そうだ あまづら、食べよう。
高校生の頃だったか。芥川龍之介の『羅生門』が授業で取り上げられた時に、どういう質問だったかは忘れてしまったが先生から指された私が「老婆に髪を抜かれた死体の女が生前に干し魚だと偽って売っていた蛇の切り身の味が気になる」と答えたことがある。
その時は、今は国語の授業だからその話は置いておこう的なことを言われて流された。
その通りではあるのだがやはり気になる。昔の時代にどのようなものが食べられていたのか、どんな味がしたのか。
そんな漠然とした好奇心は消えることなく、ずっと心に居座っていた。
古代の甘味料 甘葛(あまづら)
1年ほど前にネット上で蘇が流行ったのがきっかけで、自分の中の古代の味覚に対する興味が俄然増してきた。
特に甘味。甘い=砂糖といっても過言ではない現代からすれば砂糖が一般的でなかった時代の(果物以外の)甘味がどのようなものだったのか想像が難しい。だからこそ気になる。
そんな押さえ難い好奇心を抱えながらネットの海で出会ったのが、クラウドファンディングで古代の甘味料、甘葛(あまづら)を復元しようという取り組みだった。
立命館大学が取り組んでいるこのプロジェクト、協力者は甘葛(あまづら)の味を再現したシロップがもらえると知って秒で支援を決めた。
日本で砂糖が普及する前に使われていた甘味料、甘葛(あまづら)。
羅生門と並んで芥川龍之介の代表作である『芋粥』にも「芋粥とは山の芋を中に切込んで、それを甘葛の汁で煮た」とある。
これは支援せざるを得ない。流石に蛇の切り身を干したものとはいかなかったが、芋粥に使われた甘味料とあれば蛇の切り身にも匹敵する。
そんなわけで数ヶ月後に届いたのがこちら。
甘葛の原料となった植物の種類はよく分かっていないらしく、候補として考えられる3種類の植物それぞれを使い再現されたものだ。
3種それぞれ色が違う。残念ながら天然原料100%での復元は難しいらしく(再現自体はできるだろうけど食品として返礼品になるだけの味の質が担保できないのかな?)今回はあくまでも「味」を再現したものとのこと。つまり砂糖入り。
砂糖が一般的でない時代の甘味を知りたいという目的とは若干のズレがあるけど、化学分析の結果に基づき再現された味とのことなので、少なくとも味覚的には古代の味を知ることができる。
そうなればやることは一つ。そう、食べ比べである。いつもの二人でやってみた。
にるぎり
最近はホラーゲームを買い漁ってプレイし続けているジャムの嫁。FPS系は酔い止めを服用しつつプレイするという執念は尊敬に値する。
ジャム
未知の料理に対する好奇心が抑えられないにるぎりの夫。夏は半裸でピアノを弾いている。
3種の甘葛食べ比べ、というか舐め比べ。
甘葛煎 翠山
甘葛を煮詰めてシロップにしたのが甘葛煎。これはツタの樹液の甘葛煎。
にるぎり
「香りはほんのり酸味。植物っぽい香りも一番強く感じる。
砂糖の甘さに慣れていると、かなり口当たりが鋭い。口に入れてからワンテンポ遅れてサッと甘さを感じて、そのあとすぐサッと後味が消える。まったりやさしい甘さではなく、サッパリした感じ」
ジャム
「普通の水飴だね。ハチミツ程のクセは感じない。後味がほんのり草みたいな味がするかな?シンプルな甘さで何にでも合いそう」
3種の中で一番色が薄いだけあってあまりクセのない甘さだった。言われてみれば後味がほんのり植物っぽいかな。
甘葛煎 蘭山
こちらはアマヅルの樹液の甘葛煎。ツタの甘葛煎よりも色が濃く黄色っぽい。
にるぎり
「なんか思ったより違う!さっきのツタに比べてあからさまにコクがある。黒糖みたいな濃い感じ。後味もこっちの方が残ってる気がする。香ばしさよりも深みを感じる味だ。ややえぐいというか」
ジャム
「ツタよりもハチミツに近い気がする。逆に草の香りは弱いかな。色が濃くなった分コクが増した」
味と色は比例するのだろうか。二人揃って味の濃さというか深みを感じていた。
甘葛煎 文堂
あからさまに色が違う。ヤマブドウの甘葛煎。綺麗な赤紫色。
にるぎり
