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歌ヲ聞キ乍樗堂一茶両吟/降雪にの巻

En écoutant la chanson......
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木の端の枕一ツを借かねて
 おもしろさうに銭廻し見る        一茶

名ウ二句、児童遊戯に魅せられて。

     〇

おもしろさうに 面白そうに、主体は<わたし>、そのわたしを、別の目で見ている<わたし>がいるのです。伝統芸能では、これを能楽の詞を借りて「離見の見」と。

銭廻し ぜに・まはし、児童の遊戯。二組に別れ、一方の組の者が手にした銭を次々に渡し(あるいは渡したふりをしながら)、歌い終わったときに誰の手にあるか当てる遊び。

見る みる、<わたし>はこどもたちのあそび興じている様をみる、そのわたしはといえば、ほとんどこどもたちの目線と一体になった<わたし>がいることを知っているのです、と。

     〇

きのはしのまくらひとつを/ かりかねて

 おもしろさうに ぜにまはし みる

樗堂の「雑魚寝」の前句に、よっぽで気に入ったとみえて、一茶一流の<児童俳諧>の句を付けて「なるほど、こう来たか」と唸らせていたのです。

     〇

銭廻しの遊び方も、円陣になって銭の廻し中の鬼が当てるものから、花魁と客のふたりで遊ぶものまで、いろいろだったようですね。

こんな噺が、

敗戦を迎えようとしていたころ、東洋英和女学校の女生徒が、麻布中学校の校舎に駐屯していた部隊に勤務を命じられ、あれこれ用務をこなすうち、もうする仕事がなくなったのです。紙縒りを縒れというので、しばらくやっていたのですが、今ひとつ、ものにならない。

そんな折、「もう作業止めえ」の号令がかかり、やおら「銭まわし」をすることになったというのです。当時のことを岩原さかえさんは次のように回想していたのです。

 「軍人も軍属の女も入って一同ぐるりと輪を作り、「見よ東海の空あけて」という愛国行進曲で銭まわしをする。歌が一節すむと、鬼が新聞紙を丸めた刀で、銭の入っていそうなこぶしを上から叩く。「キヤアー」「キヤアー」とせまい兵舎は大騒ぎだが、中尉は部下の騒ぎを見ながら、いつも頭を抱えて、ふさいでいることが多かった。溜息ばかりつい目を閉じている中尉に代って、指揮権をふり廻しているのは、柳橋の料亭の息子だという船戸軍曹で、彼は実に女の子達を遊ばせるのが上手だった。」

と。

岩原さかえ「軍隊に出勤を命ぜらる」東洋英和女学院資料室委員会「資料室だより」No.4.(1978.9.1.)

     〇

もとより、樗堂一茶の預かり知らぬ後の代のこと、ほんの噺のついでにちょいと「焼け跡噺」をば、、、、。

2.11.2023.Masafumi.

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