読書録/良い経済学 悪い経済学
「良い経済学 悪い経済学」
ポール・クルーグマン著 山岡洋一訳 日経ビジネス人文庫
たまたま書店で「クルーグマン教授の経済入門」という本を手に取って、経済のことはまったく分からないのでこういう本でちょっと知ってみるのも良いかも、
と思って読んでみたが、おネエ言葉のような翻訳が気持ち悪くて、なかなか読み切ることが出来なかった。そんな折り、「この本は面白くて、翻訳もまともだよ」と薦められたのが、本書である。
クルーグマンはノーベル経済学賞を受賞した経済学者で、名前だけは私も知っていたが、この本は初版が1996年、1990年代の世界経済をめぐる論調から、当時主流となっていた、俗流国際経済論を、正統な経済論によってびしっと斬る、という内容で、現在とは国際情勢や経済状況が変わっているので、ある意味「一昔前」を感じさせるところがないわけではない。
けれども、彼のいう「俗流国際経済論」しか知らなかった私には、目からウロコで、これは読んで良かったと言えるものであった。
私が「目からウロコ」だったのは、まず、国と国とは、企業と企業とが競争しているように競争しているわけではない、ということ。中国や韓国との輸出「競争」で日本は敗北して、経済大国の座から転落した、という印象は貿易「戦争」という考え方からきているが、日本経済が行き詰まり、弱体化しているのは事実としても、それは、中国や韓国との貿易「戦争」に負けたからではない、ということなのだ。経済成長の問題は、国際的な競争力とはほとんど関係がなく、あってもとても小さいものだ、という論説は、世界の見方を変えるものだった。経済成長のために見なければならないのは「雇用」と「賃金」、そして「生産性」であって、貿易黒字ではないのだ。
しかし、雇用や賃金の問題は、昔からあって、地味である。しかも、結構複雑だったりする。それよりも、新興国との貿易競争という切り口の方が、単純で分かりやすく、しかも危機感をあおるではないか。メディアは、このように「複雑」で「一般受け」しないものよりも、実はそんなに正しくないけど「単純」で「分かりやす」く、なにより「インパクトがある」ものを誇大に取り上げがち。そういうところで、私たちはいろんなことの判断を、見誤ってしまうのだ。
経済学にまったく縁がなく、どういう理論があるのかも知らない私には、説明されてもよく分からないところもあったが、それでも、クルーグマンが伝えよ
うとしていることは理解できた。とくに第8章の「大学生が貿易について学ばなければならない常識」は分かりやすくて、良かった。9章の「常識への挑戦」は講演の書き起こしで、内容は古いものだが、「自由市場と通貨価値の維持」という常識に対して、どういう見方をし、どう対処すべきかというところが分かりやすかった。
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