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歩くスキーのメッカ・滝野すずらん公園

 スキーをやっている人間にとって、いろんな意味で、北海道は憧れの地だ。私もその仲間で、今まで何度か行っているが、何度行っても良いものだ。だから、冬になると何とかして行こうと、そればかり考えている。今年も運よく仕事で出張する機会を得たので、帰宅を1日延ばすことを企んでいたら、それを嗅ぎつけた妻が一緒に行くと言い出した。それで、背広姿で2人分のスキーを持って小松空港を飛び立った。
 無事仕事(研究関係の会議)を終えた夜、北大の先生方との懇親会でしこたま飲んで酩酊した頭で、さて明日はどこへ行こうかと考えていたら、妻も本で調べていたらしく「滝野すずらん公園へ行こう」と言う。私もちょうど行きたいと思っていたところなので、すぐに賛成した。と言うのは、どうやら今やここが歩くスキーのメッカになっているらしいからだ。本にも「休日は必ずどこかのグループが歩くスキー大会を開いている」と書いてあった。
 滝野すずらん公園へは真駒内からバスが出ているが、時間によっては札幌バスターミナルからの便もある。朝、あまり早くない時間に札幌からのバスがあったので、それに乗った。平日だからか、札幌を出たときはガラ空きだったが、真駒内で大勢乗って来た。その中にはスキーを担いだ人も何人かいる。もちろんクロスカントリーだ。ケースに入れているので見えないが、いかにも軽そうな板と地味な服装でわかる。案の定、その人たちも終点の“滝野すずらん公園”で降りた。
 バスを降りると、そこはもう雪の原だ。遠くで歓声が聞こえる。スキーを担いだ人たちが行く方向に一緒に歩いてい行くと、歩くスキーコースの案内図があった。初級向きから上級用まで、長短合わせて4コースある。そしてスタートゲートがあって、その脇にワックスルームがあった。ムムッ、プレファブ小屋とはいえ本格的だ。しかも「更衣室はロッジ地下にあります」との看板。見ると、大勢の子供たちが遊んでいる向こうにログハウス風の建物がある。行ってみると、まさしくスキーロッジだ。スキー架も並んでいる。でもここはアルペンのゲレンデではない。これらはすべて歩くスキー用なのだ。中に入ると、1階は食堂兼休憩所で、地下に更衣室とレンタルスキーの受付がある。レンタルスキーは一式1日520円。何という安さ! 手ぶらでバスに乗っていた親子連れがサイズを選んでいる。これならわれわれも無理して持って来ることはなかった。
 荷物をロッカーに置いて、コースに出る。まずは“尾根筋コース”。5キロの初級向きだ。はじめのうちは10キロ・15キロの中上級コースと共通の幅広の緩い坂が続く。登って行くと、中学生らしい集団が下りてくる。われわれに対しても「こんにちは」と挨拶して行く。やはり歩くスキー仲間なのだ。大きくカーブを曲がると視界が開け、目を疑うような光景が広がっていた。いるわ、いるわ。小学生から中学生、一般の愛好者も含めて大勢群がっている。往きと帰りの合流点だった。まるで歩くスキー大会に参加しているような気分で、小学生たちに混じってさらに登ると、大きな建物が見えてきた。頂上の展望台だ。そこにも大勢の人たちがいて、建物の内外で休憩をとっている。見渡すと、周囲の山々の中に見覚えのある藻岩山があった。札幌の街を見下ろす小高い山で、市民スキー場がある。街から歩いても行けるほどの距離だが、そこそこの規模のゲレンデが広がっていて、ここからもピステが白く光って見える。
 展望台を過ぎるとコースが分かれ、初級向きの尾根筋コースはしばらく名前の通り尾根を辿るが、あとは下る一方。やがて合流点に達し、そのまま下ればスタート地点に着く。あっという間の5キロだった。
 児童・生徒たちは帰り支度をしている。時計を見ると、そろそろ昼だ。ロッジに入り、コンビニで買ってきたおにぎりを取り出す。そして、こんな食堂があるならわざわざ買ってくることもなかったと思いいながら、テーブルの上のメニューを見ると、生ビールがある。誘惑に勝てずおでんと一緒に注文してしまうのはいつもと変わらない。窓から裏の方を見ると、テラスの向こうに林があり、別荘にいるような雰囲気だ。
 午後はもう一つの初級向きコースを辿る。“アシリベツの滝”と“鱒見の滝”を往復するのだが、まずは“アシリベツの滝”へ向かう。厚別川に沿った平坦なコースで、以前行った野幌森林公園を思い出す。標識を兼ねたクイズの立札があるのも似ている。しばらく歩くと滝に到着。もっとチャチな滝かと思ったら、結構幅がある。真ん中は流れているが、半分以上は凍っていて氷の壁になっている。
 来た道を退き帰して、ワックスルームの前を経て、今度は“鱒見の滝”へ向かう。やはり川沿いの平坦な道だ。前方の広場に人が集まっているように見えたが、近付くと数体の仏像だった。新興宗教らしい宗派名が書いてある。それを過ぎると、まもなく鱒見の滝だ。ここも半分ほどが凍っている。スケールは同じくらいだが、アシリベツの滝に比べると荒々しさがない代わりに優雅な感じがする。ここでは午前中の尾根筋コースと違ってほとんど人に会わないので、ちょっと寂しい気がする。でも、景色は悪くないし、終点に滝があって、ドラマチックだ。初心者には最高のコースといっても良い。
 そろそろ帰りのバスの時間が近づいている。再び来た道を戻り、ロッジに入ると、朝バスで一緒だった人たちがみんな帰り支度をしている。われわれも急いで着替え、バス停に向かった。真駒内で地下鉄に乗り換え、札幌に着いたのが4時。まだまだ明るい時間だった。

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