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頑張っているのに、なぜか売れない②

 しばらくして予定の訪問先のE製作所に到着、約束の時間ギリギリだったので、車を停めるやいなや1F受付ロビーに駆け出した。受付ロビーに着いたと同時に内線電話をかけた。

 「エース情報の鶴井と申します。おはようございます! あの、10時から情報システム部の田中課長様とお打合せのお約束のために参りました」

 「承知しました。その場で少々お待ちください」

 電話に出た女性に言われたとおり、その場で待っていたが・・・、10分たっても来ないではないか。

「あの女性の方、きちんと伝えてくれたのかなぁ」
「もう一回電話してみた方が良いのかなぁ? 」
「いや、もうちょっとだけ待ってみようかな〜」

 30分くらい待っただろうか、ようやく田中課長が現れた。

「鶴井さん、ごめんね。ちょっと急な電話がかかって来ちゃって」

「いえいえ、こちらこそ急にお時間をいただいて申し訳ありませんでした」

「それで、今日のご用件は何でしたっけ?」
「至急の何かあったかなぁ?」

「ええとですね、昨日メーカから通達がありまして、今年の秋モデルパソコンの内々発表があったのです」

「本当はまだ口外しちゃいけない情報なんですが、いつもお声がけ下さっている田中課長には、どこの誰よりも、いち早く情報をお届けしなくてはいけないと思いまして、仕様概要資料を印刷して急ぎ持ってまいりました」

「あと、プリンタ、周辺機器類の新製品についてもカタログがありましたので合わせて持ってまいりました」

「ああ、そうでしたか、それはありがとうございます」

「早速、簡単に各パソコンの特長をご説明申し上げたいのですが、よろしいでしょうか?」

「特にパソコンのこのAシリーズかなり性能が上がっているのに、価格が下がるようですから、特にお勧めしたいのです」

「いや、せっかくカタログを持ってきてくれたんですから、まずは見させていただきますよ」

「そうですか・・・、はい、分かりました。良さそうな商品がありましたら、お声がけ下さい!そうしましたら、すぐに飛んでまいります」

「はい、わかりました、今日はありがとう。じゃあ、また連絡しますから」

「ありがとうございます。失礼します!」

深々と頭を下げて、田中課長の姿が見えなくなったのを確認すると、おもむろに営業車に向かって行った。

鶴井君は営業車に乗り込むと、いつものように意気揚々と鼻歌まじりに会社に向けて車を走らせ始めたのでした。

「今日も情報提供はバッチしだ!あとは、注文を待つのみ。早く注文が来ないかな~♪」

しかし、この愛すべき鶴井君、待てども暮らせども田中課長からお声がかかるはずもなかったのです。


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