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風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻

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御迎ひの駕とく来る衣々に
 狆の飽たる板敷の菓子     兎文

初ウ六句、別れ際、かけることばがまことにむつかしい。

     〇

狆の ちん、狆は和製漢字、室内で飼われていた子犬。ペリー提督がアメリカに持ち帰り、英国のビクトリア女王に献上されたことで知られていました。

飽たる あきだる、あるいは「飽き足る」。多くは否定形で使われると云うのだが、、、

板敷の菓子 板型で成形した和菓子「おひがし」。精製された砂糖は珍しく、讃岐、阿波あたりで和三盆糖の製造が緒についた頃のことでした。

     〇

後朝に「飽たる」の付け句。これを<愛想尽かし>と解するのはやや短慮に過ぎる。例えば、あんたキライ だあ~いキライ!といった遣り取りのようなもの、、、、。

曖昧、ambivalence.

     〇

縁は、狂言「箕被(みかづき)」に

シテ 何をやらふぞ、こゝにそなたが朝夕手なれた箕が有、是をやるぞ
 女 是でも苦しうござらぬが、路次で人にも逢ませふに、此様なさもしい物が持ては行かれますまい
シテ 持て行かれずば、かづひて行かしませ、道で人に逢て顔が見へひでよかろふ
 女 此ごとくに、きぬぎぬに成とても、互に飽き飽かれぬ中じや程に、近ひ所を通らしますならば、必寄らしませ
シテ 又そなたの親達へもよい様に心得てくれさしませ、さらばさらば

「続狂言記」巻五

箕被は、別れた夫婦が復縁する狂言でした。それも、夫の発句に女が付けた脇句がきっかけになっていたのです。

     〇

女と男の虚々実々、恋の手ほどきを記した浮世絵もありました。

門前やの巻  初ウ一句から六句

  秋 節句とて弟の五郎もむつましく    茶
  雜  世にも粟津の系図百姓       文
  雜 夢はんし金に成との当違ひ      仝
  雜  たわつけ髪を梳る暁        茶
  雜 御迎ひの駕とく来たる衣々に     仝
  雜  狆の飽たる板敷の菓子       兎

5.10.2023.Masafumi.

余外ながら、歌仙を記録した「日々草」の上部に「米屚ヤキコメ/餐マメアメ/糒ホシイヒ/糕ハセ」と書き込まれていました。芭蕉の歌仙を評釈した柳田国男「木綿以前のこと」があったように、一茶の歌仙に「板敷の菓子以前のこと」が記されていたのです。(漢字の表記は正確ではありませんので念のために)

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