見出し画像

追悼:藤原啓治とビデオゲーム かくしてNPCは「人」となった

声優の藤原啓治さんが癌で亡くなったことが発表された。55歳という若さの死だった。

既に今頃、いかに藤原啓治さんが『クレヨンしんちゃん』などアニメ、映画などの映像カルチャーで貢献されたか論じられてる頃だと思う。だが私はゲーマーだ。だからビデオゲームにおける藤原啓治の貢献を論じるべきだと思った。

はっきり言うが、藤原啓治なくして今のビデオゲームカルチャーは存在しない。それほど彼はビデオゲームにおいて重要な人間だったといえる。本稿では私の知る「ビデオゲームの中の藤原啓治」を論じていきたい。

極力回避していますが、本稿には『FF15』、『KH』シリーズ、『Bloodborne』、『Bioshock Infinite』に関する部分的なネタバレになりうる表記があります。ご注意ください。


第一章:悪の哲学

まず藤原啓治のダンディな声を聞いて真っ先に想像するのは、ニヒルな笑顔を浮かべ、底しれぬ悪意をひた隠しにしつつも、どことなく影があるヒールではないだろうか。


アーデン・イズニア(ファイナル・ファンタジー15)

「オレがどれだけ闇の中で生きてきたと思ってる」

スクエア・エニックスの『FF15』、アーデン・イズニア役は正に藤原の凶悪な存在感なくして存在しなかった名ヒールだったと言える。深々とつばの長いマウンテンハットを被り、絡みつくようなくせ毛、何重にも着込んだレース付きの上着という容姿は、まさしく「秘密の男」。

敵国ニフルハイム帝国の宰相でありながら、飄々とした出立で主人公ノクトたちの前に現れ、遠回しに様々なアドバイスを奉じるアーデン。そのミステリアスな出立から「敵」か「敵の敵」かとノクトだけでなく我々さえも欺く、裏表のある男はその実、底知れない悪意と復讐心を抱く重い男だった。本当ならノクトを目の前にした瞬間、その感情が爆発しても不思議ではないだろうに、それでもアーデンは自己の計画のため、己さえも欺き続ける。

こうした『FF15』のもうひとりの主人公とさえ言えるアーデンは、「何も知らない、王の責任さえも背負えないノクト(終盤につれてその責任を取り戻す)」とは正反対に、誰よりもその素性が読めない男だ。そんな「軽薄に振る舞う重い人間」を演じられるのは、言わずもがな藤原啓治をおいて他にいない。作中ずっとついてまわる因縁、いや執念は藤原啓治にしか出し得ない「邪気」あってのものだ。そうした人気から唯一、主人公パーティ以外のメンバーの外伝として『エピソード・アーデン』DLCが配信されている。


アクセル(キングダム・ハーツ)

ここから先は

6,724字

メセナプラン

¥1,980 / 月
人数制限あり
このメンバーシップの詳細

「スキ」を押すと私の推しゲームがランダムで出ます。シェアやマガジン購読も日々ありがとうございます。おかげでゲームを遊んで蒙古タンメンが食べられます。