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『マーベルスナップ』批評 運ゲーと煽りと敗北のストレス全てを「面白さ」に変えた天才すぎる発明

一般的な「ゲームコミュニティ」や「ゲーマー」では、しばしコンソールゲームこそ至高で、モバイルゲームは邪道だと考えられている。今月開催されたゲーム業界最大のアワード「The Game Awards」の最高賞も、やはりすべてコンソールゲームで、PC、何よりモバイルは含まれないのだ。

だが2022年10月にリリースされたモバイル用デジタルカードゲーム(以下、DCG)『マーベルスナップ』は、モバイルだからという理由だけで遊ばないのはもったいない傑作だった。

それはただカードゲームとして優れているばかりか、現代の対戦ゲームが抱える様々な問題、例えば「運ゲー」や「煽り」、「降参のストレス」何より「ランクマッチが作り出すスティグマ」に対して「スナップ」という革命的なゲームメカニクスによって一挙に解決する、まるで奇跡か魔法のような大発明を行ったからだ。

では『マーベルスナップ』とはどんなゲームで、中でも「スナップ」とは何か、それがどう優れた発明なのか。そもそも現代対戦ゲームが抱える問題とは何か。本稿ではこれらを論じていきたい。


6ターンで強制終了、バトルは1度きり、3分で終わるハイテンポDCG

さっそく「スナップ」の発明から論じたいところだが、その前に『マーベルスナップ』はDCGとしても既にかなり驚かされる作品だ。

一般的にDCGは『ハースストーン』のパク……影響を受けた作品が多い。

ルールはだいだいこうだ。1ターンごとに手札を1枚、マナ(カードに必要なコスト)を1つ得る。そして1つのフィールドに手札からカードを出し、1度バトルをし、スペルなどの補助カードを処理し、ターンを終え、相手にターンを渡す。

『ハースストーン』のこのルールは、『シャドウバース』や『レジェンド・オブ・ルーンテラ』など他の様々なDCGに影響を与え、現在のDCGのスタンダードとなった。(まぁ『ハースストーン』も『MtG』のアレンジだが)


これに対し、『マーベルスナップ』のルールは信じられないぐらいシンプルである。まず、1ターンに手札を1枚、マナを1枚というリソース配分は変わりない。その代わり、このゲームは戦闘をたった1度、6ターン目に行い、それで勝った側が勝利だ。

このルールのメリットは、まず6ターン目に強制終了し、さらに双方同時にターンが進むので、尋常ではなくテンポが良いということだ。他のDCGのように何ターンたっても決着がつかなかったり、相手のターンにソリティアされて暇を持て余すこともない。その上、デッキに入れられるカード数も12枚しかないので、デッキ構築すらサクサクできる

たった12枚、重複不可。驚きのシンプルデッキ。

こうも「シンプル」だと「単調」とも解釈されるだろうが、それは『マーベルスナップ』ならではの独自概念「ロケーション」で補われている。これは『遊戯王』でいう「フィールド魔法」が自動・ランダムで設定されるようなもので、プレイヤー双方に《オリンピア》のようにメリットをもたらすものもあれば、《クリムゾン・コスモス》のようにデメリットをもたらすもの、あるいは双方のプレイヤーの操作がAIに置き換わる《エゴ》のようなとんでもない効果まで様々ある。


元々「シンプル」なルールがウリの『マーベルスナップ』だが、「ロケーション」という即興ルールが毎回加わることで、一気に駆け引きが面白くなる。ゲーム全体で強いカードや戦略、いわゆる「メタ」もこの「ロケーション」次第では全く意味がなくなるし、逆に一見価値のなさそうなカードが「ロケーション」次第では輝き、逆転勝利に導いてくれることもある。シンプル故にテンポの良い本作だが、ロケーションのおかげで何試合遊んでも違った展開を楽しめるのだ。

