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Mr.Children『重力と呼吸』レビュー

ミスチルことMr.Childrenの新アルバム『重力と呼吸』がリリースされた。まだ、何十回も聞き込んだとは言えないが、だからこそ、現時点での印象や熱や様々なサムシングをまとめていきたい。まず、それぞれの曲について雑感をまとめ、総評に移る。


【各曲】
1.Your Song
アルバムは、ドラムのJENのカウント及びシンバルから始まる。ライブ感のある幕開けと言えよう。テンポ的にはゆったりと言えないまでも、比較的どっしりとしたミドルテンポの曲となっている。例えば『I ♡ U』の「WORLD’S END」のような勢いをつけた幕の開け方ではないが、「オォー」という桜井さんの叫びであったり、存在感のあるドラム、ベースが推進力を持ち、聴き手を引っ張ってくれる。
 歌詞としては、25周年を踏まえたこともあり、ファンとミスチルのこれまでとのその仲/何気ない日々を大事にしながら…という感じではないかと。最初の「花吹雪が舞うような~」のところで春・夏は出しているのに、秋・冬が見当たらないのが少し不思議。というか、というか、本来であれば、不十分な作詞ではないのか?その意味を考えるのであれば、まだ四季の中でまだミスチルは秋や冬をまだ迎えてないということか(まだ終わりや「一周目」を終わらせる時期じゃないということの表明?)。


2.海にて、心は裸になりたがる
 もういわゆるビートロックというやつでしょ、これは。これは「若い!」と評したとしても、現代の若者的なアプローチだという意味ではなく、彼らの若い頃的なアプローチだという意味で「若い!」という意味で、ということになるな。最後の転調も来るかな…やっぱり来たっていうアレンジで。ここでも「オォー」つって…なんて、ちょっとダサさみたいなものを感じつつも、本作の中でもかなりお気に入りの一曲。突貫力のある曲調もそうだが、何と言っても歌詞がゾッとするほど素晴らしいなと思うわけです。
 まず「重箱の隅をつつく人 その揚げ足をとろうとしてる人」という部分、よく"その"を入れず「他人のことを腐す人」として述べられる代表的な存在として歌詞に登場する。しかしながら、それというのはすでに苔むした「翼を広げて」な表現となっている。現在はその中での腐し合いが生じている(と桜井さんは感じている)のである。
 そして、サビのタームの「今心は裸になりたがっているよ」を中心としたの前後半部分。前半部分は、なんだかんだ言う存在も実は…ということについて述べている。ここまではまあ書く者もいるだろう。でも、俺がゾッとしたのは後半部分の「~なあなたにも ほら世界は確かに繋がっているよ/きっと世界はあなたに会いたがっているよ」。「~なあなたにも」の「~」の部分には比較的ネガティブな言葉が並ぶ。そうしたら、次には「そのままでいいのか?」などというその有り様を批判した内容や疑問として投げかけ内省を促す文句が来て然るべきではないだろうか。しかし、この曲では「世界」がそんな「あなた」と関わろうとしているのだ、と訴えている。それはある意味とても恐ろしい現実の突きつけである。「世界」にどんな態度を取ろうとも生きていく限りは「世界」と関わらなければならない。そういった状況を単純につきつけ、「繋がっている/会いたがっているよ(だけど、あなたはそのままでいいと言うの?)」と言外に忍ばせているのではないか。「あなた」は「心を裸」にすべきだし、前述のような態度というのは実は「裸になりたがっている」ことの裏返しじゃないの?と言っているのでは…と深読んでしまった…。いやあ…。


