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ゲームを1年で120本遊んだJiniの考える、2022年ゲームランキング

長くおまたせしてしまったが、ようやく2022年の最良のゲーム……ゲーム・オブ・ザ・イヤー(GoTY)についての記事が仕上がった。2022年は比較的豊作だったと考えており、したがってGOTY記事の執筆には多大な時間を費やすことになったものの、それは大変に幸福な作業であったといえよう。

ところで、筆者はこのゲーム・オブ・ザ・イヤーの選定にあたり、自信がある。憚らず言うなら、自分こそ2022年のビデオゲームの美をもっとも理解し、それについて語るべき存在であると公言したくなるほどの自信があるし、もっと言えばThe Game Awardsを含め、国内外の様々なアワードの選定よりもより的確な作品のみ選んだとさえ思う。

ただしこうした挑発的な放言をする前に、向き合わなかればいけない記事がある。それはAUTOMATON編集部の石井氏の「GOTYを選べるほど網羅的にゲームをプレイできる人はいるのだろうか」という疑問である。氏は「ここまでビデオゲームが多様化・細分化が進んだ状況で、ゲーム・オブ・ザ・イヤーを決めたり、投票したりすることに意味はあるのだろうか」と訴えており、彼なりの「GOTY記事」も「個人的ベストゲーム」と律儀に言い換えている。

石井氏の疑問には、筆者も同意する。先ほど「自分のGOTYこそ的確だと自信がある」との放言も、実を言えば、様々なGOTYの選出をみて「ビデオゲームを語っていくことの難しさ」と「ビデオゲーム批評の未熟さ」にため息をついた筆者が、「それでも”相対的には”自分がマシである」と強がっているだけにすぎない。つまり筆者もまた、2022年のビデオゲームという文化について、その片鱗しか掴めてはいないのだ……この問題については、別の記事で論じたい。

ところで筆者が今年プレイしたゲームの総本数は120本であった。このうち、サービス型ゲームやSimのようにそもそもクリアの概念がないものを含めているが、およそこの本数プレイした人間は自ずと限られてくるものと思われる。よって今年GOTYとして10本選んだ作品のいずれも「120本のうち上位10本」であり、仮に「10位」と置いてもそれは2022年全体を象徴する名作として筆者の独断ながら評価しているものと理解していただきたい。

ではさっそく10位から論評を展開しよう。


10位:タクティクスオウガ リボーン 今あえて蘇る理由

しばし誤解されているのだが、実はこの作品は現代で流行りの「リメイク」ではなく、既存のブランド・アセット・ルールを用いた「コスパの良い、松野泰己の新作」である。そのため本作に関して、原作と比較した上での批評が散見されるのだが、個人的にそれはあまり意味がないものと思う。事実、松野は「グラフィックを含めてフルリメイクできたらよかったかもしれませんが、それなら新作の製作を選んだはず。その意味では、ひとつの区切りを付けるために今作に携わりました。先へ進むために。」とファミ通の取材で答えている。

本来、リメイク・リマスターの主な目的は、あくまで表現レベルの改修である。つまり、ゲームデザインは普遍的に優れているものという前提の上で、テクスチャの解像度を向上したり、政治的に「正しい」表現に置き換えるといった作品の表面部分を見直すことで、文字通り現代の流通上で「焼き直す」のである。2022年に発売された作品のうち『The Last of Us PartⅠ』や『ライブ・ア・ライブ』はまさにこの方向性のリメイク作品だった。

しかし『タクティクスオウガ リボーン』は逆に、表現レベルはある程度の改善に留め、代わりにゲームデザインのみ抜本的な改革を行っている。これは現代のリメイク・リマスターのトレンドとは真っ向から反対で、それ故にファンダムから一定の反発を受けたのもやむを得ない。

一方、筆者の見解としては過去の「名作」に対するゲームデザインを盲目的に信頼されることに違和感を覚え、それ故に、原作ディレクターの松野自身が大鉈を振るってゲームデザインから問いかける「リボーン」には、あくまでパブリッシャーのIPを用いた経済的インセンティブしか意義を見いだせないリメイク・リマスターに一石を投じただけでも、大いなる意義があったように思う。


9位:Horizon Forbidden West SIEスタジオを牽引するオランダのヒーロー

率直に言おう。昨今、SIEの展開するオリジナルタイトルは精彩に欠ける。無論、SIEの各スタジオにポテンシャルがないわけではなく、少なくとも2010年代のSIEタイトルはあの任天堂のラインナップにさえ負けていなかった。ただ2020年頃から顕著にゲームデザインが定型化され、物語や世界観も安易に走りがちになっているのではないか、という危惧がある。その原因を探れるほど紙幅に余裕がないため割愛するが、いずれ別に記事にすると思う。

