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理科観察実験アシスタントとして働いてみて

執筆者名:F.M.
(某自治体教育委員会所属の理科観察実験アシスタント)

 こんにちは!私は某地方都市(人口2万人弱の過疎が進むけれど海と星が綺麗な街)の理科の実験観察アシスタントとして公立小学校で勤務している者です。今回は、理科観察実験アシスタントについて紹介させていただきます。ちなみに、三人の子ども(中2息子、小5息子、小3娘)がいて、夫は単身赴任が10年目になります。平日は残酷なくらいのワンオペです。

※本記事は匿名記事です。個人や自治体を特定するSNSでの書き込み・拡散はお控えください。


理科観察実験アシスタント(PASEO)について

 理科及び算数・数学は科学技術創造立国の基盤として特に重要であり、子どもたちが、学校における観察、実験等の教育活動を通して、自然及び科学技術に対する関心や探究心を高め、科学的な知識、技能及び態度を習得させることで、科学的な見方や考え方を養う必要がある・・・みたいです。 

 そこで、文部科学省は、学校における理科及び算数・数学に関する教育(以下、「理科教育」。)の振興を図るため、理科教育振興法に基づき、公立及び私立の小学校・中学校・高等学校・特別支援学校等の設置者(地方公共団体及び学校法人)に対して、理科教育を実施するための設備の整備事業を行う場合、国の予算の範囲内でその経費の一部を理科教育設備整備費等補助金(以下「補助金」。)で補助しています。

 補助金の交付については、理科教育振興法及び関係法令において、理科教育設備の基準が定められており、その基準に基づき、理科教育設備整備費等補助金交付要綱(以下「要綱」。)が定められています。理科観察実験アシスタント(Preparation Assistant for Scientific Experiments and Observation; 以下PASEO)は要綱上の理科観察実験支援事業として国庫予算の補助率が定められています。私の場合は、夫の扶養から外れて各種保険に加入した上で自治体の学校教育課のパート職員として勤務をしています。勤務内容としては以下①〜④と定義されています。

① 理科室の環境整備
② 理科の観察実験の準備・調整・片付け
③ その他、理科の観察実験の充実に資すること
④ 観察実験アシスタントの配置調整、職務能率や安全の確保等のための情報交換、会議等への参加

の4項目が定義づけられており①と②は必須とされています。なお、教員に代わって教科の教育を施すものではないとの注意書きがあります。このような定義のもと、大学(院)生、退職職員、研究機関・企業等の研究者・技術者、地域人材などのうち、上記の職務に堪えうると設置者が認めた者を雇用することとなっているようです。

 私は、COVID-19の発生後、「学校休校による学習の遅れを支援するための学習支援員をしてみないか?」と友人から声をかけられたことがきっかけとなり本職に就くこととなりました。高専の専攻科まで物質工学科、大学院修士課程(2年次中退)で医歯学総合研究科に在籍、並行して少しの期間ではありますが、医科大学の分子生物学医局で研究補助員として勤務していた経歴が目に留まったためです。←20年以上前の少し変わった経歴です!笑

 この仕事に採用されるまでは小学校で働いた経験もなかったし、職名すらも知りませんでした。医局の人間関係で板挟みに合ったことをきっかけに研究に関して徐々に興味が薄れ、何もかもが面倒くさくなってしまったことで大学院を中退してからは、すぐに結婚して家庭に入りました。マイホームを地元に建てて(もらって)からしばらくして、流石に働かないといけないことになりコンビニや介護のアルバイトをしていました。そんななか、友人からのお誘いの言葉があり「まさか自分が学校ではたらくことになるとは。」とも思いましたが、アカデミックな環境に身を置けることが嬉しかったです。

 着任して3年目になるこのお仕事、私の場合は年々楽しさが増しているように思います。雇用主である市教委からの干渉が全くないため、お仕事は基本的に手探り状態ですが、理科(小学校では3〜6年で理科を履修)を担当される先生方や子供達の学んでいる姿を見ていたら、ついつい何でもやってあげなくてはという責任感が湧いてくるので仕事の幅がどんどん広がっています。

 街に一人だけの人員なので、細かいことを相談できる相手がいないため、JAASの会員の方々にも色々とおたずねする機会もあり大変お世話になっております。

理科観察実験アシスタントの仕事内容

 本年度は基本的に週5日間、午前4時間と午後3時間で5つの小さく、レトロな小学校を1日に2校ずつ巡回して仕事をしております。具体的に私がどんなお仕事をやっているかをお示しするために、以下にこれまで私がやってきたお仕事を写真も交えて振り返りたいと思います。

1学期(4〜7月)