3.SINGLES
 これもベースがブリブリと主張していて。跳ねるドラムが勢いをつけている。前作の曲で言うと、「斜陽」と「fantasy」の中間のようなリズム。サビの追っかけてくるコーラス「幸せ(幸せ~)」的なのは無い方がスタイリッシュな気が…と思わなくはないけども、こういうマイナーな感じのサビもイイすね。「言い聞かせ」「幸せ」の押韻も好き。
 歌詞はもう、二番サビの「守るべきものの数だけ 人は弱くなるんなら 今の僕はあの日より きっと強くなったろう」という部分…!!それまでの流れから「君」がいなくなったことを受けて、こう述べているという話であろうけど、それにしても!強くなり方が…!
 そう、(個人的な)キラーフレーズがこれであり、ふと見れば、この曲の詞、全体的に物悲しい。具体的には「君がいなくなった今、口笛吹いて、色々思い出したり、僕にとって君とはと考えたりもするけど、僕(君)が僕(君)であるために進まなくてはならない」という物悲しさであると思うが。
キーワードとして「口笛」が出て来るわけだけども、検証は細かにしないが(そこまでする気力はまだない)この曲、「口笛」の後日談(バッドエンド)?姉妹曲?オマージュではないか、と思ったりするのです。
また、「SINGLES」というタイトルは、「僕」と「君」という複数の「シングル」を歌ったものという意味合いでも取れるが、もう一つ、過去の自らのシングル曲(特に近年演奏してる)のオマージュという意味もないか?「口笛」もそうであるし、「寂しさっていう名の歌を歌ってる」って所は「名もなき詩」のあの早口の所を意識してないか?と結び付けたがってしまうのでした。


4.here comes my love
 ピアノから入って、ミスチル王道のバラードな部分も多分にあるけど、ドラムの音が強めになっている。サビはストリングス入るけど、そこまではピアノが切なさを担保させつつもギターでガッと押す力強さがある。こういったラブバラードものにおいても甘くさせ過ぎない所が新しい所だなと思う。配信時点でQueenぽいという呟き見たけど、ギターソロはモロだし、二番のサビ前とかにもそのニュアンスが多分に感じられるな。80年代洋楽からの影響は大きいだろうし、そういったのが出てもおかしくない…というか、これがコバタケアレンジだったら出ない、彼ららしさ(ルーツである80s)なのかも、と思ったり。(前曲のサビの「僕が僕であるため」は完全に尾崎豊「僕が僕であるために」と重なる!(カバーもしている))
 歌詞については、あんまり触れるところがあるかと…という感じではあるのだけど、一番で「君に辿り着けるように」という部分が最後には「僕ら辿り着けるよね」と変化している部分は、流石だなと思うとともに、こういう部分って、ベボベ小出さん上手く引き継いでいるよねーと思ったりもしつつ。


5.箱庭
 アルバムの中でも短い曲の一つ。で、かつ、ブラスがフィーチャーされてるのが特徴的な一曲とも言えよう。「エソラ」の時のように華やかさを持たせるため、というより、独特のいかがわしさのようなものを感じる。暗いと言うよりも、少しおどけたような明るさがある曲ではあるが。
 明るい曲調に、暗い/切ない/悲しい歌詞を乗せて歌う、というのは「ヒカリノアトリエ」の隠しトラックとして入れられていた「Over」もそうであるが、ミスチルの得意技の一つであるが、この曲もその中に並べられるべき一曲と言えないだろうか。
 「いつの間に過ぎ去っていた誕生日 祝ってくれる人がもういないことを知る」という歌詞は、ピアノの弾き語り的な静謐な曲に乗せるより、このようなブラスでコーティングした明るさ・おどけた感じを持った曲に乗せられた方が聴いてハッとさせられないだろうか。この引用した部分というのは、二段階で悲劇性を感じさせる。①これまで祝ってくれた人が何らかの理由で目の前からいなくなってしまっている。②自分を祝う存在のない誕生日を過ごしている(ひとり暮らしなら、ままあるとも言えるのか)。という二段階である。この悲しみの二重奏よ。

6.addiction
 イントロのピアノの跳ねたリフレイン、ちょっとSMAP「SHAKE」みだったり、ゲス感もあらんかと思いつつ。全曲同様、ブラスが要所で存在感を見せる。速いアコギのストロークも後ろの方で鳴らせつつ、基調となるのはバンドサウンド。ファンキーさがあるというのだろうか。
 タイトルは「中毒」などという意味の英単語であるが、サビの詞はまさにその様相で。「window に映り込んだ男は今 無表情を決め込んで自分を圧し殺してる」という一節には「innocent world」を思い出し。感想に乏しいけど、何気にかなりお気に入りです。