その上で言うと、『Horizon Forbidden West』はSIEタイトルの中でも例外的に意欲的な作品だった。2017年にリリースされた『Horizon Zero Dawn』の直接的な続編となる本作だが、前作で未熟ながら可能性を感じた点を全て一から見直し、2本目にしてよく見事に完成させたものだと思う。

無論、PS5独自タイトルとしての技術的・美術的な魅力も評価したい。ポストアポカリプスでありながら原色を大胆に用いた世界観に、4K解像度に耐えうるだけの微細なテクスチャが加わった視覚的な感動は、間違いなく本作でずば抜けている。また弓、スリングなど「弦」を用いた武器がメインであることで、PS5専用のハプティック・フィードバックが全面に活き、高い次元での没入感を実現している点も素晴らしい。


8位:As Dusk Falls 父殺しのADV

本作は表面的には「Quantic DreamライクなADV」である。つまり、会話ウィンドウなど定型的なUIを用いることなく、写実的な登場人物がシームレスに会話する様子を大胆に取り込み、そこに現実的なテーマを持ちかけてプレイヤーの倫理観を問う、という「理想」を前提にした作品、それが「Quantic DreamライクなADV」だ。

ここで筆者が「理想」と言ったのは、筆者個人の考えとして、Quantic Dreamはその「理想」を一度も作品として完成することができなかったからである。『HEAVY RAIN』『BEYOND』以前の作品の物語は三文小説以下で、『Detroit Become Human』はSF的な想像力を全く活かすことなく安易なリベラル的理想を押し付けてしまった。彼らのアイディア(理想)は素晴らしく、それを実現するテクノロジーもあるが、答えのない選択を求めていくゲームプレイは事実上成立していなかった。

『As Dusk Falls』はこの「理想」を実現する上で、非常に大胆な方法を採用した。まず、プレイヤーの意思決定を尊重する上で、プレイアブルキャラクターを全くの没個性的な存在にしつつ、さらに犯罪加害者/被害者の構図で対比させることで、「倫理観」を完全にフラットにしてしまった。しかも、マルチプレイヤーを導入することで、そもそもプレイヤーの意思決定を散逸させ、根本的に倫理を問う行為をカーニバル的な「遊び」へと置き換えてしまったのだ。

そもそも本作を開発したInterior NightのCaroline MarchalはかつてQuantic Dreamのリードデザイナーで、彼らがぶつかっている問題に切実に肉薄していた当事者である。そこで、Quantic Dreamから写実的な表現、現実的テーマを継承しつつも、そこから展開される倫理的な問答は早々に諦め、2つの家族により倫理を全くフラットにし、その上でプレイヤーさえも分断して倫理を散逸させたことで、もっともQuantic Dreamの「理想」を現実的に実現した作品となったのである。


7位:Brotate ハイ!問題作

ところで、2022年最大の問題作は『Vampire Survivors』である。この作品は2022年に発表されるとまたたく間に話題となり、斬新なゲームプレイとして評価されたものだが、すでに一部では知られるように、本来はiOS/Androidでリリースされた『Magic Survival』の丸パクリである。

いや、ゲームデザインの模倣自体は問題でないのだが、売り方が問題だった。本作のキャラクター、アイテム、世界観を見ると、『悪魔城ドラキュラ』のものと酷似している。そこで本作は「『悪魔城ドラキュラ』の好きな”ガイジン”が、表面的には大々的にパクリつつも、中身は全く別の”オリジナル”なゲームを作ったぜ」というふうに評価されたのだ。無論「中身」も『Magic Survival』のパクリなのだが、表現レベルではまた別の作品からあからさまに「パクる」ことで、パクリの羊頭狗肉とも言うべき売り方で成功した点が、「問題作」たる所以である。

こうした経緯がどうあれ、『Vampire Survivors』を遊んで「面白い」と感じる感性もまた事実。この作品がなければ「サバイバル系」とも呼ぶべきゲームデザインが表に出ることもなかっただろうし、筆者を含めたゲーマーがその体験に耽溺することもなかった。よって評価するべきは、『Magic Survival』が作り、『Vampire Survivors』が広めたこの「サバイバル系」を、次はどう展開していくのかだろう。

『Brotate』はこの点において、2022年にして早くも限りなく高い精度でジャンルを完成させた作品だ。武器を射程・連射速度・威力の3つからバランスよく多様化し、マップの縮小化と移動速度の向上でゲームテンポを大幅に上げた。結果、装備を選択していく意思決定と、マップを走り回るアクションの2つに面白さを絞り、「サバイバル系」の定義を明確なものとしたのである。


6位:Immortality 視る遊びの体系化

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