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はじめてのカウンセリング

みなさま、こんにちは。
事務局の桜井ひまりです。
 
今回は、私がはじめて相談者との面談に同席させていただいたときのことをお話ししたいと思います。
 
採用していただいてから最初の三ヶ月は、研修期間ということで、ボスをはじめ多くの講師の先生方からたくさんのことを教わってきました。その中で、今でも印象深く心に残っていることは多々あるのですが…。はじめてカウンセリング(相談者との面談)に臨席させていただいたときのことは、強烈な記憶として刻まれています。
 
入社してようやく一ヶ月経った頃、ボスから(記録係ということで)カウンセリングに同席するように言われました。ヒアリングシートを渡されて、4つのステップと各質問項目の意図を教えていただいた上で、いよいよその時を迎えました。
 
相談者は70歳すぎの女性で、いわゆる『おひとりさま』の方でした。そもそもの相談テーマは『(お住いの集合住宅の)階下のラーメン店が放つ油臭にどう対応したらよいか』ということでした。「本当にいろんな相談に応じているんだなぁ~」と、ちょっとびっくりしたのを覚えています。
 
カウンセリングの冒頭では、まずは10分間、相談に来られた理由等について、相談者に自由に話をしていただくことになっています。が…、ありがちなことなのでしょうが、その女性は彼女が生きてこられた人生を語りはじめたのです。それはそれは大河ドラマのように長く、しかも艱難辛苦の連続で、まさに不幸の百貨店のような壮絶なストーリーでした。私はいつしか涙がこぼれてきて、メモを取るのとハンカチで目を拭うのとで大忙しになっていました。
 
と、ボスが相談者の話を遮りました。時計を見ると、すでに30分を経過。ニコニコと微笑みながら、ボスはこう言いました。
 
「若輩者の私が言うのもなんですが、大変な人生を歩んでこられたのですね。もしご縁があれば、これからまたじっくりとお聞かせいただきたいと思います。それでは、次の相談者の予約も入っているので、ここからは、お電話でおっしゃっていたラーメン屋さんの話を教えていただいてもよろしいですか?とにもかくにも、いま現在〇〇様を苦しめていることから取り除いていきたいと思いますので…」
 
相談者は、「あら、ごめんあそばせ~っ」と恐縮して、ようやく本題に入ることになりました。私はと言えば、「あそばせぇ~」という時代劇のコントか何かに出てきそうな言い回しがツボにハマってしまって、こんどは笑いを堪えるのに必死でした。今どき、こういう言葉遣いをされる人もいるのだなぁ~と感動すら覚えました。
 
結局、開店許可を出した保健所、入居契約を交わした大家に対してまずは事情聴取するとともに、相談者がお住いの自治体の環境課に異臭検査を行ってもらうよう折衝するという基本方針を伝え、現地でのサポートを要望される場合の費用について説明をして、初回面談を終えました。

相談者をお見送りした後、「強烈だったね」といたずらっぽく笑いながら、「お茶しに行かない?」と誘ってくれて、オフィスが入っているビル中のレストランに行きました。ボスはアップルティー、私はカフェオレ。あの時はじめて、ボスが乳製品がダメなことを知りました。

「なんか感想とか、ありますか?」(当時ボスはまだ、私に対して丁寧語を使っていました…)
「ちょっと疲れました。でも前半は、気の毒に思って涙を堪えるのが大変でした」

ストレートに伝えると、ボスがコメントをくださいました。

「サクちゃんが共感力の高い子だとわかって良かったです。次からは、相談者の想いに共感しながらも、涙は見せないようにしてくれたらもっと素晴らしいと思います。なぜ相談者と一緒に泣かないほうがいいか、わかります?」
「……」
「向こうはこちらにサポートを求めに来ています。その相手が自分と一緒になって泣いていたとしたら、その時は理解してもらえたんだって嬉しいかもしれません。でも冷静になった時に、『でも、あの人だいじょうぶかしら?』となってしまうかもしれないからです。まぁ、おカネ払ってまで助けてもらおうという相手は、感情をコントロールできる人であってほしいと思う依頼者が多いものだって、かつて僕も習ったもんで…。何が正解かはわからないけど、一応うちでは、そういうことにしてやってるんです。あっ、それ、見せてもらってもいいですか?」

私が拙いヒアリングシートを差し出すと、続けてボスが言いました。

「サクちゃんは字が綺麗ですよね。実に読みやすい。すごくいいと思います。そうそう。こうやってキーワードだけを書き込んだっていうことですよね。そりゃあ、あんなに次から次へとまくしたてられたら、全部拾うことなんてできませんよね。あっ。でも一応、ボイスレコーダーも回してあるんで…。サクちゃんみたいに、質問項目ごとにキーワードを書き込んでくれればOKです。たぶん、清書しようと思ってたんでしょ?まぁ最初なんで、ボイスレコーダー再生しながらやってみてください。って、またあのおばさまのベシャリ聴くんだ、サクちゃん」

そう言って、はしゃぐように笑ったボスでした。

「理事長がそんなに笑うの、はじめて見ました。そんなふうに笑う方なんですね」
「そりゃ、面接とか研修とかでゲラゲラ笑ってたら変でしょ? 一応、立ち居振る舞いはマジメな男を演じるようにね。そう努めてるんだ」

