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そうだ ザッハトルテ、食べよう。

 先月ウィーンのホテル・ザッハーのオンラインショップが送料無料キャンペーンをやっていたらしく、にわかにザッハトルテがブームになっていたらしい。

 ザッハトルテといえばチョコレートケーキの王様。チョコケーキというジャンルの中では王道だけど、その発祥の地、まさに元祖のホテル・ザッハーのザッハトルテが食べられるチャンスとあって世界中から注文が殺到していたらしい。

 残念ながら私はその波に乗り遅れてしまい気付いた頃には送料無料キャンペーンは終了していた。
 しかし、にるぎりの姉ピッピが、にるぎりの誕生日プレゼントにと注文していてくれたらしく、この度運良く口にできる機会を得られた。
 もっとも、世界中からの注文が殺到している上に大陸のはるか向こうから海と空を越えてやってきたのだから、にるぎりの誕生日はとっくに過ぎ去っていたのだが。


ザッハトルテの盛り合わせ

 レアな食べ物を食べるとなったら食べ比べをしてみるクセが付いてしまったので、今回も比べてみた。


 エントリーするのは今回の食べ比べのきっかけとなったザッハトルテの本家ホテル・ザッハー

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 そしてそのホテル・ザッハーが財政難に陥った際に支援の見返りとしてレシピと販売権を得たオーストリア=ハンガリー帝国帝室・王室御用達の洋菓子店デメル

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 最後はデメルで修行していたパティシエが日本で開いたお店リリエンベルグ。

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 チョコレートケーキの王様同士の熱い戦いが期待される。
 そして、その戦いの目撃者となるのはいつもの二人。


にるぎり
 世に蔓延る「おうちで簡単ザッハトルテ」的なグラズールじゃないザッハトルテのレシピに複雑な思いを抱くジャムの嫁。最近第五人格の呪術師の練習を始めた。


ジャム
 昔ウィーンに行ったことがあるくせにザッハトルテを食べ損なったにるぎりの夫。ウィーンではトルテも食べずに狂人塔を見ていたとさ。第五人格はずっと心眼を使っている。


 はたして王の中の王となるのはどのケーキなのか。


チョコレートケーキの三帝会戦

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 切ってみるとわかるのだが、ホテル・ザッハーだけがスポンジの間にもアプリコットジャムを塗ってある。同じザッハトルテでもレシピが違うんだね。

 今回も三つまとめて食べ比べ。一気に感想を書いていく。

にるぎり
 「同じザッハトルテというケーキなのにそれぞれの強みが全く違う」

 「ザッハーはスポンジの目が粗めでどっしりしている。スポンジ自体にチョコレートをしっかり感じる、ビターチョコに砂糖をたっぷり足した感じの重めの生地。
 チョコレートはビターで香り高く深みのある重厚な味わい、グラズールはチョコ強めでなめらか。フォークに対してあまりザクッと刺さる感覚がない。
 アプリコットジャムの酸味がかなり強めで、甘さ、酸味、チョコレートの濃いこく味があり全体的に味が強い。
 ザッハトルテというグラズール・スポンジ・アプリコットジャムの三重奏を楽しむというテーマを冠したケーキとしては最もまとまりを感じた。目指すべき地点がかなりはっきりと感じられる潔くわかりやすいケーキ。
 ザッハーの強みはこの全体のバランス感であり、個人的にはこれこそがザッハトルテだという印象を強く受けた」

 「デメルはスポンジの目が細やかでふわふわの質感、食感は軽いが味は甘めでとろりした舌触り。
 チョコレートはミルキーで華やかな香りの酸味が弱いタイプ、グラズールはチョコ強めだが糖衣感も感じる、柔らかくもややシャリシャリした食感。グラズールの外観が最も赤く味もかなりチョコレートを感じる。
 アプリコットジャムはごく弱く酸味はほとんどない。
 ザッハトルテというテーマによって作られたケーキというより、あくまでもチョコレートの風味に重きを置いたケーキである。
 デメルの強みは圧倒的にチョコレートの香り高さ。個人的には有名な猫ラベルのソリッドチョコ等のデメルのチョコレート菓子は口に合わないが、ケーキになった途端デメル特有の上品に香り高くまったりと甘いチョコレートがとてつもなく生き生きと感じられておいしかった」

 「リリエンベルグはデメルで修行されたシェフなのでデメルと同じくスポンジの質感はデメルに近い。ふわふわで軽やか。ただ味はデメルほど甘くなくチョコレートの香りもかなりシャープ。
 チョコレートはデメルのチョコレートの香りとはまた違った方向性でありつつも、上品な風味。デメルよりもややフルーティーさを感じる。グラズールはかなりチョコ弱めで糖衣感が強くシャリシャリ。フォークを刺すとグラズールが割れる。
 アプリコットジャムの酸味が適度にアクセントを感じさせる。
 ザッハーほどハッキリした輪郭ではないが、デメルほどまったりやわらかな雰囲気でもない、ひたすら優等生なタイプ(リリエンベルグの生菓子はわりとどれもそういう「まじめ」で「クラシック」で「朴訥」な雰囲気を感じる)。
 リリエンベルグのザッハトルテの強みはスポンジ。隙のない味といえばいいのか…リリエンベルグのスポンジは土台としての強さを持ちつつもかなり繊細な味。ザッハトルテに限った話ではないが、リリエンベルグの焼き菓子のポテンシャルは凄まじい。
 ただふわふわで軽く上品なスポンジと酸味と甘味のバランスが取れたアプリコットジャムの相性は良いものの、グラズールの硬さはやや一体感に欠ける感じがした。食感を抜きにして味だけで語れば、おそらく最も万人受けする(というか日本人向けな)シンプルでさっぱりとしたチョコレートケーキである」

