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どんなときもWi-Fiにも使われてるクラウドSIM企業「uCloudlink」がNASDAQ上場申請

香港に拠点を置くクラウドSIMメーカー「uCloudlink」がNASDAQにIPO申請しました。上場申請書類F-1が出ていたのでチェックしてみます。

uCloudlink概要

uCloudlinkはクラウドSIMという技術を開発するインターネット通信関連企業です。

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uCloudlinkは2011年、ファーウェイ出身のChaohui Chen氏とZhiping Peng氏によって設立されました。

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創業者2人で株式48%を保有しており、その他にはHaitong(中国の証券会社)とBeijing Cash Capital Venture Partners(中国内VC。ポートフォリオに自分が知っている企業はなかったです)が約10%ずつ。ファーウェイは特に出資していないよ

uCloudlink2015年9月に世界中でローミングフリーかつ4G回線に対応した世界初のWi-Fi端末「GlocalMe G2」を発売。クラウドSIM技術を使用し、ユーザーはローカルのSIMカードに差し替えることなく世界100以上の国や地域でインターネットを接続することが可能となりました。

2018年にはGlocal Meを組み込んだ「WORLD PHONE」を投入し、スマホ市場にも参入しています。

1,000人以上いる従業員のうち半数以上がR&D部門に所属しており、50を超える特許を所有しているとのこと。

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クラウドSIM、ソフトSIM、eSIMの比較表はこんな感じで、クラウドSIMは一応物理的なSIMカードを使用するのでeSIMに対応していない端末でもフレキシブルに対応できるといった利点があります。

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uCloudlinkのクラウドSIMは世界中の144の国・地域のSIMリソースをホスティングしています。PaaSプラットフォームとなっており、オープンAPIに対応しています。

【公式】どんなときもWiFi___通信制限無しモバイルWi-Fiルーター

日本の「どんなときもWi-Fi」にもuCloudlinkのクラウドSIM技術が活用されているようです。ただ、需要が給湯してしまいサービスに支障をきたしているようで、4/3以降は新規受付を停止しています。

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uCloudlink PaaSプラットフォームの核となる特性

ビジネスモデルとしてはシンプルで、uCloudlinkはMNO/MVNO業者に回線使用料を支払い、通信契約を交わしたユーザーや企業から利用料を受け取って収益化しています。端末販売も行なっており、直販以外に販売代理店も活用しています。

uCloudlinkの業績チェック

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業績を確認すると、2019年の売上は1.6億ドル(YoY+25.3%)、営業利益551万ドルと黒字化を果たしています。中国企業ではありますが、そこまで急成長しているというわけではないようです。

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サービス売上は+3.0%増の0.9億ドルと成長が鈍化。PaaS/SaaSは伸びているようです。

スマホ等製品売上は倍々ゲームで拡大。2019年は0.7億ドルと売上全体の4割を占めるまでに成長しています。

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地域別では、中国32%、日本36%、北米10%、香港9%、台湾3%、東南アジア5%、ヨーロッパ3%という構成。「どんなときもWi-Fi」の急成長で2019年は日本が中国の売上を逆転しました。

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手持ちキャッシュは3.7億ドルほど。大きな有利子負債はないようで、累積損失も解消しています。

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営業キャッシュフローもプラスです。

uCloudlinkのKPIチェック

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2019年のDAU(Average daily active terminals; アクティブ端末数)は18.77万人(+66.1%)と思ったより少ない印象。2020年3月時点だと27.48万人に増加しているようです。

端末あたり日次データ使用量は1,300MB(約1.3GB)と前年の倍近くに増加しています。これも今年3月時点で2.2GBに急増。

その他の数字でいうと、「144の国・地域をカバー」「モバイル通信業者230回線をカバー」「パートナー数105社」となっています。

市場環境〜巨大マーケットだが旅行減少が打撃となりそう〜

最後にF-1でまとめられている市場データをチェックしてみます。

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特に驚きはありませんが、世界のデータ使用量はエクスポネンシャルに増加し続けています。今後はIoTデバイスも急増し、M2Mトランザクションがデータトラフィックの成長を加速させると見られています。通信量も年々安価になっており、貧困層にとってもインターネットアクセスが可能な時代となってきました。

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uCloudlinkは、各国のMNO業者が保有する通信設備の収益性やデータ利用率の低さを指摘しています。最も高い通信業者でもutilization rateは50%ほどで、日本のMNO(ドコモ、au、ソフトバンク)は20%程度にとどまっています。

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彼らはビジネス発展プロセスを3段階に定義しています。「uCloudlink’s 1.0」は通信の国際化、「uCloudlink’s 2.0」はキャリア間の通信インフラシェア、そして、「uCloudlink’s 3.0」ではユーザー間のデータシェアリングが可能なプラットフォーム構築を目指しているようです。

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JTOWER 成長可能性に関する説明資料

ところで通信シェアといえば、日本では「JTOWER」という企業が昨年マザーズに上場していました。(FY19売上20億円見込み、時価総額807億円)

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通信シェアリングも見据え、uCloudlinkは2023年のTAM(Total Addressable Market)が1.2兆ドルに拡大すると推定しています。将来的には既存のMNO業者をまとめ上げるプラットフォームになろうという野望が垣間見えます。

ただ、現時点でのメインユーザーは海外旅行・出張者であり、昨今の社会情勢においてuCloudlinkがダメージを受けていることは確かです。

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リスク項目にも記載されており、1Q20売上はYoYだと+33.6%~+37.7%増収したものの、QonQでは▲36.7%~▲37.7%減となりました。今後も不透明な状況です。

また、競合のskyroamからは特許権侵害で訴えられ、2019年9月1日からアメリカでのGlocalMeの永続的な販売停止を命令されてしまいました

不安要素も多くIPOまで辿り着けるか心配ですが、クラウドSIMという技術のニーズが高まっていくことは間違いなさそうなので、継続的にチェックしていきたい企業です。

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