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Xboxが”本気で”目指す「ゲームクリエイター・ファースト時代」の予感

6月12日、Microsoftは「Xbox Games Showcase 2023 + Starfield Direct」(以下Showcase)と題した発表を行った。その中で、Xboxを中心に今後展開される様々なタイトルがお披露目されたのだが、その内容がとにかくすばらしく、この手の発表では経験したことのない「心に響く」想いがあった。

それは、ただ話題作が多数発表されたからではない。サラ・ボンドやフィル・スペンサーといったXboxの代表者たちが、繰り返し「ゲーム制作者を第一に考えます」「ゲーム制作者たちのおかげです」と、自社のゲームクリエイターへの賞賛と敬意述べていたからだ。

このセリフを聴いたとき、筆者は正直「上っ面」だけの態度ではないか疑った。しかし、実際にここで発表された作品の背景と内容を鑑みた時、彼らの言葉が「上っ面」ではなく、本当にプラットフォーマーとして異例といえるほど開発者たちを尊重し、「彼らが作りたいもの、彼らが見せたいもの」をしっかりと反映していることが、極めて異例といえるのではないだろうか。

それは「口先だけ」ではないのか?

よって今回、Showcaseを観ていない方、観たもののよくわからないゲームが多かったという方に向けて、多くのゲームメディアのようにラインナップを速報的に伝えるだけでなく、そのラインナップから見えてくるMicrosoftのプラットフォーマーとしての「敬意」に基づく新しいプラットフォーマーの形を考察したい。

なお、前回発表されたPlayStation Showcaseの記事も寄稿している。こちらと読み比べると、双方の目的意識の共通点や差異が明らかになって一層楽しめるだろう。


Xbox Games Showcaseのラインナップ

今回のShowcaseにて発表されたタイトルは、以下の通りである。(SEO対策のリンクがないので見やすいリスト)

『Fable』(Playground Games)
『South of Midnight』(Compulsion Games)
『スター・ウォーズ アウトローズ』(Massive entertainment)
『PAYDAY 3』(Overkill Software、Starbreeze Studios)
『ペルソナ3 リロード』(アトラス)
『Avowed』(Obisidian Entertainment)
『Flight Simulator 2024』(Asobo Studio)
『Senua's Saga: Hellblade II』(Ninja Theory)
『龍が如く 8』(SEGA)
『祇 - Path of the Goddess -』(CAPCOM)
『Forza Motorsport』(Turn 10 Studios)
『33 IMMORTALS』(THUNDER LOTUS)
『ペルソナ5 タクティカ』(ATLUS)
『Jusant』(DON'T NOD)
『STILL WAKES THE DEEP』(The Chinese Room)
『Dungeons of Hinterberg』(Microbird Games)
『Cities: Skylines II』(Colossal Order)
『メタファー:リファンタジオ』(アトラス、スタジオ・ゼロ)
『TOWERBORNE』(Stoic Studio)
『Clockwork Revolution』(inXile Entertainment)

まずShowcaseを一通り見た筆者の感想として、今回は「本気だ」と感じさせられた。恐らく今回の発表は恐らくここ2~3年、下手をすれば5年分ほどのXboxなりのリソースを詰め込んだのではないかと思うほど充実したものとなっていたからだ。実際コメントなどを見てもどのタイトルも一定の反響があった。

ただ今回話したいのは、我々ゲーマーの立場からの評価ではない(中でも期待できる作品は後述する)。今回はMicrosoftというプラットフォーマー、そして各タイトルを開発する開発者の立場にとって、このラインナップがいかにすごいかという話だ。一見するといつもの何気ない発表なのだが、実はその背景には、これまでのゲーム業界の流れを大きく変えるのではと思わせる変化が起きている。


Xboxの失敗と、それを踏まえた再帰の過程

大前提として、Microsoftは現代のコンソールゲームを牽引するプラットフォーマー(任天堂、SIE、MS)三社のうち、参入以来一貫して苦戦を続けてきた。

具体的には2001年にXboxを発売してからの22年間、MicrosoftはXbox、Xbox 360、Xbox One、Xbox Series S/Xと4世代に渡ってハードを発売してきたものの、一度もその世代のトップに立ってはいない。その証拠に、最新世代のXSXは、PS5の約3000万台(2022年末)に対して、経済誌Forbesは約2000万台程度と推定している(Microsoftは公式の販売台数を発表していない)。Xboxとして最も成功したXbox 360も約8400万台と、それでもPS3とWiiに僅差で及ばなかった。

Xboxが苦戦を続ける理由は何か。これは明確に一つあり、Xboxを象徴するゲームブランドと、それを担う人材が不足していたことだ。そもそもXbox事業は任天堂に約20年、SIEにも約10年遅れて参戦している。言い換えれば、任天堂が20年、SIEが10年かけて築いてきたゲームブランドに挑戦するハンディを背負っているのだ。

もちろん、Microsoftとて無知ではない。Microsoftはこのハンディを十分理解しており、初代Xbox時代からスタジオの確保と看板タイトルの確立をしようと試みてきた。

例えば、

『Marathon』などマッキントッシュ向けのゲームを作っていたBungieを買収し、壮大なSF世界観が魅力の『Halo』を開発。

「Unreal Engine」を開発する気鋭のスタジオEpic Gamesと提携して『Gears of War』を独占タイトルとしてローンチ。

さらに『ポピュラス』などの開発者ピーター・モリニューとRPGシリーズ『Fable』を開発。

……などなど、Microsoftは特にPCゲーム業界で有名な人材・スタジオを囲い込み、独自のゲームブランドを構築することに成功していた。実際、2世代目となるXbox360の時代には、ほぼSIEのPS3(約8700万台)と同じ台数販売しており、盤石の体制を築いたかのように思えた。

順調に見えたかに思われたXbox事業。ところが第3世代のXbox One時代になると、ある悲劇が起きてしまう。

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