マガジンのカバー画像

100の読書記録

12
自分で読んだ本についての備忘録です。本選びの参考にどうぞ。既に読んだものを含めて百冊分になる予定。
運営しているクリエイター

#政治

見捨てられた絶望:『1984年』

小説は自由である。過去の黄金時代を描いてもよいし、来るべき暗黒を表現しても許される。『1984年』はまさに後者であった。現代の監視社会に対する「予言の書」などど評されることも多い。 しかし一方でこれを単に社会的な寓話として扱うのは間違いである。オーウェルはそのもう一つの代表作である『動物農場』から最後の『1984年』に至るまで芸術を忘れなかった。 オーウェルの巧みなところは「禁じられた恋愛」という、芸術においては定石ともいえるテーマを用いながら、全体主義という政治的に新し

自分に満足しきった人々:「大衆の反逆」

どんな本かこの本はスペインの哲学者であるホセ・オルテガ・イ・ガセットによって1929年に書かれたものである。日本語訳も行われていて、文庫版も販売されている。 2020年に出版された岩波文庫版は本文に加え、「フランス人のためのプロローグ」および「イギリス人のためのエピローグ」も収録されているこのふたつの章は内容的に興味深いものでもあるので、いまから購入する方はぜひこの版をお勧めしたい。 全体で400ページ以上にもなるため、決してすぐに読めるわけではない。しかし、細かい章立て

いま『責任と判断』について考えること

責任は誰にあるのか。判断はどのようにされるべきなのか。これは世の中の問題についてよく問われるところです。政治についての記事なんかを読めば、この2語が登場しない時はないといってもよいでしょう。 現代では、さまざまな報道や情報発信が個人でもできるようになりました。それにともなって、無責任な言動や判断の甘さが指摘されることも増えています。インターネットの発展は、責任と判断を問うような状況を増やし続けているのかもしれません。 ハンナ・アレント『責任と判断』という、まさにそのままの