見出し画像

詩)緑の音

生きるということ、それは
全ては選びきれないということ。

生きるほどに
選んだものよりも
選ばなかったものが
増えていく。
残酷なまでに
鮮やかに。

あなたの生はつまり
青々と繁る木のようなもの。
芽が出て、ふくらんで、
幹が伸びて、枝分かれ
その先ひとつにしか
私たちの生は実らない。

あっちの枝には青く美しい葉が、
そっちの枝には玉のような実が、
はて、自分の枝には一体何が?
そんな目移りに
人はつい一喜一憂、するのです。
ありえたはずの人生に
水面に波風、たつのです。

そんな時には、聴きましょう。
葉擦れの音を、聴きましょう。
愉快ではないさ。
ちょっと哀しい旋律さ。
でもその葉音に、
あり得たはずの人生たち、
そのひとっつひとっつが織りなす
深々とした緑のハーモニーを聴くでしょう。

マエストロはあなた。
そう、震えるような今この時を生きる
あなた。
あなたがいるから、いてくれるから、
今日も葉擦れは緑色。

風が吹く
葉音がする
耳が緑に満ちる
脚が緑に染まる
だから行きましょう
風の行く先に。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?