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コーヒー

喫茶”佳寿”のマスターが亡くなってもう数年になる。美味しいコーヒーが飲めなくなったと心から絶望した。

彼はコーヒーの豆を種類別に浅焼き、中焼き、深焼きと3種類に焼きわけ、それを粗挽き、中挽き、細挽きと挽き分け0.5g単位で計量し、微調整をしながら適量を混合しサイフォンで引き上げ、秒単位で温度調節をしながら攪拌回数を何回と明記したメニューを使用していた。

つまり私の顔色を見て体調を考えて、その日の飲みたい味を調節してくれて、外したことがない名人だった。

彼はやはりネルドリップを愛していたのだがネルの保管が難しく、すぐ異臭がこもってしまうので悩んでいた。紙フィルターは論外で、紙臭くなりコーヒーの旨みを吸い取ってしまうので極端に嫌っていた。やむなくネルの面積が小さいサイフォンを使っていたのだが私が最近手に入れたこの金属フィルターを知ったらどんなに喜んだだろう。

私も、自分でコーヒーを淹れる時のフィルターに悩んでいた。ネルは素人には無理、紙は臭い、セラミックはコーヒーが死んでしまう、18kはカスが一緒に出てしまう。いっそトルココーヒーにして、上澄みだけを飲もうとしたがあの細挽きの味があまり好きでない。

このステンレス2重メッシュのフィルターを見つけた時もあまり期待はしていなかった。最初の1杯は金属臭くて飲まずに捨てた。気を取り直してもう一度淹れ直した時に驚愕した。あのマスターの味には及ばなくても最高のコーヒーが家で飲める。妻もこの豆を中粗挽きにして淹れるコーヒーがお気に入りで外では飲めなくなったそうだ。日本の技術は素晴らしい。

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