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樗堂一茶両吟/蓬生の巻 30

   秋霜に大阪雪駄辷る也
    見セ物店の小男鹿を見に         一茶
 名オ十二句、人の見たがるものが、さて、あるやなしや。
     〇
  見セ物店の
   みせもの、見世物。それらを商う処。
  小男鹿を
   牡の若鹿。
  見に
   わざわざ、<そこに、それを>見にゆくの ??
     〇
 あきしもにおおさかせった/すべるなり
 みせものみせの
 さをしかをみに
 「雪駄」と「小男鹿」、わずかに<皮>つながり。これを読み筋の糸口にして。
     〇
 雪駄の表は、元は竹皮。裏には、鞣革が使われていました。
 剥がせば、物も変わる。
 木戸口では、中の様子をチラリと見せる。「おっと、お代は見てのお楽しみ」と、呼び込みのお兄さんの声がかかる。
 ベールに隠された、秘儀の扉がひらかれる。
     〇
 歌仙という文藝は、兎にも角にも、おかしいな、妙だな、そりゃないだろうなどと思わせなければなりません。
 「小男鹿」と云えば歌にもあり、隠者の書き物にもあります。
 その「小男鹿」を「見世物」という「場」に引きずり出したところが、何よりも滑稽だったのです。
     〇
 まさか、皮を剥がれた小鹿がいるわけでもなく、ギリシャ神話にみられる半獣の生き物がいるわけでもなく、それにもかかわらず、人はなぜ木戸銭を払って中を覗こうとしていたのでしょうか。
 「何か、おもしろいものはないのかい。」と、俳諧師一茶は<悪場所>へと誘いながら、名残表を〆ていたのです。
 寛政七年春、豫洲松山二畳庵でのことでした。
     *
 蓬生の巻 名オ七句から十二句
   雜 信長の和睦破れし陣中に         堂
   雑  かゝる時しも音楽の声         茶
   雜 押合ふて笠着てねたる丸木舟       堂
 月 秋  関の惣嫁に石投る月          茶
   秋 秋霜に大阪雪駄辷る也          堂
   秋  見セ物店の小男鹿を見に        茶
■画像は、「悪場所の発想」など。

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