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複利のゲームメカニクス 1を2に増やすゲームの面白さの本質

『Thronefall』が大変よかった。これはウェーブごとに襲撃する敵兵に対し、櫓や城壁に兵士を配備して守りを固めるというゲームで、要するにタワーディフェンスの亜種である。このジャンルはえてして当たりはずれが激しいのだが、『Thronefall』は未だアーリーアクセスといえ製品版と言ってよい出来栄えであり、あっという間に10時間遊んでしまった。

本作の美点は多数挙げられる。まずボクセルアート風の表現がよい。建築物や兵士などが整然とわかりやすく映るし、ミニチュアのようでかわいらしい。またユニットが極めて簡素で、不要な選択肢がないのがよい。こういうゲームは決まって10のユニットがあれば、9つのゴミから1つの正解を導き出すだけのゲームになりがちだが、本作はそもそもユニット数自体が少ないのでバランスがなかなか取れている。

本作を開発したGrizzly Games曰く、本作のコンセプトは「ミニマリスト・ストラテジー」なのだという。実際本作はアートワークにしろ、ユニットにしろ、色々なところが最小限に留められており、それ故に完成度が高い。スタジオがあるのがドイツのベルリンというのも納得である。本作の思想信条は実にドイツ・ボードゲームのそれに酷似しているからだ。


家を建てるか、兵を養うか

とはいえ単にシンプルなだけでは無味無臭でつまらないゲームになってしまう。重要なのはチョークポイントだ。ゲームメカニクスに一つだけ奥深いポイントを作っておくことで、シンプルな要素と対照させるのである。では本作におけるチョークポイントは何か、これが複利である。

本作に登場するユニット/建築物の多くは、タワーディフェンスらしく軍事に関係するものしかない。具体的で防壁や拒馬で敵を足止めし、その間に弓兵で矢玉を浴びせ、櫓の間接射撃で援護するといった具合だ。いずれにせよ敵兵を殺戮する目的のみを宿し、これらのシナジーを活用してより少数のリソースで敵を撃退する……と、ここまでならよくあるタワーディフェンスだ。

一方、本作には「家」という建築物もある。これは原則として軍事には一切役立たない代わり、毎ターン1ゴールド生成する機能がある。また家本体は2ゴールドである。つまり3ターン放置することで元が取れる算段となる。

この家と軍事施設のどちらを作るか、本作における最大のジレンマはここにある。家を優先して建築すると、当然敵に突破されて壊滅してしまうリスクがある。しかし軍備の拡張ばかり優先していると、総合的に得られる収入が先細り、兵の増強や設備のアップグレードができないままジリ貧になっていく。従って、なるべく最小限の軍で凌ぎながら、余ったゴールドを投資し、その複利でもって徐々に軍を拡張していくかが、戦の趨勢を決するのである。

言い換えれば、本作の本質はタワーディフェンスというより、投資(内政)のゲームと言える。その時点で最適と思える企業(ユニット)に投資して最大の利益を得て、資産を転がして複利を得る。そうこうするうちに、寝ているだけで遊んで暮らせるだけの金が入ってくる。実際、本作ではユニットの乏しい序盤では王自ら出陣して敵を切り結ばなければならんのだが、複利を確保すると寝ているだけで部下が異教徒どもを殲滅してくれるようになる。これが実に愉快なのだ。

もはや帝国だ


複利をどうゲームメカニクスに落とし込むか

本作がドイツ・ボードゲーム文化を前提に作られているように、実のところ「複利」は『Thronefall』に限らず多くのゲームデザインに組み込まれている。ただし問題は「複利」は扱いが難しく、少々塩梅を間違えるとすぐにバランス崩壊を起こしてしまう点である。

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