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シナジー論 ついハマってしまうゲームの作り方

※10/19 リプライと『StS』禁断のコンボについての追記

 『Backpack Battles』がヤバい。知り合いのゲーム開発者が「これ面白いよ」と絶賛していたのでプレイしてみたが、気付けば土日のほとんどを寝食を忘れてプレイしてしまい、見事にハマってしまったのだった。

 『Backpack Battles』のルールはこうだ。

①:RPGにありそうなショップでアイテムを買う。買ったアイテムはバックパックに入れる。


②:他のプレイヤーと戦う。ただし操作はできず、バックパック内のアイテムを全自動で使う。


③:勝ち!!!!!!!!!!!!!!!(①に戻る)

 たったこれだけである。このゲームに出てくる画面は①のショップと②の戦闘しかない。しかもプレイヤーが操作するのは①、つまりショップで購入し、バックパックに詰め込むことだけ。プレイヤースキルはほぼ不要と言っていい。

 ではこれほどシンプルなゲームに、私がのめりこんでしまった理由は、一体何なのだろうか。それは恐らく「シナジー」にある。

 AとBを組み合わせると強い、Cは単独では強いが組み合わせる相手がいないから序盤だけ強い、DはEに対するカウンターになる……こうした1+1が3にも4にもなる組み合わせ、それを一般にシナジーと呼ぶ。

 本作はまさにシナジーのゲームだ。本作に登場するアイテムには相性の良い組み合わせが存在し、ショップでランダムに提示されたアイテムのうちどれを購入するか、そしてそれをバックパックにどう詰め込むのかを考える。こうして確立した自分だけのシナジーを双方持ちより、その結果を確かめる。この一連の流れにこそ快楽は確かに存在していた。

 しかし、当然ながらシナジーは本作固有の魅力ではない。むしろ大半のゲームには何かしらのシナジーがあり、それによって「面白さ」を味わった経験は、ゲーマーなら誰しもあるだろう。

 そこで今回は、ゲームデザインにおけるシナジーとは実際どういう仕組みなのか、またどのようなシナジーが優れているのか、またシナジーをどのように機能させていくのかを解析し、あの快楽の根源を探っていきたいと思う。

ちなみにBackpack Battlesは気づいたらプラチナになってました。原稿締切当日だということさえ除けば大変めでたいな!


シナジー・イズ・ビューティフル 『Slay the Spire』の事例から考える

 「アイテムを買い、並べるだけの対戦ゲーム」。『Backpack Battles』のコンセプトは極めてアクロバティックであるものの、しっかり現代のゲームをよく分析して作られたゲーム、つまり元ネタが存在する。中でも本作に影響を与えているであろうタイトルが、『Slay the Spire』並びに『Backpack Hero』だろう。

 『Slay the Spire』は

①:マップを探索
②:敵と戦闘(あるいはイベント)
③:デッキを強化して①へ

 という非常にシンプルな流れを踏まえたゲームだ。更に『Backpack Hero』は『StS』の流れを踏襲しつつ「デッキ」を「バックパック」に置き換え、バックパックの中に手持ちのカードをはめ込んでいくゲームであり、『Slay the Spire』→『Backpack Hero』→『Backpack Battles』としてゲームデザインが継承されていることがわかるだろう。

 ではそんな『StS』は一体何が面白いのだろうか。ここで重要になるのが例の「シナジー」の概念である。

 改めて説明しよう。シナジーとは一般に「相互作用」と解釈される言葉で、特にゲームデザイン上では、AとBを組み合わせることでA+B以上の効用を産み出すことと解釈される。わかりやすく言えば「オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」というやつだ。

 例えば、『Slay the Spire』には同じ1コストで「5ダメージを2回与える」効果を持つ「ツインストライク」と「2のダメージを4回与える」効果を持つ「猛撃」のカードが存在する。

 カード単体で見た場合、「ツインストライク」は5×2=10ダメージ、「猛撃」は2×4=8ダメージと、「ツインストライク」の方が優れているように思える。

 しかし、ここで2ダメージを追加する「発火」のカードを組み合わせたところ、「ツインストライク」は(5+2)×2=14ダメージ、「猛撃」は(2+2)×4=16ダメージと、「猛撃」の方がダメージで優れている。これが本作におけるシナジーの一例だ。

