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自由なる香水のフィーリング-BASTILLEディスカバリーセットを試した-

先日2020年生まれの新しいブランドがNOSE SHOPに加わり、その《BASTILLE》というブランド名、そしてその由来にまず惹かれた。

秘密のベールに包まれている旧態依然とした香水業界の悪しき慣習を打破することをミッションとして「自由なる香水」という概念を掲げ、貴族と教会による封建的支配を打ち破ったフランス革命の象徴である「バスティーユ牢獄」の襲撃になぞらえて、ブランド名を「BASTILLE(バスティーユ)」と制定した。

NOSE SHOPより

近代贔屓としては結構刺さった。
6種類の香りのうち半数以上が気になったため、ディスカバリーを手に入れ試したところ。

全体として、香りごとのキャラクターもはっきりしているしそれぞれ結構ひねりのある香りだと感じるけれど、なおかつ全部いい意味でライト。あんまり何も考えずにシュッと系だと思う。ブランドの方針に適っている。

HORS-PISTE オーピスト

ジントニックのシャープさを野生味のある蜂蜜、あるいは野の花のようなややざらりと手触りのある甘みが追う。そのあとオレンジがぶわっと立ってジューシーに。
日本なら夏の夕方に合いそう。
当初の予測通り、私の肌ではキレイに出ないタイプで肌乗せはしていない。
2時間後のムエットにはオレンジの甘みがよく残っていた。

PLEINE LUNE プレインリューヌ

苦みの柑橘のすぐ後ろにホワイトフラワー、からスタート。
ほどなく柑橘が遠ざかり、背後に回って月光のイメージに。真正面でジャスミンやチュベローズがわさっと咲いているような濃厚な香り立ち。生花の湿度というか生命感を肌に思い出す。
その向こうにウッド系の甘みがあって、情景の奥行きのようなものを感じる。

この香りは名前と写真が好みだったのでぜひ好きになりたかったのだが、Fragranticaのバーの色調見ただけで多分無理だなと悟った。かなりネロリだしかなりチュベローズ。どちらも肌に合わないのだ。
【月】と名の付く香りってこの方向性の多くない? 結構振られる率が高い。愛しているのにな。

DOMAIN PROMIS ドゥマンプロミ

甘めのフレッシュなスパイス感からスタート。シナモンがピリッと来て好きだ。すぐにまろやかになって、甘くほんのりスモーキーというか不透明とざらつき感。セージの清涼感で軽やかさがある。
ほどなく、ベチバーの乾いた草/土 感が甘みに溶けてふんわり拡がっている。なかなかセンシュアルな部類かもしれない。サンダルウッドの下支えを結構感じる(木寄り)し、スモーキーさもしっかり感じるけれど気楽につけられる雰囲気。
ベッドの中、雨の降る秋の日、晩夏の夜、早春の朝…みたいなシーンが浮かんだ。

結構好きだったので肌乗せしてみたが、やはり私の肌だと甘みがベタッとダレて来て輪郭が崩れた。ムエットの時点で甘めの香りは大体行き過ぎてしまう。残念無念。

RAYON VERT レイヨンベール

最初はあちこちに花の咲く草原を、光を浴びながら歩いているような感覚。そこからグリーンはグリーンでも薬草酒のような、結構捻ったスパイス感が出てくる。
そして苦みとやや辛みのようなニュアンスの奥からサンダルウッド。
事前情報ではもっともっと苦手そうだったが、意外と甘めにとろけるかも知れないので肌乗せすることに。

やっぱり花も消えてしまいひたすら草原からスタートになった。タイトルが《Vert》なのを覆すのは難しいよねそりゃね。
かなりアニスでその奥のキャラウェイもわかる、ここはすごく好き。好きなんだけれど、同時に別の緑が伸びてくる。あくまで緑だ。緑だった。

一般的にはかなり晴れやかな香りだと思う。薬草酒っぽさがしっかりしていて、シンプルな昼間用というよりはやや幅を感じる。

UN DEUX TROIS SOLEIL アン ドゥ トロワ ソレイユ

スッと一瞬ライトな柑橘が過り、アーモンドが鼻に届いた。
そこからすぐエレガントなヘリオトロープとグルマンな甘み。ほんのりくぐもったような気配。
春の気怠い生温かさとか、夏の終わりの肌寒い夜なんかに合いそうなノスタルジックと少しのメランコリーのようなもの。寝香水に向きそう。

この香りはヘリオトロープとアーモンドがどれくらい出るか、が個人的に鍵だった。両方香水としては苦手に転ぶことが多い。
アーモンドは杏仁の青っぽさがあるもの、他要素とブレンドされていて気になるほどではない。ヘリオトロープは花蜜感がヴァニラと溶け、パウダリー方面はライトなお香っぽさにつながる。
Fragranticaのバーの色調からは『アーモンドさえクリアすれば好きそうだけど甘くなりすぎてダメかもな』という予測だったが、しっかりお菓子っぽい甘みがありつつ軽やかな仕立てなので『アリ』になった。
なんとなく、定期的に欲しくなりそう。

余談だが、フランスだと本当に子供時代の象徴としてマドレーヌが配されるんだなと公式写真を見て謎の感慨があった。

BATAILLE バタイユ

事前調べで本命だったのはこの香り。構成などを見る限り好きな予感しかしなかった。
香りのコンセプトを踏まえると夏に使いたい香りだったので、その辺が要検証という感じ。

スーッとしたサフランとジンジャーに、ウッドがすぐ後ろから。
ほどなく甘みに幅が出てきて、そのあたりから一気に川幅が広がるような香り方。苦みもあるさっぱり感でやっぱり好き。
肌に乗せるともっと重層的になる気がする。
結構スパイシーでありつつ、つけ易い軽やかさ。
『熱さと冷たさ』ね、あーわかるわかる。となったけれど、それが何のどういう香り方に拠るものなのかは私の鼻では説明が出来ない。
何となく、日本の爆裂湿度の夏にも合いそうな気がした。

すぐ肌乗せに移った。
ハーバルな清涼感と共に昇り立つウッディ&アンバー。私は体温が高くおそらく平均より香りの立ち上がりが早いのだが、この要素の両立はちょっとウヌタマンと同じベクトルを感じる。ウヌタマンほどの濃密さではないものの、その官能性も含めて。
そして肌の上だと一気にスパイスが燃える。熱気だ。途中から華やぎも増して、そのあと甘いパウダリーになってきた。どこかノスタルジックな香り方。
いいんじゃないかなこれ。やはり事前予想は当たっていた。

それで、公式ディスクリプションがどうにも某映画を想起させるんですけどね、偶然でしょうか。


以上《BASTILLE》の感想でした。



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