管しておいてくれたんですよねぇ。うれしかったです。

いゃあ。それぞれの歌を完成させるまでの場面が甦ってきますねぇ。そして、これを筆ペンで短冊に書いて、相手に披露した時の一言一句を。とても感動してくれたのを昨日のことのように覚えています。みなさんもダマされたと思って、いとしい人に和歌というラブレターをプレゼントしてあげてください。

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