そうだ 世界の半分、食べよう。
もしも世界の半分の富を自分が持っていたら何をするだろうか。
玉の碗と金の箸で山海の珍味を貪るか。地平線の果てまで続く大豪邸でも建てるか。はたまた世界中から科学者技術者をかき集めて月面都市でも築くか。
現実にはそんな富が自分に転がり込んでくることもなければ、それを稼ぐだけの才覚があるわけでもない。
小市民はたわい無い夢想することを日々の慰めとして生きていくだけである。
そんな日々に潤いを与えてくれるのがスイーツだ。甘いものは心に良い。
普段は食べられないけどちょっと背伸びして、憧れのスイーツをたまには食べてもいいじゃないか。
というわけで今回は有名パティスリーのラデュレとピエール・エルメ・パリから、その代表的なスイーツ、イスパハンを食べ比べ。
世界の半分はエスファハーンでできています
ピンクのマカロンと真っ赤なフランボワーズが眩しい一品。ローズマカロンにフランボワーズとライチとバラ風味のクリームがサンドされている。
名前のイスパハンはバラの品種名、もしくは16世紀末にサファヴィー朝(現在のイラン)の首都として発展した都市エスファハーンのこと。
エスファハーンはかつて世界の半分と言われたほどの繁栄ぶりだったとか。
バラの香りとライチが演出する華やかさとエキゾチシズムをかつてのペルシアの都に重ねたのだろうか。
食べるのはもちろんいつもの二人。
にるぎり
最近ヘビィボウガンに手を出しはじめたジャムの嫁。新しい武器に手を出したはいいが金冠マラソンくらいしかやることがないのでクトゥルフ系アドベンチャーゲームのシンキングシティもプレイ中。
ジャム
モンハン始めた頃から狩猟笛一筋のにるぎりの夫。そろそろボドゲがやりたくなっている。実はラデュレもピエール・エルメ・パリもにるぎりに教えてもらうまで知らなかった。
世界の半分と称えられた都の名を冠したスイーツ。味の方も世界の半分クラスなのだろうか。
世界の半分をお前にやろう
こちらはラデュレのイスパハン。渦巻状のローズマカロンや挟まれたフランボワーズ、みずみずしい花びらで実に映えな見た目。食べる前から良い香りが漂ってくる。
こちらはピエール・エルメ・パリのイスパハン。基本構造は変わらないがマカロンが滑らかな形をしている。高さもラデュレよりやや低く、見た目の華やかさではラデュレに軍配が上がりそうだが愛らしさではこちらが上か。
今回は2種だけなので交互に食べながら思い思いに感想を言い合ってみた。
ジャム
「あ、うま… え、うま!うま。イスパハンってこんなにうまかったの?うま!」
にるぎり
「うま!……うま!ちょっとだけラデュレの方がマカロンに厚みがあるというか、高さもある。ラデュレの方がホロホロするね。ピエール・エルメの方がかなりフルーティーだ!ラデュレの方が甘みが強め」
ジャム
「どっちもうまいしか分かんない!違いが分かんない!」
にるぎり
「仕入れの問題なのかそういう狙いのもとでなのか分かんないけどピエール・エルメの方がフランボワーズの酸味が強くてマカロンの甘みも抑えめにしてるからそれぞれのフレーバーが全員強く主張してる感ある。あとピエール・エルメのほうがお酒が利いてる」
ジャム
「ソウナンダ。全然分かんない!」
にるぎり
「ガナッシュがピエール・エルメのほうがおいしい」
ジャム
「…………………ガナッシュってクリームのこと?」
にるぎり
「このホワイトチョコのクリームよ、真ん中の」
ジャム
「正直差が分かんない!どっちもめっちゃうまい!
