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読書録/キッチンの歴史 料理道具が変えた人類の食文化

「キッチンの歴史 料理道具が変えた人類の食文化」
ビー・ウィルソン著 真田由美子訳 河出書房新社

 もともと歴史が好きな私だが、ときどき、いわゆる歴史学者が書く歴史本とはまったく違った視点から歴史をひもとき、そこから人類のこれまで思いもよらなかった歩みや存亡があったことを明らかにしてゆく本がある。最近の私的な大ヒットは、進化生物学者のジャレド・ダイアモンドが書いた人類史の本「銃・病原菌・鉄」、そして「文明崩壊」のシリーズだ。
 本書も、「銃・病原菌・鉄」と同じく、たまたま書店の店頭で目に留まって「面白いかも」と思って手にしたのだが、予想を超える面白さと深みがあって、一皿一皿、料理を味わうように楽しむことができた。

 本書では、鍋釜、ナイフ、火、計量、挽く、食べる、冷やす、キッチンという8つのテーマから、料理道具の進化と食文化との関わりを読み解いている。本を開いてみるまで、これまで歴史についていろいろかじってきたけれど、そういえば、キッチンにガスレンジや冷蔵庫がなかった時代に、どんなふうに、どんな料理を作っていたか、ほとんど考えもしなかったことに気がづいた。包丁やまな板、鍋やフライパン、それに食べるための箸、フォーク、スプーン、ナイフなど。そうしたものは、人類が新しい材料(土器、鉄、ステンレス、その他諸々)を手に入れ、技術を発達させてはじめて、キッチンで使われるようになったものだ。しかも、食べることは生きることの基本であり、調理の仕方、食べ方はライフスタイルはもちろん、物資の流通や人間の体そのものさえ変えてしまうものなのだ。キッチンという、なくてはならない身近な生活の場の中に、大きな人類の発達史を見いだし、描き出したその視点に、わくわくしながら読み進めることができた。

 例えば鍋釜の項では、その歴史は縄文式土器にまでさかのぼる(日本の縄文式土器は、世界最古といわれる土器の一つだ)。鍋釜によってはじめて「ゆでる」という調理法が発見され、西洋料理と中華料理の調理と食事作法に対する捉え方の違いは、骨格の違いにまで影響を及ぼしていた。まさに人類は、料理とともに発展してきたということに、今更ながらに気付くのだ。

 そんな偉大な人類の発達史が、どこの家にもあるキッチン、そこに並ぶありふれた道具の一つひとつに隠されている。本を読み終わったあと、なんだかもっと、いろんな道具を揃えてみたくなったのは、きっと、私だけではないだろう。

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