「えっなに?!急に現代のお菓子っぽいんだけど?!普通にぶどう味じゃん!酸味もあって、爽やかに甘くて、黒ぶどうっぽいコクもあって…。でも植物の香りもはっきりわかる。ラムネ味とかにも近いかも。
口に入れた瞬間めちゃくちゃ香りが華やかで笑った。これは普通にぶどうフレーバー蜜ですわ」
ジャム
「完全にブドウだ!ブドウ味の寒天ゼリーに使える!ここまであからさまにブドウだとは思わなかった。ちゃんと甘酸っぱい。ブドウの味って果肉だけじゃないんだね。単体ではこれが一番好き。だけどこれだけブドウ味だと他との合わせが難しそう」
本当にブドウ味の水飴といった感じ。単体だと美味しいけど他のものとの組み合わせに苦労しそう。
そうだ 唐菓子、作ろう。
3種の甘葛(あまづら)を食べ比べるだけではちょっと物足りないので色々と加えることにした。
まずは古代のお菓子ということで唐菓子(からくだもの)。
以前に食べ比べをしたのだが、こちらは砂糖や小豆餡が使われている江戸時代以降のレシピらしく、同封の説明書には「伝来の当時は中身は栗、柿、あんず等の木の実を、かんぞう、あまづら等の薬草で、味つけしたらしく」とある。
せっかくだから自分で再現してみるのも面白いだろう。あんずはドライフルーツが売ってあるし、甘草(かんぞう)も通販で手に入る。手作りで再現するのだからここは砂糖不使用にこだわってみよう。
またウィキペディア先生によると、唐菓子とは米粉や小麦粉に甘葛などの甘味料を加えてこねて整形し、油で揚げた菓子ということらしい。
ただし詳しい製法は分かっていないらしいので、今回はとりあえず粉をこねて茹でて整形した後に油で揚げたものとして扱う。
右が米粉を水で練って茹でたもの。左はそれに甘草(かんぞう)を練り込んだもの。
唐菓子でググって出てくる様々な形の中から真似できそうなものの形を整形してみたけど自分の不器用さに涙が出そうだ。
清浄歓喜団に倣ってごま油で揚げたもの。かりんとうのような見た目。
白い方がプレーン。茶色い方が甘草(かんぞう)入り。
下の方に並んでいるいびつな丸い形のものにはドライフルーツのあんずが入っている。伝来当時の唐菓子のイメージだ。
それだけだと面白くないので、蘇を包んだ唐菓子も作ってみた(小さめの巾着型)。このために改めて蘇も作った。
蘇と唐菓子を合体させた古代スイーツのロッシーニ風といったものだが、はたして当時もこの組み合わせはあったのだろうか。
というわけで砂糖を全く使っていない自作の唐菓子と甘葛(あまづら)を食べてみた。
唐菓子 プレーン
にるぎり
「なんか……味付けのされてないおかきって感じ?硬い。上新粉特有の重たいもっちり感。これはこれで米粉とごま油の香ばしさがマッチしてシンプルにおいしい。普通に塩とか醤油かけたらもっちりしたお煎餅みたいな感覚で食べられると思う」
ジャム
「表面はカリカリサクサク、中はもっちり。外側の硬い部分がちょっと歯に詰まるかな。
ごま油が香ばしい。米の甘みはあまり感じないけど、プレーン煎餅みたいでおやつにはいいかも。甘味がレアなら充分おやつだね」
意外にもにるぎりが高評価。米粉オンリーなので当然甘くはないけど、これはこれでおやつになりそう。
唐菓子 塩
にるぎり
「塩うまーい。カリカリもちもちおせんべい。塩がかかると急激に米の香りを強く感じるんだけど、これやっぱり日本人だからなのか…?米の甘みは塩味でこそ引き立てられる…?」ジャム「普通にお煎餅の味。ごま油の香ばしさともよく合う。プレーンの唐菓子なら塩が一番合うかも。これは今の時代でも充分美味しい」
ジャム
「普通にお煎餅の味。ごま油の香ばしさともよく合う。プレーンの唐菓子なら塩が一番合うかも。これは今の時代でも充分美味しい」
プレーンの唐菓子の香ばしさに引っ張られてついつい脱線。スイーツではないけどやっぱり米に塩味は合う。
唐菓子 甘草
にるぎり
「別にそんなに甘くない。なんか苦甘い……えっ?!一気にきた!にがっ!えっめちゃくちゃ苦いよ〜なにこれ?!薬みたい……ほんのり甘いあとにじわじわ苦くなって口の中に味が残って漢方みたいな土草の香りが広がる…オエ〜なんじゃこりゃマズ〜!!!!!!