フランボワーズの酸味がキュッ!ときたあとに甘みがそれを緩和してくれて、そのあとにフワッとライチの香りと…うまい」
にるぎり
「やっぱりこのローズ・ライチ・フランボワーズの組み合わせがめっちゃおいしいね」
ジャム
「うん、この組み合わせ考えた人天才(←ピエール・エルメさんです)。
なんかうまい以外の言葉が分からん。
ラデュレの方がホワイトチョコクリーム?の量が多くない?ピエールの方がクリームが少ないから全体のトータルバランスで考えた時にライチとフランボワーズの割合が多くなる」
にるぎり
「ていうかピエール・エルメめちゃくちゃライチ入ってるけどラデュレはほとんど入っとらんな」
ジャム
「そうそう、逆にラデュレは中にもフランボワーズ入ってる」
にるぎり
「アッ!エディブルフラワーは圧倒的にラデュレの方がおいしいです」
ジャム
「そうなの?オワッ!ピエールの方の花にがっ!」
にるぎり
「なんかピエール・エルメの花の方がえぐいよね。口直し的な意味なのかも知らんが」
ジャム
「なんかいっぱいフランボワーズが入っててビタミンCとか…体に良さそう」
にるぎり
「ラデュレの方がガナッシュのクリーム味強い。ピエール・エルメの方がチョコ味強い」
ジャム
「そう?チョコとかもうよく分かんない」
にるぎり
「ホワイトチョコの味するじゃん」
ジャム
「マジで?もう全然分かんない!明確な差としてはこのど真ん中にフランボワーズがいるかいないかっていうのが一つあるね(ラデュレは真ん中にフランボワーズが入っている)」
にるぎり
「ピエール・エルメは真ん中にライチがガッツリ入ってるよね。こっちの方が三重奏っぽさあるな〜。3種の風味が全部しっかりしてるから、ピエール・エルメの方がイスパハン!て感じ。ラデュレの方が全員が控えめに香る、調和の方を重視してる感じする。
しかしラデュレはどれも甘いな〜。(ラデュレの方が)マカロンの食感が軽いのは食べやすい」
ジャム
「(ラデュレの方が)クリーム分が多いな〜。あとラデュレはライチが少ない…(ライチ好き)」
にるぎり
「マカロンのレシピとしてはベースの配合が似てて、ラデュレの方が砂糖が多い感じかなあ。だからラデュレの方が軽い食感」
ジャム
「そなの?」
にるぎり
「砂糖の量の増減でも食感めっちゃ変わるんよ。もちろん混ぜる工程とか時間とか焼成にもよるけど、砂糖は甘さのためだけじゃなくて生地の安定のためにいるから…ラデュレはマカロンの老舗だからか食感のバランスいいな」
ジャム
「切り崩した時の中身見ると圧倒的にピエールの方がライチが多い!」
にるぎり
「マカロンのローズ味も強くてピエール・エルメの方がエキゾチック感あるよね。ラデュレはやっぱり全体的にふんわりしてお上品。
やっぱりこの酸味と甘さのコントラストがおいしいから、ラデュレはずっと甘いな〜と感じる。ピエール・エルメの方がメリハリがある」
ジャム
「個人的にはそもそもライチが好きだからライチがたっぷり入ってるピエール・エルメの方が好き。あと全体の調和よりも各々が主張してる方が好きだから…音楽とかも全部が調和してひとつのハーモニーになる!とかよりもソプラノもアルトもバスも俺が!俺が!俺が!みたいなのが好きだからさ…」
にるぎり
「どこが主旋律かわかんない的なね」
ジャム
「そう、全部主旋律!みたいなやつが好きだから。あとマカロンの食感とかはこのレベルになるとあんまり差が分からない!」
にるぎり
「いや〜これはどっちもおいしいけど、あとは好みでしょ。ラデュレの方が甘めで軽くてふわっとやさしくまろやか系だけど、わたしはフランボワーズの酸味めちゃくちゃ好きだからな…」
ジャム
「食べ終わった後にケーキ1個食べた感が全然ない」
にるぎり
「そうね〜軽やかだよね」
ジャム
「幻だったかのような…」
にるぎり
「ケーキって甘いし脂肪分も多いから食べ終わったあと口も胃も飽きるし疲れる感あるけど、イスパハンはそれが全然ないよね」
ジャム
「俺は何を食っていたんだ的な…つわものどもが夢の跡感ない?」
にるぎり
「どっちもうま〜い。どっちもおいしいけどピエール・エルメの方が好きかな」
ジャム
「自分も。あとね〜見た目」
にるぎり
「あ〜見た目はどっちも好きだな〜」
ジャム
「マジで?見た目も圧倒的にピエール・エルメが好きなんだけど」
にるぎり
「わたしはこのラデュレみたいなぐるぐるに絞り出して焼くビスキュイとかビジュアル好きなんだよね。ピエール・エルメみたいな丸いのも普通に可愛いし見た目はどっちも好き。あとラデュレは高さがあるのがいい!
