『カービィのエアライド』のシティトライアルは現代バトロワだった説
約20年前、私たちはよく誰かの家に遊びに行って、紫に塗られた正六面体のゲームハード、つまりゲームキューブに、その大きさに見合わない小さなディスクを入れて遊んでいた。
そこで今では顔も朧げな友と分かち合ったのは、『大乱闘スマッシュブラザーズDX』という今なお愛される最速の2D闘争だったり、『スターフォックスアサルト』という地上に降り立ったパイロットたちの泥臭い撃ち合いだったけれど、何より印象深いのはピンクや、グリーン、ブルーの丸い宇宙人を星型の乗り物に乗せて、左手の親指で(人によっては右手の掌で)グリグリとスティックを回した体験、すなわち『星のカービィ エアライド』だった。
今でも『エアライド』は不朽の名作であり、今すぐ現代に蘇らせるべきだという声は大きい。
しかしそれは、単なる懐古主義、思い出補正の類に過ぎないかも知れない。事実私たちはたくさんの「リメイクを作れ」と要望を出しておきながら、いざ発売された頃には忘れ去っている、という図々しい記憶が度々ある。
『エアライド』はそれともおっさんの思い出の中でのみ生き残る駄作なのか?とんでもない。本作には現代の潮流、バトロワとして解釈したとき、独自に興味深い内容だったのである。
『エアライド』がバトロワである理由
カービィのエアライドはそのタイトルからも察せられる通り、ハル研究所の桜井政博が築き上げたゲームシリーズ『星のカービィ』の、レースゲームを模したスピンオフとして開発された。
加速、最高速、耐久力、飛行力など全て異なる個性豊かな「エアライドマシン」と呼ばれるビークルに乗って、エアライドと呼ばれるコースを最も早く駆け抜けた者が勝者となる。ここまでなら、ありふれたレースゲームだ。
ただし『エアライド』は、あの『星のカービィ』のレースゲームである。
「ほぼ無尽蔵にジャンプができる」というデザインを導入して、当時の2Dプラットフォームの難易度を下げつつ幅広い層に面白さを訴えた桜井政博らしく、このゲームもまた「急カーブをスピードを落とすことなくドリフトで曲がり切る」等といった難しく機敏な操作は、そこまで必要ではない。
代わりに「ブレーキ」を「プッシュ」という、「減速するのと同時に次の運動エネルギーへ変換する」という画期的なアイディアに置き換えることによって、ハイスピードで駆け抜ける疾走感と誰でも簡単にカーブを曲がれる難易度を同時に実現した。
だが既に『エアライド』を遊んだプレイヤーならご存知の通り、このゲーム、レースゲームでありながら格闘ゲームでもある。
そのポイントが走行中にスティックを素早く振ることで発動する「スピン」だ。このスピン状態で他のマシンにぶつかるとダメージを与え、耐久力が0になるとマシンは大破してしまう。無論そうなると、レースどころではない……。つまりは「デモリッションダービー」だ。
(60 FPS) Kirby Air Ride - City Trial Daytime 1080pより
そしてこの競争と破壊、そのバランスが最も色濃く反映されているのがご存知、「シティトライアル」モードである。
これは市街地、火山、平野、地下などで構成される広大なマップを舞台に、最大4人のプレイヤーが各地に散らばったマシン、そしてマシンを強化するパーツを拾い集め、約3~7分後に起きる「スタジアム」の最終決戦で雌雄を決するというルール。
そうお気づきの方も多いだろうが、実はこのルール、今『Fortnite』や『Apex Legends』などで絶賛流行中の「バトロワ」モードそっくりなのである。細部こそ違えど、最初は全くの手ぶらから始まり、各地を巡って軍備を調達しながら他プレイヤーに妨害をしかけ、最終的に全員が決戦に巻き込まれていく。
この0から成り上がっていく喜びと、成長か妨害かという意思決定、ランダムさに振り回されながら計画していくビルド、そして緊張感あふれる最終決戦。チーム戦でもタイマンでもない「全員参加の個人戦」なので友達同士でもギスギスしないのも捨てがたい。
もちろん、私も『ARMA 2』のBattle Royale modからバトロワのプレイヤーであり、双方に尊重すべき点、また同じバトロワと言っても、それぞれの価値や個性は千差万別なことは心得ている。
だからこそ今思い返せば『エアライド』は、今のバトロワすら持ち得ていない革新的な魅力が、少なくとも3つあった。今や膨大なバトロワタイトルが日々ユーザーを奪い合っているが、この途方も無い争奪戦を生き残る上で『エアライド』から学ぶべき、素晴らしいゲームデザインは数多く存在するだろう。
『エアライド』独自のバトロワ解釈①:決着が予想できないスタジアム
私が指摘したように、『エアライド』は多くの面で「バトロワ」的なデザインを既に2003年の時点で備えていた。しかし、個別で見ると厳密に異なる部分は存在する。
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