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陰謀論がゲームになった『CoD:BOCW』批評

たまに、どうしようもなくマクドナルドでハンバーガーやポテトを貪りたくなる衝動に駆られた経験はないだろうか。

マクドナルドはお世辞にもグルメな店ではない。良く言えば安心できるいつもの店、悪く言えば代わり映えのないファストフード。世界中に店舗があり、そして世界中の人間に愛される、だからこそ、その味は凡庸なものとされ工夫は軽視され、マクドナルドは間違いなく食べログで星3.5以上を取ることはない。店舗がどれほど努力しようと。

それでも、わたしはマクドナルドが好きだ。たまにどうしようもなく、貪りたくなるものだ。果たしてその価値基準を、軽んじてもいいのだろうか。


『Call of Duty』シリーズはまさしくビデオゲームにおけるマクドナルドである。

制作費こそマフライドポテトというよりはふぐ刺しだが、常に安定したゲームを1年に1本作り、それが安定して1000万本以上は売れるというのは、まさしくゲーム業界におけるドナルドの如し。

ただそれだけ売れるだけに、ある程度のマニアには軽蔑され、工夫のない退屈なものだと遊ばれる前から一蹴されている。故に、GOTYのような賞からは最も遠いゲームと言える。

しかしながら『Call of Duty: Black Ops Cold War』はこうしたおおざっぱに思われがちなシリーズの中で、かなり意欲的な物語に挑戦していたので、ここで紹介したい。


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この作品のキャンペーンを論じるには、まずゲームよりもゲームをローンチする上で発表した極めて挑発的なトレーラーから論じなければいけない。

発売に数か月先んじた8月、Activisionはいつものように『CoD:BOCW』のトレイラーを公開したが、その内容はというのも、まず大きく「冷戦直下元KGBが語る恐るべき警告」と称し、サングラスをしたいかにも怪しい白人男性がロシア語訛りの英語で「戦意喪失、不安定化、危機、平均化、我々が水面下でアメリカを侵略する工程だ」と不安を煽りたてた末に「真実の歴史を知れ(Know your history)」と出る。

このトレイラーに出演している人間こそ、ユーリ・ベズメノフという実在する元KGBの男だ。彼はアメリカに対して「警告」する。すなわち、アメリカは既に水面下でソビエトの共産化がすすめられ、ベトナム戦争の平和運動などもすべてソ連による陰謀だと。

稀に我が国でもマスコミは既に外国の手中にあり、その電波により国民を支配しようとしているという陰謀論はままあるが、ユーリ・ベズメノフの主張もそれに類するものだ。彼にインタビューしているのも、G・エドワード・グリフィンという陰謀論者である。

とはいえ、ユーリの「警告」は当時信じる者は多くいなかった。主張はどれも荒唐無稽で、アメリカのソ連に対する優位もゆるぎなく、単なる負け惜しみかハッタリに思えたからだ。

『CoD:BOCW』は何とも不謹慎なことに、この極右勢力の唱える陰謀論にのっかり、あろうことか「真実の歴史を知れ」とまで銘打った(どこの国も、「真実の歴史」はインスタントな響きのわりに人気があるようだ)。

このように本作は、こうした陰謀論に乗じつつ、冷戦時代のアメリカを諧謔的に描くということがコンセプトになっている。これは「Black Ops」シリーズの伝統にのっとったものだ。

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