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PS5はなぜずっと品薄なのかを考えて浮かんだ「転売ヤー」と別の問題

未だに周囲でPS5が買えないという話をよく聞く。そしてPS5が買えないことでSIE全体に対するほとんどヘイトのような兆候もある。筆者もしばらくPS5が買えずストレスフルな日々を過ごしたので気持ちはよく理解できるものの、今のところPS5を取り巻くネガティブな言論はサイバーカスケード現象によってほぼ陰謀論の域に達してしまっている。

例えば、PS5が手に入らないのはSIEの品薄商法を狙ったものだとか、あるいは、先日発表されたPS5の価格上昇はPS5がよく売れることに便乗した殿様商売だとか、そして(これらと明らかに矛盾する理屈だが)PS5は実際のところ全く売れていなくてオワコン化している等といった議論だ。

なぜPS5が未だに買えないのか?誰が悪いのか?犯人は誰だ?

広告を受けるゲームメディアもいまいち触れずらいテーマ(そもそも知らない可能性もある)なので、改めてここでPS5が何故入手できないのか。PS5が入手できないのは一体だれが悪いのかという話をここでしたい。


PS5は品薄なのか?品薄によって何が問題なのか?

まずPS5は品薄なのか?という問題に立ち返りたい。言うまでもなく、2022年8月現在時点でPS5は品薄である。通常版、ディスクレス版ともに通販サイト、家電量販店、ゲームショップなどでほとんど入手困難であり、仮に販売されていても一瞬で売り切れるか、得体のしれない契約と引き換えに抽選券を渡されるぐらいのものだ。間違いなくPS5は品薄だと言える。

PS5が品薄だとして、一体何が問題になるだろう。まずユーザーの目線で考えた場合、PS5がないとゲームが遊べないという至極当然の問題が浮かび上がる。現時点では一応ほとんどのタイトルが前世代機であるPS4との同時発売、つまり「縦マルチ」を採用しているものの、PS4版での挙動には明らかに限界を感じさせる作品も多々あり、更にはPS5限定タイトルも徐々にリリースされている。特に注目されているのは今年11月発売を予定する『ゴッド・オブ・ウォー:ラグナロク』だが、できればPS5でプレイしたいのが人情だろう。


面白そうなゲームが次々にリリースされていて、自分には遊ぶためのお金も時間も用意しているのに、肝心のハードがないというのは実際大きなストレスである。しかもSNS全盛、コンテンツ消費全盛の現代では、嫌でも次世代機で遊んでいる様子が流れてくる。遊びたいのにどうしてPS5が買えないんだというストレスは加速する。必然的に、販売元のソニー(SIE)に怒りが向かう。

PS5が品薄で困るのは何もユーザーだけでない。まずゲームソフトを作るディベロッパーに関しても、せっかく次世代機に向けてハイエンドな作品を莫大なコストをかけて開発したのに、肝心の次世代機がユーザーに行き渡らなければそもそもソフトを買ってもらえるはずもない。特に開発費が高騰する現代においてこれは致命的な問題だ。特に(時限独占を含む)独占契約をSIEと結んだディベロッパーについては、著しい影響を受けることになる。

つまりユーザーは遊びたいゲームが遊べず、それによってゲームそのものに対する関心も薄れ、さらにゲームディベロッパー・パブリッシャーが十分な売上を得られないことで衰退していくと、PS5が品薄になることによって生じる影響はゲーム業界全体でも大きなものとなっている。よってPS5は一刻も早く安定供給されるべきであるし、SIEには状況を改善する責務があると言える。


PS5品薄の「犯人」は転売ヤーなのか?

そこでPS5が品薄になっている原因とは何か、「犯人」は誰なのかという話に移ろう。ここからが少し複雑なのだが、結論から言えば、明確な「犯人」は存在しない、しかしその「責任」は何名かが負うものであることは間違いない、というのが筆者の考えだ。

まず、誰もが想像するのは転売ヤーの存在だろう。1日に出荷されるPS5の数はバラつきがあるが、ざっくり国内で100万台を突破した期間、2020年11月~2021年9月までの10か月間で割ると、1か月あたり10万台、1日につき3300台出荷されたことになる。一方、ヤフオク、メルカリ辺りで出荷されるPS5は軽く計算したところ1日300~500台は流れており、しかもその値段は概ね8万~10万円と店頭の約2倍で販売されている。事実として転売ヤーにとってPS5は立派な商材としてカモられているのは明らかだ。

ほぼ1年横ばい(通常版で8万円前後)が相場

しかしこの転売ヤーの問題は簡単に片づけられる問題とも言えない。


まず、「転売ヤー」といってもレイヤーが多々ある。まず店頭で抽選販売などに参加し転売する者。これについては正直、影響は誤差に等しい。1日あたりおおくて数台が限界だからだ。一方、「並び子」と呼ばれる人材をバイトとして雇い、何人も行列に並ばせて組織的に「仕入れ」を行う存在も(怪しいが)存在し、こうした存在の締め出しは急務だろう。

だが何より問題なのは、筆者も度々論じているように、メルカリやヤフオクなど転売ヤーが利用するプラットフォームだ。そもそも「転売」という行為自体はそれこそ中世からずっと存在しており、問題でない。一方「転売ヤー」と呼ばれるほど問題視されなかったのは、一般的に転売するにも商店を構え、さらには地主や政府から許可を必要とされることで、その数が少なかったからだ。いわゆる古物商許可証等である。

