読書録/反省させると犯罪者になります
「反省させると犯罪者になります」 岡本茂樹 新潮新書
「えっ? なんだって?!」と思わず二度見してしまうようなタイトルだが、読んでみて深く納得する内容だった。著者は立命館大学産業社会学部現代社会学科の教授 で、受刑者の教育プログラムについて、ロールレタリングの効果を研究している。ロールレタリングとは、犯罪者が被害者や迷惑をかけた身内など、相手の立場 にたって手紙を書くことで、自分の犯した犯罪に対する罪悪感を感じさせ、反省させるという手法である。著者は、現在刑務所で広く矯正教育として行われてい るこの手法を、批判的な立場から分析し、タイトルにもなっている「反省させると犯罪者になる」という主張を導き出している。本書では、著者がそのように主 張するに至った経緯を、わかりやすく実例を挙げながらまとめたもので、読めば誰もが納得し、人が何か悪いことをしたとき、そのことを顧みて罪悪感を抱き、 悔いて反省し謝罪の言葉を口にするまでに至る心の動きを追いながら、「反省」のプロセスにおいて、人が感情を分かち合い、受容されることの大切さを訴えて いる。
実際に受刑者との面会を通して、著者は受刑者が例外なく「反省文を書くのが非常にうまい」ことに気付く。そして、個々の面談を通 して、受刑者が犯罪者になる以前から、家庭や学校において、何度も何度も「反省」させられてきたことがわかるにつれ、矯正教育が「反省のポーズ」を取れば それでよし、という形骸化したもので、人の心の動き、感情といったものを無視した形式だけのものになっていることが明らかになってくる。犯罪者は例外な く、「なぜ」そんなことをしたのか、そのとき「どんな気持ち」だったのか、といった受容的な態度で接してもらった経験がなく、自分の気持ち、素直な感情を 否定的な態度や言葉なしに受け入れてもらったことのない人たちであった。
そこで著者が、ロールレタリングについて「相手の気持ちを考える」ことでなく、「自分の気持ち、感情をまず正直にあらわず」ことに焦点をあてて行ったところ、受刑者の心に劇的な変化が現れていく。
これは何も、犯罪者に限ったことではない。私たちは、自分の感情を正直に言い表すことに、みなためらいを覚える。それが否定されたり、批判されたりするこ とによって、幼いころから何度も、傷つき痛い目に遭ってきたからである。そうすると、自分の「内面」について無視したり、感じないようにしたり、感じてい ることを表に出さないようにするという処世術を学ぶのだ。そういう習慣に慣れ親しんでしまうと、押し殺している感情に満ちた自分の「内面」を見つけるこ と、それを表現すること自体が困難になってしまう。しかし、著者はいう。そうして溜め込まれた攻撃性が爆発して外へ向かうと殺人となり、自分の内側へ向か うと欝になる、と。
「悲しむ者は幸いです。その人は慰められるからです」(マタイ5:4)。
聖書の言葉は矛盾に満ち ているように思えるが、こうしてみると、そこに真理が語られていることがわかる。自分の感情に正直であるならば、慰めを受ける。真の不幸は悲しみが「あ る」ことではなく、悲しむ心を受け止めてくれる人が「いない」ことなのだ。受刑者の悲しみに満ちた人生を、著者が受け止めたとき、受刑者は形式ではない心 からの反省文を書くことができたのだった。
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