 「シナジー」はゲームを遊ぶ上で重要なエッセンスである。マジック・ザ・ギャザリングのリードデザイナー、マーク・ローズウォーターによれば、シナジーはプレイヤーに「発見」を促すものであり、ひいてはプレイヤーが知的に成長し、自己評価を高めるための仕組みだという。

 しばしば、マジックは本質的に発見のゲームであるということを話してきた。結局のところ、あらゆるゲームは発見のゲームなのだ。マジックが一線を画しているのは、他のゲームでは始めるとすぐに発見がなされ、段々と発見が少なくなっていくというところにある。例えば、初期のチェスは発見のゲームだったかもしれないが、成熟したチェスは記憶とパターン認識のゲームである。マジックでは発見が失われない。なぜなら、デザインによって進化し続けているからである。
(中略)
 これらすべてが重要なのは、シナジーが感情的満足の一要素においてすばらしい働きをするからである。ゲームをプレイするとき、プレイヤーは自己評価を高めたいと思っているものだ。プレイする理由の1つには、自分自身を試すということが含まれる。従って、達成したと感じたとき、自己評価が高くなるのだ。発見は達成に通じる。「ほら、俺が見付けたものを見てみろよ!」というわけである。

Mark Rosewater「シナジー生活」

 ローズウォーターの主張する「発見=シナジーの快楽」であることは非常に重要な論点だ。実際、我々がゲームをプレイしているとAとBを組み合わせると実は強いとか、逆にCはAと噛み合わないから弱いといった「発見」する。こうして発見したシナジーをもとにより最適化された戦略を立て、打倒不可能に思えた強敵を倒した時、単刀直入に言えば「俺めっちゃ天才じゃん……」となる(=知的な成長、並びに自己評価の向上)。このシナジーの快楽は、精神的後継作である『Backpack Battles』にも無論受け継がれている。


 例えば『Backpack Battles』には「Wooden Buckler」と「Spiked Shield」という盾が存在する。

それぞれコスト(大きさ)は全く同じだが、前者は「攻撃を受ける度、25%で6アーマー追加」、後者は「攻撃を受ける度、100%で1アーマー追加」という効果を持つ。単純計算では当然前者の方が強力なのだが、後者には「20アーマー追加される度に1反射ダメージ」という効果も存在しており、このために「Wooden Buckler」と「Spiked Shield」を織り交ぜることで防御を固めつつ反射ダメージを稼ぐということをプレイしていると「発見」する。そう、「シナジー」だ。

また本作はバックパックに配置したアイテムが隣り合っていてもシナジーが発動する。例えば「食べ物」カテゴリのアイテムは隣り合うと効率が10%上がるとか、武器「フライパン」は隣接した「食べ物」アイテム1つにつき1ダメージを追加で与える、といったシナジーがある。

序盤はとにかくフライパンでしばくのが強い

すると当然「フライパン+食べ物」が序盤の安打になるが、ここで先述したバックパックの広さというボトルネックも考慮しなければならない。食べ物は2~3マスと大きく、かなりの場所を占拠する。しかもフライパンは3マスなので必ず凹凸が出来てしまい、どう配置するか頭を悩ませる(テトリスだ)。この配置もまた本作のシナジーを一層面白くしている。

また『Slay the Spire』の美点を語る上で、「シナジーを構成する要素以外を徹底的に削った」という点も挙げたい。『StS』の戦闘はプレイヤースキルが全く不要のターンベースの戦闘で、進行に応じて不可逆に成長していくので「育成」も必要ではない。このシナジーこそがゲームの快楽だと言わんばかりの哲学は、『Backpack Battles』にも「戦闘は完全自動」「獲得するリソースは常に一定」という形で受け継がれた、最も重要な点だ。


2つのシナジー

ここまで『Slay the Spire』『Backpack Hero』と『Backpack Battles』を、「シナジー」という共通点から比較してきた。

しかし、実は一言に「シナジー」と言っても、ただプレイヤーにアイテムやカードを組み合わさせるだけで面白くなるわけではない。特に『Backpack Battles』のシナジーが優れているのは、「2つのシナジー」を絶妙にミックスさせているからこそ、他のゲームでは味わえない「ハマり」を作り出しているのだ。

では2つのシナジーとは一体何か。

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