しかしこの「ロケーション」には致命的ともいえる欠点がある。そう、運要素が強すぎるのだ。「ロケーション」はどんな内容になるか予想できず、デッキによって有利・不利がはっきりと出る。どんなに素晴らしいデッキを組み、ミスなくプレイしても、「ロケーション」との相性次第ではあっさり負けてしまう。

しかも、『マーベルスナップ』はロケーションの「運要素」を承知の上で、ぶっとんだロケーションを大量に導入している。仮に「お互いカードを1枚引く」「お互いのパワーを1減らす」程度のロケーションばかりであればそこまで運ゲーと感じなかっただろうが、双方のプレイヤーがAIに置き換わる「エゴ」なんて発動すればプレイヤーは笑うしかない。

ではなぜ、『マーベルスナップ』はシンプルさと奥深さを両立しながらも、同時に運要素を拡大してしまった「ロケーション」をあえて放置し、むしろますます悪化させたのか。それは驚くべきことに、ゲームの中ではなく外に、従来のTCG・DCG、いや大半の対戦ゲームさえも目をつけなかったあの要素に、大きな変化を加えたからだ。


ランクマッチの概念を一変させる「スナップ」

ではようやく『マーベルスナップ』傑作たる所以「スナップ」を紹介しよう。

実は、このゲームには「ランクマッチ」しか存在しない。ランクマッチとは、現代ゲームの潮流たるルールだ。このルールでは、プレイヤーの実力は「ランク」――ゲームによっては「ウデマエ」だとか「世界戦闘力」などにも置き換えられるが――として可視化され、ランクは負ければ減り、勝てば増える。勝つほどに自分が強者として他人に誇示できるうえ、ゲームの外にある通貨=「ランク」を賭けて勝負するギャンブル的なスリル、つまりゲームの勝敗にゲーム外に帰結可能な結果をもたらす点で、ランクマッチは多くのゲームに搭載されている。

一方、負けた時の心理的負担が大きく、漫然とゲームを楽しみたい人にとってはむしろ苦痛になる。プロゲーマーでさえ負ければストレスのあまり「台パン」をかますことから、ランクマッチは快楽と同じだけ不幸も作り出しているとさえいえるだろう。あの任天堂でさえ、故・岩田聡が「強者のための場所」になることを恐れていたのに、結局任天堂は「ウデマエ」や「世界戦闘力」という言葉尻の、言ってしまえば「欺瞞」で「強者のための場所」を再生産していることからも、このランクマッチはよくよく業が深い。


しかし『マーベルスナップ』にはランクマッチしかない。つまりゲームに勝てばどんなに適当に遊んでもランクは増えるし、もちろん負ければ減る。筆者も最初は戸惑った。ノーマルマッチはないのかと探した。だがランクマッチしかないと悟り、諦め、何試合もプレイしていくうちに気付いた。「これはランクマッチ以外存在してはいけないゲームなのだ」と。

何故か、それは本作のタイトルにもある「スナップ」という仕組みにより、ランクマッチそのものがゲームデザインに取り込まれているからだ。

まず通常のゲームにおけるランクマッチであれば、基本的に勝敗に伴って増減するランクポイントは一定だ。つまり勝敗が五分五分であれば、その人はずっと同じランクにいる。そう考えるのが妥当だろう。

しかし、『マーベルスナップ』の面白い(恐ろしい)ところは、プレイヤーが任意に賭けるランクポイントを増やせることだ。つまり、通常は勝っても負けても1ポイントしか増減しないところ、もし自分が勝てると踏んだなら、画面上のスフィアをタップすることでその掛け金を倍に、この作品でいう「スナップ」をすることができる。すると、賭けているランクポイントが「1」から「2」に増えるのだ。

しかもスナップは自分と相手、両方できる。つまり双方スナップした場合、賭けるポイントは「1」→「2」→「4」となんと4倍にも膨れる。しかも最終ラウンドは強制的に掛け金が倍になるので、最大で

