心の中の出来事

「げんきー?」

ノックもなく開かれる扉
唐突に放たれる能天気な言葉
まるであたかも、言葉をかける相手が元気であるということを信じてやまないような、そんな理不尽な人物の来訪だった。

「これが元気に見えるならお前の目は腐ってる。今すぐ取っ替えてもらえ」

我ながら酷い言葉の羅列だ。
俺の方こそこの口ごと取っ替えて貰えばいいんじゃないか、なんて自虐的な思考に陥る。

っていうかノックしろ。
主人格様の部屋だぞ、一応、ここは。

「相変わらず毒舌な挨拶を返してくれますねぇ。そんなにおれの事嫌いですか?」

ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべて聞いてくる辺り、あのような返事が返ってくることを予想してやっている様だ。なんというか、とても性格が悪い。

「大嫌いですがなにか?」

いつ体の操縦権を奪ってくるか分からないやつを、好きだと言える人間が本当にいるのかわからんが、少なくとも俺はコイツの事は大嫌いだ。

「ストレートな回答をありがとうございます。できればもう少し、オブラートに包んでくださってもよろしいんですよ?」
「うるさいな、さっさと自分の部屋に帰れ」

頭が痛い。

外の肉体が頭の痛みを訴え、その痛みが所有者である俺の頭にも響いてくる。
頭を抱えながら、彼に言ってもまだ帰ってくれない。正直勘弁して欲しい。

「まぁまぁ、そんな邪険にしないでくださいよぅ。おれ、まだ何も悪いことして無いですよ?」
「存在自体が鬱陶しいんだけど」
「えぇ〜?」

落ち込むふりをしているが、最初から浮かべているニヤニヤとした表情は一切崩れていない。どうなってんだコイツ。

親知らずを抜いて安静にしているのに、いつまで経っても帰ってくれない。

「せっかく話し相手になってあげようと思ってたんですけど…その様子じゃ大丈夫そうですね」
「あん?」

話し相手にって言われたが、どう考えても冷やかしに来ている様にしか見えない。コイツはそういう奴だし。

「いえ、なんでも無いですよ」

そういうと、さっきは帰れと言われても帰らなかった彼が、さっさと帰ってしまった。

静かに閉まる扉。
静かになった部屋。
その扉をぼーっと見る俺。

まさか本当に?
アイツが話し相手?
マジで言ってる?

これは、普段鬱陶しいと思ってる奴が、本気で話し相手になろうと訪ねてきたは良いけど、今までの行いからその気持ちに気づかないで追い返してしまった俺の話。

後で謝らないとな…

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