食感もなんかモサモサしててあんまりモチモチしてない…サクサクもしてない…。
え〜〜〜甘草マッズ!リコリス菓子とかルートビアに使われてる甘味料もこれなんだっけ?あれらにまったくおいしさを見出せないからこれがおいしいと感じられないのも仕方ないのかな…あまりにも薬っぽい…。米の香りとか、ごま油の風味までも吹っ飛ばされてる…強い…。
オエ〜水飲んでもまだ後味残ってるよ〜!ヤダ〜!これ残していい?じゃむし残り食べて!」
ジャム
「食感はプレーンと同じ揚げ餅。最初は全然甘くないけど噛んでいると甘さが増してくる。口に残る後味は完全に甘草の甘さ。時間経過で甘さが増していく。
甘草湯という漢方薬があるわけで、薬っぽく感じるけど、砂糖が無い世の中なら充分嗜好品として成り立つ甘さだと思う」
甘いといえば甘いけど砂糖の甘さと比べればやはり薬っぽい苦味が目立つ。砂糖を知らなければ美味しいかもしれない。
唐菓子 あんず入り
にるぎり
「そもそもわたしドライフルーツ全般好きじゃないんだけど…あの甘みも酸味も濃縮された感じが…。
ウオーッめっちゃ干し杏じゃ〜!!干し杏と揚げた米粉の味じゃ〜!!!思ったより杏の甘みを感じないんじゃ〜!!!ドライフルーツ嫌なんじゃ〜!!!
うーーーん、杏、あんまり米の味にもごま油の風味にもマッチしてない感じしますね。小麦粉の方がまだ合いそうな気がする。杏は多分干したやつそのまま食べた方が美味しいよ…わたしは杏はジャムが一番だと思いますけど…。
うーん、まあこれしかお菓子とか甘いデザートがない時代なら喜んで食べるのかなあ…?他にもおいしいスイーツが山ほどあるこの時代にはそぐわないと思いますね。完成度低い」
ジャム
「アンズのジューシーで濃厚な甘さとごま油で揚げた米粉の生地が案外合う。こってり濃厚系スイーツ。インドとか中央アジアからペルシア辺りにこういうお菓子ありそう。贅沢な味がする。お茶に合いそう。砂糖を使わなくてもこれだけ甘い果物ってすごいな」
評価は真っ二つ。ただしジャムは未知の食べ物に対する好奇心補正が掛かっているのでそこんとこよろしく。
唐菓子 甘草 あんず入り
にるぎり
喫食拒否
ジャム
「唐菓子甘草アンズはアンズの甘さが強くて甘草の苦味が中和されていた。けど後味の口に残る甘さは甘草以外の何者でもない」
薬草っぽい甘さとドライフルーツの甘さの合体はある意味今回で一番「当時の甘いお菓子の味」なのかもしれない。
唐菓子 蘇入り
にるぎり
「ウオアアアーーーーーッ噛んだ瞬間めっっっちゃくちゃ乳臭えーーーーーッ!!!赤ん坊か?!??いや赤ん坊はもっといいにおいです!!!乳臭!!!!粉っぽい!!!脱脂粉乳?!?!?!
