愚かな詐欺の電話

 基本、固定電話が鳴っても出ないことにしている。
 留守電が作動した後、相手がメッセージを話そうとしたときに、初めて受話器をとって対応するのだ。私(もしくは家族の誰か)に明確な用件がある人物なら、留守電にメッセージを残そうとするからだ。

 で、今日。
 昼間一日外出して、七時頃帰宅してくつろいでいたときだった。
 電話が鳴って、いつものように留守電が「メッセージがありましたら~」と告げてピーッとなったあと、相手が「友だちが~」とかなんとか話し始めたので、「あれっ?」と思って受話器をとったが、もう切れていた。
 留守録メッセージって感じじゃなく話しかけてきたみたいだったから、弟が酔って友人と間違えて電話してきたのかな……と思っていたところへまたかかってきたので、すぐに出てみた。

私「もしもし、どなたですか?」
バカ「ともだちとあってたらさ……(以下よく憶えてない)」

 なんか、いきなり相手が話しかけてきた。
 あからさまに怪しい。
 なにより、こんな電話のかけ方をするやつはただの無礼者だ。そもそも、話す気にならない。こいつは理性を失っているか、なにか勘違いをしているか、意図的にこういう話し方をしかけてきているか……。ともかく、まともではない。
 他の家庭ではどうしているのか定かではないし、良い悪いの判断もしないが、少なくともうちの家族には電話をかけてきておきながら自分が何者なのか名乗らない人間などいない。また、最初の名乗りを代名詞ですることもしない。オレオレ詐欺が流行る前からの礼儀というか、常識だ。
 オレオレ詐欺ってよくわからないな~と常々思っているのは、そこが前提となっているからだ。まあ、本気で特定して騙す気で、下調べしてこちらの素性に詳しいプロが知人や家族を騙ってきたら、また話は別だが。

私「えーと、あなたが誰だかわからないんですが。どなたです?」
バカ「なんでわかんないの? そこ、●●子んちでしょ? あんたこそ誰?」
私「言ってることがよくわからないんですけど。ともかく、自分から名乗らないような人に話すことはありませんが」
バカ「は? なに言ってんの? 嘘ついてんのはそっちだろ」
(いやいや、俺の言葉の中に嘘をつけるような内容があったか? 『嘘ついてんのはそっち』とかって、そんなこと言っちゃったら、自分が嘘を言ってるのを誤魔化してるって公言しているようなものなんだけどな……)

 ●●子というのを聞いた瞬間は「は? 誰それ?」と思ったのだが、すぐに「ああ、母の名前を音読みしちゃったんだ~」と気づいた。
 そう思って(まあ最初の段階で既に詐欺だな、とは思っていたが)ここまでのやりとりを思い返してみれば、いかにも演技っぽいし、会話の内容から、とっても頭の悪いやつなんだとわかる。
 だってさ、私が電話に出た時点で高齢の女性ではなく男だと声でわかったはずなのに軌道修正すらせず、どうやって得たのかは知らないが唯一の武器である母の名前(まあ、訓読みする知性もないまま見事に読み違えているわけだが)を使い続けているのだから。
 なるほどね。なんかマニュアルがあって、こいつはそのマニュアルの通りにしか動けない人間なんだね。詐欺にむいてねえなあ。元締めに搾取されてんだろうなあ。いや、同情する気はないけど。
 てなわで、前述のやりとりの途中から、私はもう笑いを堪えるのに必死だった。そして、これ以上付き合っても時間の無駄だな~とも思ったので、マニュアル通りに動く人をマニュアル通りに動かして、さっさと追いはらうことにした。

私「あなた、名乗る気がないんですよね」
バカ「だからおまえは誰だよ」
私「じゃ、ここからは会話を録音しますよ」

 ガチャッ。

 ものの見事に、予想通りになった。
 やっぱりマニュアル通り……なんだろうな。

 というわけで、固定電話には今後も自分からは出ない。
 御用のある方は、ご面倒でもメッセージをよろしく。すぐに出ますから。 


テキストを読んでくださってありがとうございます。 サポートについてですが……。 有料のテキストをご購読頂けるだけで充分ありがたいのです。 ですので、是非そちらをお試しください。よろしくです。 ……とか言って、もしサポート頂けたら、嬉しすぎて小躍りしちゃいますが。