自分のスナップ→x2
相手のスナップ→x2
最終ラウンド→x2

によって最終的に「8」ポイントも釣り上げることができる。本来は8試合中8勝しなければ得られないポイントを、わずか1試合で獲得できるかもしれないし、逆に8敗分の屈辱を舐めさせられるかもしれないわけだ。おいおい楽しくなってきたぜ。

心臓はもうバックバク


ここで面白いのは、掛け金を増やせるのは双方のプレイヤーが任意であることだ。当然ながら自分が勝てると確信すれば、「スナップ」を仕掛ければいい。逆に相手が「スナップ」をしてきたなら、相手は有利を確信しているのだろう。だが相手が「スナップ」した割に、盤面を見ればどうみても相手が不利なので、もしかしてこの「スナップ」はブラフか……?という可能性もある。無論、掛け金を増やせるということは、逆に「降りる」ことも任意だ。不利を悟れば「撤退」を選ぶことで「1点」失うだけに留められる。

これはDCGにおけるルールやカードとは全く「外」での駆け引きであり、むしろ「外」におけるプレイヤー間の心理戦が「内」にある「ゲーム」へ働きかけているのだ。

またこの「スナップ」を踏まえれば『マーベルスナップ』の「シンプルかつハイテンポだが、運要素の強いゲームデザイン」の意図が理解できる。つまり、1試合ごとにどう全力で向き合うかではなく、運要素による振れ幅と、それに伴った「スナップ」の成功・失敗による「全試合の平均」こそが重要であり、その上で連続で試合をしても疲れない、むしろ次の試合を求められるようなシンプルかつハイテンポなルールが必要だったのだ。

この体験はトランプのポーカーと酷似している。公開されているカード、そして非公開の自分の手札、双方の情報から有利不利を悟り、掛け金を釣り上げ(レイズ)るし、負けを悟れば降りる(フォール)。もちろんレイズはブラフの可能性もあるし、そのブラフを見抜かれてまんまと掛け金ごと持っていかれるかもしれない。ポーカーは仮に掛け金(コイン)がなければただ運要素の強いゲームだが、掛け金があることでチェスや将棋以上の心理的駆け引きを楽しむ上で屈指の「競技」となる。

もうお互い笑うしかない状況


『マーベルスナップ』の傑作たる所以は、「DCGとしてどう面白く作るか」――試合内でどんなルールを追加したり、どんなカードを開発するかに考え、結果MtGの劣化版になったわけではなく、「DCGの外をどう面白くするか」――他の対戦ゲームにも使われる「ランクマッチ」をいっそギャンブルの種銭にし、それによってポーカー的にプレイヤー間の心理戦や自分のランクを元手にしたメタゲームが発生する点にある。

結局どれだけユニークなルールやカードを追加したところで、約30年遊ばれ続け、研鑽された『MtG』のようなTCGと見劣りするDCGにおいて、「ゲーム内」ではなく「ゲーム外」から発想を転換し、「ビデオゲーム」としては珍しい「ギャンブル」を組み込んでしまったこと……これは、DCGどころかビデオゲームとしても画期的と言える。


ゲームの「問題」を「遊び」に変えてしまう「スナップ」のとんでもない発明

ここまで『マーベルスナップ』が「ポーカー」的な発想によりゲーム外におけるランクシステムを引用した「スナップ」により全く新しいDCGの地平を拓きつつ、それをシンプルかつハイテンポなルールと、運要素の強いロケーションによって「全試合の累計」としての主観的な体験を補佐していることを振り返った。

すでに十分、本作の魅力は語ってきたが、ここでより踏み込んでおきたいのは、この『マーベルスナップ』の事例はDCGはおろか、現代対戦ゲームのほとんどに搭載されるランクマッチを、恐らく世界で初めてゲームデザインとしてそのまま取り込んだ点にある。言い換えれば、ランクマッチのために、今の対戦ゲームは楽しめなくなっているのではないかとすら言えるのだ。

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