うう〜〜〜脱脂粉乳入り米まんじゅうを食べているという感じで噛み続けるのがつらい…乳臭い…食感モッサモサ…甘くないし旨味とかもない…虚無…乳と米のにおいがするだけの虚無を食べている…。
蘇、流行ったときにもじゃむしが作ったの食べて「なんでいまこれが流行ってるんだ?」「昔の人、こんなクソまずいものがおやつでいいのか?」「現代の人は流行りに乗ってこれ作ったあとちゃんと全部食べ切れてるのか?」と思ったな…今回もそんな感じですね…」
ジャム
「全然オッケー!砂糖の無い世界なら天下取れる。甘草や甘葛程の強い甘みはないけど、濃厚な乳の味に濃縮された乳由来の奥ゆかしい甘さと揚げた米粉の組み合わせはまさに貴族的。カロリーもきっと貴族的。
砂糖を解禁して現代風にアレンジすれば和スイーツとして十分通じそう」
蘇が好きかどうかが分かれ道。蘇のほのかな甘みと香ばしい揚げた米粉は貴族的上品さと悪魔的カロリーを併せ持つお菓子界のジキルとハイド。昔には蘇も唐菓子もあったわけだが、当時にもこの組み合わせを思いついた人がいそう。
唐菓子 甘草 蘇入り
にるぎり
喫食拒否
ジャム
「生地に甘みがある方が蘇との調和が取れている気がする。こちらも蘇の濃厚な乳の味で甘草の苦味が中和されている。甘草は単体よりも組み合わせで力を発揮するタイプだな」
甘草はあんず入りでもそうだったが、やはり単体で味わうものではなさそうだ。他に味のあるものと一緒なら苦味が薄くなる。
唐菓子 プレーン 甘葛煎付け
にるぎり
「あ〜甘くなると一気にチュロスって感じ!もちもち系のチュロス!
わたしはシナモン嫌いなのでやらないけども、シナモンとあまづらをかけて食べたらめっちゃ好き!って人絶対いると思う。
揚げまんじゅうというかなんかドーナツみたいな印象を受けるな」
ジャム
「甘い餅。揚げて表面がカリジュワってする餅にみたらしのような蜜がかかっているイメージ。みたらしほどのコクは無くシンプルな甘さ。その分飽きがこないと思う」
もちもち系のチュロスというのが一番の言い当て妙だと思う。甘葛煎のシロップをかけた途端に現代に戻ってきたかのようだ。
やはり甘いとはいえ、甘草やドライフルーツや蘇の甘みだけでは現代人には弱いのかな。
蘇蜜
唐菓子に入れる蘇が余ったので甘葛煎をかけて蘇蜜にしてみた。藤原道長の好物だったらしい。
蘇蜜といえば蜂蜜をかけたものらしいけど、今回は3種の甘葛煎をかけて食べてみた。
にるぎり
「アマヅルから。なんかね〜感覚としてははちみつチーズケーキみたいな…味ははちみつヨーグルトケーキの方が近いかな…ボソボソモロモロした食感の蘇にさっきのアマヅル蜜がかかってる…うん…それ以上でも以下でもない…。
クッソマズ!もう二度と口に入れてたまるか!!というほどまずくもないが、え〜おいしい!また食べたい!というほどおいしくもない…なに?この……言葉にできない……。
後味だけが口の中でウロウロしてるので何かを思い出すなーと思って考えてたんだけど、あれかな?クワトロフォルマッジにはちみつかかってるやつ。あれの塩気を抜いて食感も味もスカスカにさせた感じ。
ツタの方もかけてみたけど、こっちのほうはチーズというより固形化した練乳みたいな感じかな。あんなにコクはないけど。蘇自体が甘くない練乳的な味だよね。
ヤマブドウはミルク系の味とフルーツ系の味の調和が取れてなくてチグハグ。ミルキーとフルーティーはバランス次第だな〜と思わされた次第」