こうした「許可された転売ビジネス」の裏をかいたのがオークションサイト、中でも「フリマアプリ」などと売り込んだメルカリだ。メルカリによって誰もが許可なく中古の扱いが可能になったばかりか、それによって商品に対して「買い手」が圧倒するようになったために、(PS5に限らず)あらゆる商品の奪い合いが発生するようになった。つまり転売は「商売」の必然だが、その担い手が過剰に増え、需要と供給のバランスが崩壊してしまったために、「転売ヤー」と呼ばれるような悪戯に機会損失によって利益をせしめようとする輩が増えてしまったのが現状だ。

そんな「転売ヤー」を増やし、何よりこの「転売ヤー」によって利益を最も得ている存在こそ、メルカリなどのプラットフォームなのである。一般的にメルカリでの取引では、メルカリに10%の手数料を収める必要がある。そしてこれがどれほど大きいかと言えば、PS5を仕入れるのに55000円、そして80000円で転売した場合、一見すると利益は25000円に思えるが、メルカリに「売上そのもの」から手数料を取られてしまうため、その手数料は8000円、利益は17000円となる。

そう、転売ヤーによって発生する「利益」のうち、転売ヤーはたった3分の2、メルカリは濡れ手に粟で「3分の1」にあたる8000円を徴収できるのだ。メルカリの手数料10%というのは、特に「仕入れ値」を考慮する転売においては信じられない暴利なのである。言い換えれば、誰もが目の敵にする「転売ヤー」とは、わざわざ暑い中行列に並び、やっとの思いで買った「商品」の利益を3分の1も奪われてしまう、哀れなワーキングプアだ。

またこうしたメルカリで発生した「転売ヤービジネス」と最も相性が良かったのがPS5のようなゲームハードだったのも不幸だ。繰り返すように、「転売」、同じ商品だが希少性に応じて値段を釣り上げること自体は珍しくない。例えば車。「ハコスカ」と呼ばれるスカイラインであれば当時400~500万円だったものが、今では中古1000万円で売られているし、現在売られているものでも、SR400というバイクは乗り出し60万円に対し、中古市場では120万円と尋常ならざる値上げがされている。他にもブランドのアクセサリ、高級腕時計など、実のところ後々の値上げを期待した「転売」は決して珍しくない。

しかしこれらは決して素人が手を出せる商材ではない。仮に100%高騰するとわかっていても、300万円の車を買える人は限られてくるし、仮に300万円現金で出せるような所得の人は、転売なんてリスクばかりのビジネスに手を出さないからだ。よって多くの商材は一部のプロ、法人のみ取り扱うのだけど、PS5のようなゲームハードは3~5万円と学生でも辛うじて買える値段帯であり(それこそがハードの主要な顧客だ)、よってメルカリを利用するような学生、新社会人にも「投機」できてしまう対象だったのだ。

それにしても、SRが150万で売られる時代が来るとは……


正義の味方のように振る舞う小売店の闇

転売ヤーの他に「犯人」として挙げられがちなのが、メーカーたるSIE本人だ。中には、「SIEが意図的に品薄商法をしている」という陰謀論も存在するのだけど、もちろんそれはありえない。

ゲームハードの基本的な商売は

「薄利多売(むしろ赤字)でハードを売る」→
「そのハードに対応したソフトウェアを各社に売ってもらう」→
「そのソフトウェアから生じた利益を自社なら全て、他社なら一部(概ね3割)を総取りすることでハード代を回収する」

というプラットフォームビジネスだ。これはファミコンの時代からほぼ変わっておらず、現代ではGAFAが率先するプラットフォームビジネスを遥かに先取りしていたのがゲーム業界なのだが、これについては割愛する。当然PS5の開発はSIEが全額請け負い、さらにハード自体も利益はないに等しいので、SIE的にはPS5はできるだけ売りたい、むしろ誰よりも売りたがっている存在である。

なお、稀に「PS5よりPCの方がコスパがいい、PCを買おう!」と悪魔みたいなささやきをする人がいるが、決して耳を貸してはいけない。何故ならこの構造からもわかるように、SIEを含むコンソールゲームのメーカーはハードで利益を取れない一方、PCのメーカー、主にCPUのAMD/Intel、またGPUのNvidiaなどはハードだけで利益を取らなければいけないので、当然ながらコスパは非常に悪い。ただし、だからこそPCは(コスパとは別の部分で)魅力的な選択肢でもあるので、それはこの記事で検討してほしい。

従ってSIEは品薄商法などをするメリットが全くないし、むしろ製造を誰よりも増大しようと躍起になっている企業だ。そのため製造のための努力は全く惜しんでいない。具体的には発売から約2年目となる2021年、PS5は1150万台製造している。また日本にもそのうち約100万台入っており、これはグローバルのゲーム業界(約21兆円※)に対して日本がちょうど10分の1(約2兆円※)であることを考えると、決して日本だけ入荷が少ない=SIEが本社をアメリカに移したことで日本だけ軽視・差別されているという陰謀論もまた間違っていると言えるだろう。

※共にファミ通ゲーム白書基準。なおXbox Series S/Xは併せても10万台に満たない。


ではSIEは全く今回の品薄に責任がないのかといえば、実はそうとも言いづらい。ここからは特にブラックな話題かつ、確証の取れない(本人たちに訊いても取れるわけがない)話になるため、あくまで「一説」として考えてほしい。

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