それまで勝手に父親のように見えていたボスのことが、身近な存在に思えた瞬間でした。

「他に、何かありますか?どんなことでも」
「素朴な質問なんですけど、自分が答えられないことを相手に訊かれた場合はどうすればいいんでしょうか? それが一番の心配なんですけど…」
「ですよねぇ。でもね、ノープロです。こういう仕事を15年もやってると、大概の質問は前例があるものです。というか、お金持ちでもそうでなくても、女性でも男性でも、親サイドでも子どもサイドでも、相談されることは20個でおさまります。それぞれについて、具体的な問題解決手順をマニュアルにしてあるんで、日々ちょこちょこ読み返してもらえれば、すぐに覚えられると思います。でも、もしも本当にわからない質問が飛んで来たら、例えば下のラーメン屋が臭くて困るとか? そんなときは、『あとで調べて連絡しますね』で全然問題ありません。すべてをその場で済ませようなどとしなくて構いませんから」
「そうなんですね。ちょっと気持ちがラクになりました」
「サクちゃんは今日がはじめてだったんで、不安に思うのも仕方ないです。でも、ホント、心配いりませんから。さっきのおばさまもそうですけど、9割の人は話を聴いてほしいんです。一時間聴いてあげるだけで、ま、実際には何とか短くさせる方向に持っていきますけど、7割は満足感をもって帰られますから、本当に。簡単に言ってしまえば、年配の人たちがなかなかネット検索でたどりつけないような情報を、われわれが代わりにピックアップしてあげるような感覚でいいと思います。でも、ほとんどの場合、ゼロからネット検索して、有象無象の氾濫した情報の中から正解を見つけ出すよりも、うちのマニュアルを信じたほうが早いし、精度も高いと思います。安心してくれていいですよ」
「聴いてあげる…。本当にそれで大丈夫なんでしょうか?」
「じゃあ、もうひとつ言っておくと、質問してあげるんです」
「……」
「相手が伝えようとしていることを、頭の中でカラー動画でイメージできるところまで、5W1Hを使って深掘りしてあげるということです。サクちゃんとおばさまが向き合ったとして、6割はおばさまに話させる。サクちゃんが3割。でも、その3割は『質問』と、『こういう理解でよろしいですか?』という確認。いずれにしても、面談終了後にボイスレコーダーを巻き戻してみて、おばさまのべシャリがサクちゃんの倍くらいになってる感じ。それくらいが理想です」
「……」

私がキョトンとしてたからでしょうか、ボスがこう言いました。

「さすが、サクちゃん。おばさま6割で、サクちゃん3割。あれっ、あと1割は???って思ってるんでしょ? その答えは『沈黙』です。こちらが質問をして相手がそれに答えたら、意識的に間をつくるってことです。3秒から5秒。そうしてから次の言葉を吐いたほうが、相談者の印象が上がるそうです。これも昔、教わったことなんですけどね。沈黙の後に発する言葉は、相手の納得感が爆上がりなんですよね、ホントに」

こんな具合で、私は感動しながらボスの話に耳を傾けていました。同時に、ボスの低温と飄々とした話し方、それとちょっとオーバー気味の仕草が心地よくなってました。

「あと、サクちゃんは姿勢がいいですよね。面接のときから感じてたんですけど、立っても座っても背筋がピンとしてる。メモしてる時も背中を丸めない。毅然とした感じが出てて、この仕事に向いてます」
「えっ!はじめて言われました、そんなふうに」
「そっ? あと、声がいい。キャピキャピしてなくて、とっても耳障りのいい声。カウンセリングにはもってこいです。相手に安心感とか包容力とかを感じさせることができる」
「それもはじめて言われましたぁ。ありがとうございます」
「いやいや、それがまたグッド。なかにはね、こっちが褒めても、『とんでもないですぅ』とか『全然、そんなことありませんからぁ』とか否定する人、結構多いんですよね。医療とか介護とかの世界は特に多い。そんなこと言われちゃうと、まぁ、謙遜してるのかもしれないけど、ホメたこっちが見る目ないみたいじゃない? だから、誰かにホメられたときは、今のサクちゃんみたいに『ありがとうございます』って返してくれた方がすっごい気持ちいいものなんですよね」

こんな感じで、気づけばこれまたアッという間に90分近く時間が経っていたのでした。
何が言いたかったのかと言うと、ボスの言葉で私は確実に勇気や希望を与えてもらえてるということ。前向きにさせてもらってると言ってもいいと思います。

加えて、注意するときには、いつもまずデキている点をホメてくれる。その上で、『ここをこうするともっといいと思うよ』と付け加えてくれる。注意するというよりか、提案してくれると言ったほうがいいかもしれません。不思議となんでも素直に受け入れることができてしまうような話し方なのです。

当時の私には、ポスとの対話自体が学びだったんです。もちろん、今でもそうですが。あの頃の私は、自分が知らない父親のイメージをボスに投影していたように思います。そんな人の下で働ける喜び、勉強させてもらえる喜び、そしてホメてもらえる喜び…。いろいろなポジティブをもらいながら、日々頑張ることができたのだと思います。

相談者もまた然りです。ボスのカウンセリングでは、多くの人たちが涙を流す場面に出くわします。その後の展開はとてもスムーズで、双方のこころの距離が一気に縮まったように見えるからすごいと思います。

なんか、とりとめのない日記のような内容となってしまいましたが、今回は私のカウンセリングデビューについて書かせていただきました。

次回もまた、読んでいただけたらうれしく思います。
それでは、また。ごきげんよう。

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