ジャム
「うまい!濃厚系スイーツが好きならこれは絶対食べるべき。甘葛はケチらずたっぷりかけた方が美味しい。甘葛の甘さに蘇のチーズのような酸味が合わさりバランスが良い。グラーブジャムーンみたい。
お洒落なイタリアンでチーズピッツァにハチミツかけて食べるやつにも通じる美味さ。
ヤマブドウよりはツタかアマヅルの方が合う」
個人的にはかなり美味しいと思うがにるぎり的にはそれほどではなかった様子。それはそれとしてヤマブドウはブドウの個性が強いから組み合わせが難しいね。
清浄歓喜団と餢飳
せっかくだから現存する唐菓子も食べてみた。こちらは以前にも食べたちゃんとした職人謹製の唐菓子。
清浄歓喜団(せいじょうかんきだん)
にるぎり
「前も言ったけどマ〜ジで厳かなおばあちゃんちのにおいなのよ。お香の寺感がすごいのよ。あと形状の問題でぶとより齧りにくい。
自分は前に食べた時「今後はもういいかな…」って感じの味だなーと思ったんだけど、じゃむしがその後もちょくちょく買って喜んで食べてるのを見ると「人の好みってそれぞれだわ…」としみじみと思いますね。これは本当に好き嫌いが分かれる味だと思う。もう一回食べるとやっぱりぶとの方がお香のにおいがなくて食べやすい」
ジャム
「やっぱりこれ好きですね。お寺の味とか言われているけど清らかな香りなので甘みも全然ベタつかない。これ食べた後もほのかに口の中で香りが残って良い気分になる。食後にミント系のタブレット食べるみたいなものか?
落ち着く香りで、数日後にふと思い出して食べたくなる香りなんだよね」
餢飳(ぶと)
にるぎり
「ごま油の香りが強烈。これ嗅いでると、料理の香り付けくらいの感じで使われる分には気にならなかったけど、自分はごま油メインの香りは別に全然好きじゃないなと思う…じゃむしが揚げ米粉まんじゅう(唐菓子)作ってる時も揚げ油(ごま油)のにおいが家中に充満して吐きそうだったし…。
ここのお菓子はあんこがすっごくおいしいんだよな〜。自分はつぶあんもこしあんも好きでそれぞれどういう生地と合わせるかによるな〜と感じる人種なんだけど、この清浄歓喜団(こしあん)とぶと(つぶあん)に関しては清浄歓喜団のこしあんの方が合ってる気がする。あとぶとの方はお香の香りがしないのでお仏壇食べてる感がなくてこっちの方が普通のお菓子っぽい。ごま油はしつこすぎるけど」
ジャム
「やっぱり職人が作ってるから美味しい。自作のなんちゃって唐菓子と比べるのも失礼か。カリカリで香ばしくて最高。砂糖の入った小豆餡は偉大。やっぱり砂糖は美味しいね」
砂糖とあんこは偉大。やっぱり美味しいから後世に残るのだ。
芋粥
ひとしきり甘葛(あまづら)と唐菓子を楽しんだわけだが、せっかく甘葛(あまづら)があるのだからやっぱり芋粥を作らないとダメだろう。
芥川龍之介の『芋粥』を読んで芋粥を食べてみたいと思わない人はいないでしょう?
というわけで作ってみた。
山芋は無かったから大和芋で代用。甘葛煎は一番シンプルだったツタのものを使用。
実はこの芋粥も大まかな作り方しか分かっておらず、芋が全部溶けているのか残っているのかも分かっていないそうな。
今回は一般的なイメージのお粥っぽく適度に粒が残るくらいに煮てみた。
にるぎり
「ウッ……大和芋と砂糖は絶対に合わないよ〜!という先入観が邪魔をする…いけんのか?!いけんのかこれ?!