 「正直なところ、あまりにもそれぞれの強みが違いすぎるため「これを食べておけば間違いない」が存在しなかったことにわりとショックを受けた。
個人的にはリリエンベルグが好きなパティスリーなのでおそらくリリエンベルグのザッハトルテが一番口に合うだろうと踏んでいたのに、「ザッハトルテ」という共通のスペシャリテを並べられるとあまりにもそれぞれの強みが違いすぎて別物にすら感じられる。
 ただ「ザッハトルテ」という個性を考えればやっぱり一番しっくりくるのはザッハーのような気がした。デメルはチョコレートへのこだわり、リリエンベルグは日本人向けに工夫したザッハトルテという印象が強すぎて、「ザッハトルテ」という強烈な存在感を放っているという感じを受けなかった。
 ザッハーはそういう意味で「これがザッハトルテだ!」という矜持だけで作られているような気さえした。ザッハトルテが持っているべきパーツをしっかり揃えていて、そのパーツがお互いに一切遠慮せず全員前に出てこようとする強さを感じる味なのである」

 「というわけで本当にめちゃくちゃ悩んで考えてみたものの、自分の中での「ザッハトルテの最適解」はホテルザッハーかな?という感想だが、「この中で一番好き」は決められなかった。どれもそれぞれに違うベクトルでおいしい。マジで難しい。
 日本のパティスリーでもザッハトルテを売りにしてるところはかなり多いみたいなので、機会があればまた他のザッハトルテも食べてみたい。まあ自分はチョコレートケーキの中ではザッハトルテはそんなに上の方にいるわけでもないのだけど…」


ジャム
 「香りはザッハーが甘酸っぱいアプリコットの香り。デメルはチョコレート。リリエンベルグは二つに比べるとあまり香りは強くない?」

 「表面のグラズールはリリエンベルグがシャリシャリした砂糖多めの食感。ザッハーとデメルはチョコレート多めでなめらかな食感。デメルの方が甘いかな」

 「スポンジはリリエンベルグが一番軽やかできめ細かくなめらか。逆にザッハーは目が荒い。デメルのスポンジはリリエンベルグに近いかな」

 「アプリコットジャムに関してはザッハーが圧倒的。もはやチョコレートケーキではなくアプリコットケーキだと言えるレベル。濃厚で酸味も強い。三つの中でザッハーだけがスポンジの間にもジャムを塗っているからかな。
 逆にデメルはほとんどアプリコットを感じられない。
 リリエンベルグはザッハーの後に食べたらアプリコット感が少ないなと思ったけど、デメルを食べた後に食べてみるとちゃんとフルーツを感じられた」

 「全体のバランスは、ザッハーは酸味が強いアプリコットにビターで甘みの強いチョコレートが合わさって結果的に良くまとまっている。目の荒いスポンジも強い酸味と甘みを受け止めるにはちょうど良く感じる。レシピが違うからか、他の二つとは明らかに別の味がする。
 デメルは三つの中で一番甘味が強く感じた。多分アプリコットの酸味がほとんど無いくてチョコレートの甘さが際立って感じたから。美味しいチョコレートをなめらかなスポンジと一緒に食べるためのケーキ。
 リリエンベルグはスポンジの食感が一番繊細で上品。アプリコットもザッハーほど尖ってなくて全体のバランスが良い。優等生」

 「アプリコットのザッハー。チョコレートのデメル。スポンジのリリエンベルグ。同じザッハトルテでも三者三様で面白い。
 個人的にはザッハーが一番好きかな。三つの中では一番個性を感じる味だから好みは分かれそうだけど」


 にるぎりのレビューの長さに驚きを隠せない。洋菓子という好きなジャンルになった途端にIQが跳ね上がっているのがはっきりと分かる。味覚という情報に対する解像度が高いんだね。

 にるぎりが書いているとおり、それぞれに違った強みがあるので一番はコレと言い切るのが難しかった。あるのはその人の好みだけ。

 しかしザッハトルテ、濃厚なケーキであることには違いない。三切れ食べると結構お腹いっぱいになる。幸いなことにケーキにしては日持ちがするので、一度に食べきらなくて済んだのが良かった。

 それはそうとにるぎり、高級な食べ物になる程IQが高くなるから面白い。今度それなりのお金を持たせてデパ地下に解き放ってみようかな。

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