見出し画像

雨龍

龍笛のお稽古を受ける機会をいただいた。私の龍笛は古いもので太管である。通常の鞘に収まらないので特別製のケースに収められている。保管状態が悪く30年ほど放置していたのがよくなかったのか細いヒビが入った。近所に宮内庁楽部指定の笛師がいらっしゃるので修理をお願いした。とても大事にしている笛なので日常の管理をするために構造を知りたくなった。

修理をしてみれば構造がわかると思い、古くて割れのある管をネットで探した。適当なものを落札したが送られてきたものを見てあまりの状態の悪さに愕然とした。割れが13箇所もあり、籐も解けたり千切れたり、漆の状態も良くなかった。蜜蝋も干からびていて役目をしていない。

早速本漆と膠を手に入れ蜜蝋を調合して修理に入ったがそれは大変な作業になった。籐を剥がすと急に雷が鳴り雨音が始まった。このままの状態で締め付けると割れが発生する可能性があるので一昼夜湿度を与えることにした。湿度が廻ると管が膨張し具合よくヒビが隠れた。はみ出した膠を拭き取りバインダーで巻き締めた。外では雨が止むことなく土砂降りであった。
もう一晩、締めたまま乾燥させることにした。連続して雨は降り続け豪雨となり災害警報が出た。

笛の状態が良くなったのでバインダーを外し籐を巻くことにした。巻き終わって蜜蝋を取り替えたら立派な姿になった。細管だが歌口が大きくハリのある音がする。430Hzに調整されているので明治以降の作であろう。偶然であるが笛の修理完成と同時に雨が上がった。

今年の灯籠流しは晴天であった。演奏準備中に修理済みのこの龍笛が鞄の中にあったので試しに吹いてみた。曲ではなく音出し程度に。いきなり雷が鳴った。青天の霹靂である。偶然である。不思議な偶然である。

この龍笛の銘を決めた。『雨龍』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?