う〜〜〜ん、なんか思ってた味と違う…?なんだっけこれ…さつまいもペーストとかに近いかな…?なんか甘い芋って感じで、長芋・山芋・大和芋あたりのとろろ芋系を想像してると食感が全然違くて驚く。より汁気のあるスイートポテト的な感じ?でも芋としてはさつまいもよりもじゃがいもに近いかな?スイートポテトというか甘いハッシュドポテト…?
これもおいしいんだかおいしくないんだかよくわかんないな…判断に困る。でも「また食べたいで〜す!」にはならないかも…。
しかしこれが一番「昔存在したお菓子」感ある気がする。こういうの食べてそう、昔の人(偏見)」
ジャム
「うまい!これは確かに美味い。芋のまったりとした舌触りに甘葛の甘さがしっかり噛み合っている。小豆餡みたいな味。
今回は芋の粒がやや残る程度に煮てみたけど、まったり滑らかな甘さの中にホクホクの芋の食感がアクセントになっていて非常に良い。冬に食べたらなお美味しそう。
あんこが好きな人なら気に入るだろうし、平安時代に飽きるほど食べたいという人がいたという話も納得。平安京テーマパークとか芥川龍之介カフェがあれば人気のスイーツになりそう」
あんことかスイートポテトとか、そういった穀類のまったりしたスイーツ。好きな人は本当に好きだろうな。
実は昔、甘葛なんて手に入らなかった頃に砂糖を使って芋粥を自作したことがある。その時は長芋を使ってみたけど、個人的には大和芋の方が好きかな。甘さも砂糖より甘葛の方が芋との調和が取れていて良い。いつか自然薯で作ってみたい。
平安スイーツまとめ
にるぎり
「う〜〜〜ん……もうすでに製造過程の詳細が失われたものなのでこれらが本当に当時食べられていた味に相当するのかはまあ難しいところだけど、これが当時の「甘い味」なのだと仮定すると、自分は現代に生まれることができてよかったな〜という気持ちに尽きるな…。
ツタ、アマヅル、ヤマブドウのあまづら3種と揚げ米粉まんじゅうはこんなもんなのかな…という気もした。甘草は「ほんとにこれが甘味料でいいの?!ほんとに?!」と思うけど、砂糖を知らなかったらこれはこれでおいしいと感じるのかな…?
もっと先の未来、この世にいまわたしがおいしいと感じるものより遥かにおいしいものが誕生しているのか、それともこのあとはただ失われていくだけなのか、そういうことを考えさせられるためになる試食会でした」
ジャム
「あまづらの甘さを味わった後に改めて甘草の唐菓子食べたら結構苦味を感じるようになった。甘みは一度知ってしまうとなかなか戻れない禁断の味なのだと知った。
砂糖が無かったからこそ美味しく食べられたという側面もあるだろうけど、現代でも通じる美味さもあった。現代から見れば昔は原始的で美味しくないものを食べていたとは一概には言えないね。ましてや今回は素人がよく分かっていない製法で適当に作った唐菓子だったから当時はもっと美味しかったと思われる。特に貴族は財力もあったわけだし。
いつの時代も美味しいものを食べようという意思は不滅なのだ」
今回は古代の甘味料、甘葛(あまづら)を軸に唐菓子、蘇蜜、芋粥と主に平安時代あたりに食べられていたであろう甘味を適当に再現して食べてみた。
概ね美味しく食べられたが、好奇心補正があったことは否定できない。
しかしこれだけの量と種類の甘味を一度に用意して食べるなど、当時の貴族でもなかなかできないことだったのではないだろうか。人類の進歩を感じずにはいられない食べ比べだった。
『芋粥』を初めて読んだ時は「あまづらは今では手に入らないから芋粥も食べてみたいけど無理かな」と諦めかけていたけど、今回その夢が実現してしまった。
この調子でいつか、干し魚と間違う程の蛇の切り身の干物が食べられることを夢見ながら生きていこうと思う。
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