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「タルコフから脱出できない理由」「美しさと正しさ」「炎上は無力」——ゲームゼミ月報(2023年1月)

ゲームゼミも今年で3年目ということで、そろそろ新しいことをしたいなと思う。それがこの「ゲームゼミ月報」。なんということはない、要するに日記的な連載記事である。

ゲームゼミでは毎月、それなりに気合の入れた記事を更新してはいるものの、もう少し手頃に読めるような記事があってもいいのではないかと思い、半分日誌(というか月誌)として書くことにした。特にTwitterの空気感にはほとほとうんざりしているので、Twitterに書きたいけど変に解釈されそうだから書けないよね~的な話もゴリゴリ書いていくので、炎上しそうな危うさを含め乞うご期待!

正直そんなに伸びると思えないし、来月以降も続くかわからないが(音声配信は早々に諦めた……)、お付き合いいただければ幸いだ。


タルコフから脱出できない理由

ワイプが来たので『Escape from Tarkov』をプレイしている。荒廃したロシアのノーマンズランドで、目的もなく人を殺し、殺される。人を奪い、奪われる。ただそれを繰り返し続け、やがて「ワイプ」というハルマゲドンがやってきて全て無に返されも、また最初から殺し合い、奪い合う。どう考えても仏典における地獄そのものであり、我々は亡者に他ならないが、面白くてならない。

ところで本作のタイトルはEscape from Tarkov、つまり「タルコフ市からの脱出」である。しかしこのゲームをいくら続けても主人公は「脱出」することはなく、どれほど傷つき、飢え、苦しもうともタルコフ市に留まり続ける。現状まだベータ版の本作だが、恐らく製品版になったとしても脱出する日はこないだろう。何故なら、脱出は本当はいつでもできるからだ。そう、プレイヤーがコンパネを開いてこのアプリケーションをアンインストールすれば、それこそが「脱出」なのである。それどころかワイプの度にタルコフ市に戻ってくるプレイヤーどもは、むしろ「侵入」している。

そんなタルコフだが、最新アップデートで本作初となる、理性のあるNPC「Lightkeeper」が実装された。かつてはロシア軍高官だったとおぼしき男は、プレイヤーに対して以下のように語る。

「人類の欲望は畢竟、生存だ。どこであろうとそれは変わらん。我々は生まれながらにして生存者だ。そして生存を望むからには、私は生き方を選ぶ。」

Lightkeeper(拙訳)

間違いなく、このセリフは今も戦争(=侵略)を続けるロシア人たちの……少なくともサンクトペテルブルクで本作を開発するBattlestateの本心ではないか、と思う。ソ連崩壊後、30年以上「生存」を強いられ続けた人々の、底知れぬ絶望。『Escape from Tarkov』がどのバトロワとも、まして「タルコフクローン」とも、暴力の性質を全く異にするのは、そこに対して誰より当事者的に真摯だから。

ところで、(例えば細田守作品などで描かれるような)メタバースの印象がどうあれ「理想郷」的であるのは、本当におかしいなと思う。逆だ。現実が地獄なのだから、メタバースがまず地獄であるべきだ。そしてメタバースは地獄で十分だと思い知り、現実を理想郷にするべきなのだ。

開発者は直接的に「タルコフは現代社会のメタファーである」と明かした。我々はいつか、必ず、この地獄から「脱出」しなければいけない。

「タルコフとは貴様自身だよ。だから貴様は貴様自身から逃れることなどできないし、私も私自身から逃れられぬだろう」

Lightkeeper(拙訳)


美しさと正しさ

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