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FPS史から紐解く『スプラトゥーン3』 何を模倣し、そして進化させたのか

『スプラトゥーン』は任天堂が開発する新規IPとして、恐らくマリオ、ゼルダ、どうぶつの森に並ぶ快作であり、その評価に疑う余地はない。今月発売されたばかりの『スプラトゥーン3』も発売から3日で345万本、その前作『スプラトゥーン2』も1000万本を超えるなど、任天堂作品そしてシューター作品としてもはや知らぬ者はいない。

これほど人気を集めている『スプラトゥーン』だが、一体どうして面白いと感じられるのか、その正体について批評的に語られることは実は稀だ。なぜなら、本作は任天堂が海外(※)で人気のゲームジャンル、FPS・TPS(=シューター)を徹底的にリサーチして作った初の作品だからである。

(※:本稿における「海外」とは主に、北米、EU、CIS、韓国、中国、その他を指す。本来「海外」とは非常にガラパゴス的な表現となるが、実際に日本はFPS・TPSにおいてこれらの国々に当てはまらない、極めて独特なゲーム文化を持っているのだ)

もちろん初代『スプラトゥーン』が発表されたときから、よく任天堂がFPS・TPSに挑戦することは話題となり、両者の類似点なども比較された。だが、それはやや任天堂側に偏った視点、シュータージャンルへの知識の欠いた前提での議論になりがちだ。よくある例としては、「スプラトゥーンは塗っているだけで貢献できるから、FPSに不慣れな日本でも流行した」という評価がある。しかし、それなりにレベルの高い試合ではとても「塗っているだけ」では勝利に貢献できないし、海外FPSにも『Battlefield』シリーズや『Overwatch』の一部クラスなど、射撃以外でチームに貢献できるも存在する。

他にも「スプラトゥーンは”インク”だから子どもにも安心して遊ばせられる」という評価もあるが、明らかにインクに当たったイカちゃんは無事なように見えないし、単にビジュアルエフェクトを変更するだけで売れるなら誰も苦労はしない。中国で『PUBG Mobile』が『Game for Peace』というタイトルとなり、プレイヤーが死亡すると挨拶をして消えるという「修正」がされたが、だからいいゲームなのかと言われると微妙だ(ただし本作の世界観はFPSにない大きな魅力の一つだ。その理由は後述。)

やけくそめいた修正。画像ソース

では『スプラトゥーン』の魅力とは何なのか。それは本作が海外FPS・TPSを強く意識・模倣しながらも、ある一点において、決定的に突き抜けることに成功したからだ。故・岩田聡が「「あの○○を、任天堂がつくるとこうなった」というものではない、まったく新しいもの」とまで豪語しただけの理由があるのだ。

本作は一体海外FPS・TPSの何を模倣し、そして何を進化させたのか?多くの1人の任天堂ファンでありながら、同時に海外シューター作品をプレイしてきた筆者の見解から、より客観的かつ本質的に解説したい。


スプラトゥーンは海外FPSを「パクっている」のか?

そもそも、『スプラトゥーン』は果たしてFPS・TPS、つまりシューター作品の一種と考えてしまっていいのか?という疑問がある。

実は任天堂は『スプラトゥーン』を一度も(恐らく)「TPS」と表記したことはなく、「アクションシューティング」と位置づけている。実際、インタビュー「社長が訊く」の中でも、本作が「豆腐がインクを撃つだけ」の全くのゼロから作られたことが語られている。

社長が訊く『Splatoon(スプラトゥーン)』より

では『スプラトゥーン』は特に他の作品を参考にすることなく、全くのオリジナルとして作られたのだろうか?ここが実に任天堂の、特に若手が中心の「スプラ開発チーム」らしさなのだが、本作には明らかにオリジナルを重視した点と、あっさりと「パクっている点」を使い分けている。

自分の考えとして、そもそも模倣とは悪ではないし、極論、模倣のない芸術は存在しない。だから「この作品はとても新鮮でよい」という議論は特に意味がない。そして『スプラトゥーン』は開発者たちも積極的に認めないが、多くのFPS・TPS作品を模倣している。一部を例に挙げてみよう。

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