7.day by day(愛犬クルの物語)
 もうね、てっきり「ヒカリノアトリエ」が入らない分、この曲でウォームでソフトでポップな側面見せると思いきや、エフェクトが効いたベースとアメリカンなギターから入り込むという何ともロックな一曲。サビは突き抜けるような「デーイバーイデーイ」で。テンション上がらざるを得ないでしょ、これは。
 この曲も、歌詞は中々悲しい姿を描いているな…。「クル(来る)」は「主人」と二人で、もう来ないであろういなくなってしまった「綺麗だったあの女性」について、「今なお帰りを待っている」という…。「もう来ない」であろう存在を待つ「クル(来る)」…愛おしさを深めながら日々を主人と補いながら暮らしていっているという…ちょい、待て、涙出るやつかよ。


8.秋がくれた切符
 「here comes my love」はラブバラード的であるが音はかなりロックエッセンス詰め込んだ曲だった。この曲は(おそらく意図的に)これまでのあの曲、この曲を想起させるようなかなりスイートな感じのアレンジと歌い回しになっている。それを「ハイハイ、いつもの感じね」と切り捨てられるか、というとそうではない。まず、本作の中でも唯一といっていいバラード曲と言える。総評で述べるが、本作は疲れるくらい熱量が音や曲調、ボーカルに込められている。その中で、小休止できるのがこの曲と言えよう。しかも、必要以上に感情的ではなく、サラッと聴き通せることができるのは魅力的だ。
 ふとしたことに意味を見い出すというのは、ミスチル的な作詞ではないかと思うし、ふと落ちてきた落ち葉が「神様がくれた切符」ではと考えるのもその中に位置づけられるものといえよう。また、冒頭で「カーディガン着た君の 背中見てそう思う」だったのが、最後に「寒そうにしてる君に 駆け寄り手を繫ぐ」となっており、視覚から感じられる温度(「カーディガンを羽織る様子=暖かい格好」→「寒そうにしてる君」)の変化と、距離の変化をサラッと描いているのは巧みだと感じた。


9.himawari
 この曲出た時テンション上がったなあ…もう、個人的にはミスチルの曲の中で10年代では一番イイ曲なのでh(「擬態」…「fantasy」…etc.)…と言いたくなるくらいの一曲ですよね、ホント。6分近くあるのに、メロディの強さゆえか、ストリングスの勢いに引っ張られてるのか、全然長く感じない。ギターも既存の楽曲からは想像できないほどに前に出てて!で、このアルバムに収録してある「himawari」は、シングルのこれとは少しマスタリングなのか録り直し(特にボーカル)なのか、リアレンジが施されている。細かくは誰か…でも、アルバムの方が少し淡白な感じというか、シングルの方が歌唱も演奏もエモーショナルなように感じられた。
詞も「思い出の角砂糖」の件とか冴えまくってる…。詞では、あと「諦めること~」を受けて最後のサビが「だから」って始まるのが震える。こんな生き方してる「僕」だから「君」に恋してたし、ずっとどうだったんだろうかっていうね…。何が続くんだろうかね。俺はちょっと邪な予想もしてしまう。


10.皮膚呼吸
 最初は前作収録の「街の風景」(割と好き)のようなテイストの曲かと思わせられるが、サビで爆発する。このバンド感というのは最後の最後までプレゼンテーションされるべき要素だということだろう。四人の演奏もそうであるが、この曲に置いても世武さんのピアノがイイ存在感を放っている。
 もうハッキリいって「ミスチルらしいミスチル」をやれば、多くの人は満足するだろう。けど、本人らは「それで満足ですか?」とインナーボイスに奮い立たされている。この25年以上の日々で取り入れた全てを生かして姿を変えながら、自分を試し続ける姿…応援せずにはいられなくないか…。こういう決意表明的な詞で終える所に、「その先」が感じられてとても好感が持てる。


