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謡ふ酒屋樗堂一茶/烟しての巻

    日常平語
     30

窓のかた鼻の先迄日のさして
 だぶりだぶりと汐のみち来る       一茶

名オ十二句、音響によって流体を刻み、荒潮を体感させる名残り表の〆句。

     〇

だぶりだぶりと 縦書きなら「だぶりく」と。「だぶり」は「茶翁聨句集」、「樗堂俳諧集」は「ざぶり」。

汐の しお・の 干満差が激しい潮流域

みち来る 満ち・くる 満ちて来る、上げ潮(歌仙〆句の祝言として)

     〇

まどのかた はなのさきまで ひのさして

 だぶりだぶり と しおのみちくる

光の造形から、音響によって感性を揺さぶろうとする文台の幻影、そこには満ち来る荒潮の高鳴りが。これが、歌仙というものなのでしょうか.

     〇

近代の句に

上げ汐の氷にのぼる夜明哉       子規
荒潮に落つる群星なまぐさし      蛇笏
海流ついに見えねど海流と暮らす    兜太

などが。

烟しての巻  名オ七句~十二句

   秋 雜汁に下部の膳の秋の風        茶
 月 秋  醍醐は今に蚊の多き月        ゝ
   秋 羽織着てしばし見送るむら尾花     堂
   雑  むつむつ腹は立しまうたり      ゝ
   雑 窓のかた鼻の先迄日のさして      茶
   雑  だぶりだぶりと汐のみち来る     ゝ

17.12.2023.Masafumi.

余外ながら、浅草噺。

〇 丸山定夫/井上ひさし
 
フランス座にいた井上ひさしさん。「一茶」の戯作があり、歌仙もなさっていました。

市に五虎いでや茶番の涼しさよ    夷斎
 滝に見立てて突くところてん    玩亭
砂絵師の身の越し方を聞かされて   昌治
 賽をまさぐる秋さむの袖      昭如
見わたせばピンの目ばかり田毎月  ひさし
 子ども相撲のみなに手拭       夷

「市に五虎」の巻『酔ひどれ歌仙』青土社(1983)(表六句、石川淳、丸谷才一、結城昌治、野坂昭如、井上ひさし)

丸山定夫さんは松山の人。

築地小劇場の役者でしたが、浅草で榎本健一(エノケン)の庇護を受けていたこともありました。戦時下「桜隊」を結成して各地を慰問、その途次の八月六日被爆し亡くなりました。命日である8月16日は「白炎忌」。

映画「さくら隊散る」新藤兼人
  「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」大林宜彦
舞台「紙屋町さくらホテル」井上ひさし 

 

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