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読書録/もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

※これは、2010年12月に書いたレビューです。ブームになっても後に残らない「空虚感」が、今読むととても伝わってくるので掲載しました。

「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」岩崎夏海著/ダイヤモンド社

 2010年のベストセラーということで、「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んでみました。

 ドラッカーの著書『マネジメント』の入門書かなーと思っていたら、本の帯に「青春小説」と紹介されていたので、小説と思って読んだのですが…。文章は良く言えば簡潔で、読みやすいです。でも最初の数ページ読んで「え? これ台本?」と思っちゃいました。なんだか、小説というより、ゲームみたいに話が進んでいきます。

 この本のタイトルを見て私が興味をひかれたのは、高校野球の女子“マネージャー”が、経営管理という本来の意味での“マネジメント”に出会って取り組む、というところ。部活におけるマネージャーが、本来の英語の意味のマネージャーとはかけ離れた役割であることは、だいたい日本の中では広く常識になっていることだと思います。そのギャップに目覚めて驚き、部員を補助する雑用ではなくて本来のマネジメントに取り組むマネージャーになりたい、というある種の覚醒が、一つのカギだと思うんです。発想のおもしろさは、ここにあると思ったんです。

 でも、作者の筆力不足なんでしょうか、その発想のおもしろさがキャラクター造形やストーリー展開として活かされていないように思いました。実際の雑用係としてのマネージャーの日常や、そのことに対して主人公のみなみがどう感じていたか、ということは特に言及されておらず…。小説としては、リアリティーを感じさせる描写が足りないなー、と思いました。

 面白さというのは、やっぱりドラッカーの『マネジメント』を都立高校の野球部にどう適用していくか、というところでしょうが、引用ばかりで、退屈です。野球部で何か問題が起こると、みなみは『マネジメント』の本を読んでヒントを得、見事解決へ導いていきます。その姿は、信者のようです。おかげで弱小野球部がみるみる活性化し、活気あふれる組織になっていくのですが、どうも、主人公のみなみさんはそのことに対して特に何の感慨も抱かないようです(その理由は、 終盤明らかにされますが、ちょっと「えっ?」と思ってしまった)。

 作品としては、青春小説としても野球小説としても物足りず、やはりこれは、「高校野球」「女子高生」といった大衆に人気があってわかりやすいアイコンを用いた『マネジメント』の紹介書、という内容にとどまっているなあと思い ました。『マネジメント』を広く一般に紹介する、という意味では価値ある一冊といえるでしょう。発想がおもしろいだけに、それだけにとどまっているのはもったいないです。もう少し野球に詳しく、筆力のある書き手に書いてほしかったなーと思います。
 でも逆に考えると、このレベルの文章でなければ本を読めないほど、一般の人の読解力は落ちているのだろうか? そう思うと心が寒くなりますが…。

 ちなみにAKB48前田敦子主演で映画化されるそうです。著者の岩崎夏海という人は、元放送作家でAKB48のプロデュースを手掛けた(秋元康に師事)とプロフィールにあり。こういうところは、きっちり仕込まれているのねえ…。もしかして「顧客」にされちゃった?


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