あかん…うまい…無くなる…イスパハン無くなっちゃうよ〜!!!」
ジャム
「うまいけど食べ終わった後何も残らない!霞を食ってたのか?」
あまりの美味しさに大興奮で食べ終えたが、食後感が軽すぎて本当に幻だったかのよう。
味は確かに世界の半分と称えられるレベルだが、腹持ちは本当に世界の半分を食べたとは思えない(スイーツに腹持ちを求めるな)。
総評
にるぎり
「どっちもおいしかった…。イスパハンというフレーバー、本当に素晴らしい組み合わせだと思う。ピエール・エルメ氏、評価高いのめちゃくちゃ分かる。
個人的に好みだったのはピエール・エルメかな。でもラデュレもおいしかった。
イスパハンといえばこのローズ・フランボワーズ・ライチのそれぞれの香りと、すべてが調和した味わいが売りだと思うんだけど、ピエール・エルメの方がより個々の主張がハッキリしてコントラストが強くシャープな感じ、ラデュレの方が互いに柔らかく強調して上品でまとまりのある感じに仕上がってた気がする。
ピエール・エルメはマカロンは硬めで目の詰まった感じ、甘さはほどほどで、ローズの香りがかなり華やか。ガナッシュはラデュレに比べるとチョコレートというか脂肪分の多さを感じてコクが強く、これはライチとどちらに使われてるのかわからなかったけどリキュールかな?洋酒の香りがした。フランボワーズは酸味がしっかりあるタイプで、中央にたくさん入ったライチのおかげもありとにかく3種の個性が全員一歩も引かない!という印象。
ラデュレはマカロンが柔らかめでサクサクホロホロ、甘め。ローズの香りは穏やかで、ガナッシュはミルク感が強い。ライチは少なめで、その代わり周囲のフランボワーズがピエール・エルメよりも一粒多く、中央にも一粒入っている。フランボワーズがかなり酸味控えめの食べやすい食味で、全体的にずっと甘く一体感重視な印象。
ピエール・エルメが原色系のアーティスティックなイラストレーションで、ラデュレはクラシックで雅な額縁入りの絵画という感じかなあ…アーバンなモード系のお姉さんとふわふわのドレスのお嬢様…?なんかピエール・エルメの方がマカロンの断面の色もかなりビビッドなピンクだったし。
これはもう好みの差だな〜と思うけど、どっちもおいしかったので自分はどっちを出されても嬉しいです。
ライチのせいかローズのせいかエキゾチックというかアラビアン…はちょっと地理的にズレてるか?中東?あのへんの雰囲気が思い出されるので、イスパハンというネーミングもオシャレだな〜と思う(ピエール・エルメは薔薇の品種のイスパハンから名前をとったのか、どっちが由来かわからんけども)。
いやしかし本当においしい。誇張表現でなくわりとマジで一人で一度にホール食いできる」
ジャム
「どっちも美味い。本当に美味い。どちらも質が高いからテンション上がった状態で目隠しして食べたら区別が付かないレベル。
それでも冷静になって食べたら、ラデュレの方がクリーム分多めで一つのケーキとしてまとまっている印象。ピエールさんはフランボワーズとライチとローズを一緒に口に入れましたって感じ。
ザッハトルテの時のホテルザッハーのケーキがそうだったみたいに、まとまりの良さよりもそれぞれのパーツがそれぞれ主張してくる方が好みなのでピエールさんの方が好きかな。
スポーツチームで例えたら、各自がポジションごとの役割に徹してバランス良く勝てるチームなのがラデュレ、オールスター軍団で各自が好き勝手にスーパープレイしてるチームがピエールみたいな。
こう言うとピエールさんのイスパハンがバランス悪いみたいに聞こえるけどそんなことは全くないし、そもそもこのフランボワーズとライチとローズの組み合わせそれ自体が奇跡のようにバランスの良い組み合わせだと思う。
正直これだけ上質なものならどちらでも喜んで食べる。
しかし虚無を食っていたのかってレベルで食後感が軽い。これなら一人でホール食いも余裕でできる。次の野望は一人でイスパハンホール食いだな」
流石は有名パティスリーが作った世界の半分。どちらも美味しく大満足の食べ比べだった。
ラデュレとピエール・エルメ・パリ、それぞれの世界の半分を食べたから実質世界の全てを食べたと言っても過言ではないだろう。
世界の半分はイスパハン。もう半分は優しさではなく、やはりイスパハンでできていたのだ。
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