  • 先生への挨拶・アドバイス

  • デジタル教科書やデジタルコンテンツの利用の推薦

  • 観察対象の植物の種や苗の準備

  • 播種の準備

  • 理科室の掲示物のチェック・選定・廃棄・作成

  • 花壇のチェック・整備

モンシロチョウを呼び込むためのキャベツの移植(4月になっても植ってない学校があるので・・・)
  • 備品のシール貼り

  • 理科物品の業者担当者とのコミュニケーション

  • メダカの準備、産卵床の投入、たまごを確保するまでの世話

  • ヤゴ探し

  • 自由研究のまとめ方のアドバイス

  • 講師を手配し、校内樹木マップを作成(職員研究の一環)

2学期(9〜12月)

  • ヘチマの雌花・雄花探し

  • どろ・砂・れきのサンプル用意

  • 自由研究の褒賞

  • 新しい教科書のチェック

  • 顕微鏡や遮光板・虫眼鏡等の物品の清拭

  • 昆虫の標本作り

  • ペットボトルロケット作り

  • プログラミング用の教材の動作チェック

  • 堆積岩・火成岩・化石標本のチェック

  • サンドアートの紹介

  • 土砂の侵食・運搬・堆積を観察するための装置の制作

  • 使用した土砂の風乾

  • 教材の確保・借用する教材の移動

  • シリカゲルの再生

  • 紙笛の作成

  • アルコールランプの整備

3学期(1〜3月)

  • 水溶液の調製

  • 廃液の処理

  • ペンデュラムウェーブ制作


通年

  • 薬品庫内の薬品のチェック

  • 進度に合わせた教材の準備・片付け

  • 書籍研究

  • 記録用紙や学習用紙の準備

  • 授業や観察、実験の視察・サポート

  • 学期ごとの復習のための問題集の作成

  • 理科室の整備・整理整頓

  • 物品のメンテナンス

  • 教材の制作

  • 不足物品の補充提案・購入依頼

  • 不用品の廃棄・廃棄依頼

  • 授業者とのコミュニケーション

  • 科学教育に関する様々な情報の収集

こんなものも出てきます!

 レトロな学校の理科室。動物の骨など、いろんなものが出てきます。先生たちは多忙のあまり、片付けもろくにできないことがよくわかります。これまでに出てきたいろんなものの一部をお知らせします。

棚に『思い出の品』と書いてあったので、開けてみたら、みたこともない物の数々が。
『胴乱』がNHK朝ドラ『らんまん』に出てきた時は感動しました。
私の幼少期まではありました。黒電話。隣はなんだか分かりません。
なぜかごろごろ出てきます。
小学生がこんなに難しそうな物を使っていたのかと唖然としました。
いつどこで誰が採集したかも分からない貝殻や石。これらが一番困ります。

学校給食について

 私は昨年度まで学校給食を頼んで、他の教職員のみなさんと昼食をともにしていました。

 私のいる自治体では、教職員は1食300円ほどの学校給食を事前に注文して食べることができます。これがとっても美味しくて学校で働くことのメリットでもあったのですが、たくさん食べてしまったので太りました。今年度は摂取カロリーを控えるために学校給食は注文せず、プロテインを飲んでしのいだりしています。

PASEOをしていて感じること

 公立の小学校の現場をたくさん見てきて、教員や子どもたちは忙しい中でも前向きに様々なことを学びながら頑張っているのだなと感じています。現状を知ったからこそ、日々の忙しい学校生活を頑張っている我が子にも優しくなれます。

 小学校では理科専科のいない学校が多いので、理科を教えた経験のない教員が突然、理科の授業や理科専科教員を任されるケースも多いと聞いています。そのような先生は、授業直前になって初めて教科書を開くことがあります。当然、準備不足で教科書に沿った実験・観察ができないこともあったでしょう。私はそのような現状を教育の危機だと感じます。なるべく教員の職務遂行の意識が高まるよう、しっかりとした教材の準備と(謙虚な)アドバイスを心がけています。プライドが高すぎる教員もいるので、嫌な思いをすることも時にはあります。その度に学校教育課の上司に相談し、私の後任になるかもしれない人が同じ思いをしないよう対策を練ってもらっています。

 私のいる自治体では今のところ、来年度のPASEO任用のための財源確保が難しく、任用の目処が立たないとのことでした。しかし、アシスタントがいなくとも、教員間でしっかりと理科の引き継ぎをして教育体制が崩れないようにしていただきたいと私は思います。

※本記事は「科学教育 Advent Calendar 2023」の企画において寄稿されたものです。
※本記事の内容や主張は執筆者によるものであり、本記事の掲載をもってJAASや教育対話促進プロジェクトがその内容や立場を支持するものではございません。

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