【総評】
 総評…といっても、何かまとまらないので、思う事を箇条書き的にまとめていきたい。

・今作は前作『REFLECTION』の一部分に集中した作品ではないか。
 タイトルが漢字だから『深海』の続編では…などという呟きも散見されたが、個人的には本作は『REFLECTION』の「叫ぶ」「四人のバンドサウンドを基調とする」という点にフォーカスを当て、制作をしたものだと思われた。それを思うと「未完」をテレビでよくやっていたのは、「次のミスチルはこう行きます」というアナウンスの意味もあったと言えるかもしれない。『REFLECTION』を聞き返してみると、いかに本作で鳴らされてる音の太くタフなことか。

・歌詞の悲しさ成分が濃厚
 どこに、という話はこれまでに散々しているので、割愛させていただく。そして、この特徴を見い出した際、ベボベ小出さんの「himawari」リリース時のツイートをおもいだした。まさにこういう境地の筆さばきではないか。Yahooのインタビューには、歌詞について中々唸らせることが書いてある。「淡白な言葉」であっても、それが何を意味するかということまで味わっていきたいものです。歌詞が難しいと言う反応があって…という話ではtofubeatsの最新作のインタビューが思い出されるし、「自分の内面を掘り下げればマスにたどりつく」という考えについては、いつだった(『二十九歳』らへん?)かベボベ小出さんも言ってたっけ。

・四人のバンドサウンドを基調とした理由
 それはもちろん『REFLECTION』の制作、それまでの四人の関係性、25周年ツアーといったところが要因として挙げられるだろうが、関ジャムのミスチル特集がほぼ「桜井和寿特集」な語られ方しかされてなかった点にもあるのではないか。(ヒカリノアトリエツアーに参加したチャランポランタン小春さんのみバンドとしてのミスチルに言及)バンドとして25年以上やってきたんだ、という強烈な声明なのではないだろうか。

・ミスチルとロック
 個人的な…何とも言語化しえない感覚の所ではあるけど、ミスチルは、どれだけ激しい音像や歌詞だろうと、「ロックバンド」と言うのは憚られる。「ライブバンド」であることは間違いないし、その点での強靭さは様々な映像が物語る所だと思えど。

・現時点での個人的な評価
 先述の要素に集中したミスチルはここまでの熱量で迫って来るのかと驚きと、これからの期待が募ってしょうがない。少しの軽みと爽やかさを持った曲も聞きたかったし、「ヒカリノアトリエ」の方向性のものを聴きたかったのも本音で。でもそれらがないからダメとはならない。これはこれでイイィじゃん!!とアガるし、次は次は?と期待できる。こんな気持ちにずっとなれたらいいなあ。

・潮流とミスチル
 本作のような音像や曲のスタイルというのは、ミスチルのヒストリーの中ではまだなかったもので、その意味で新しい所に足を踏み出したのは本当に素晴らしいと思う。でも、例えば、俺で言うとceroの『Obscure Ride』以降の、今年で言えば『POLY LIFE MULTY SOUL』、「Waters」を聞いた時の「し、知らない…この感じ…でも…スゴイ!!」というのは、ミスチルでは味わうことがあるのか?と思う。
 そういったは他の所で味わえばいいものであって、例えば、ミスチルが今からリアルタイムのヒップホップに接近したとて、魅力あるか?というと…よく分らない。そういった疑問は、モヤモヤとまでは言わないまでも、どういう風に感じられるのかなと思ったりもした。
一方でこの50分を切る収録時間のコンパクト化は、前作の反動があるとはいえ、現代的な判断だな(結果としてそうなってるな)と思う。また、バンドがどういう音を鳴らすべきかが難しい問題となっている今、ミスチルというベテランのバンドが「俺たちはこうだ!」とクリアで生々しい音を以て宣言したのは非常に意義深いのではないか。
と、ゴチャゴチャしつつ苦笑

あー、文章だけで!!!終わり!!!

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