見出し画像

仕切り直し樗堂一茶両吟/藪越やの巻

     五

 衣摺べき平石もなし        一茶
髪洗ふ土は求めし早苗饗に       ゝ

五句、髪洗う女性の風俗を農事歴に求めた人事句。

     〇

髪洗ふ この時代の女性は、今以上に長髪で束ねて結んでいたのですが、その髪を洗う機会は少なかったようです。

土は求めし 洗髪には、海苔、灰、土などが使われており、どことなく<泥田の感覚>を想起させることばでした。

早苗饗に さなぶりのルビ、田植え終りを告げる農休み。各地に稲の生育を祈る祭事が残されていました。

     〇

秋 いんのつき
  うすぎりのかの さびぬらむ

雑 ころもするべき ひらいしもなし

夏 かみあらふ
  つちはもとめし さなぶりに

この歌仙では月を三句に引き上げられていましたので、いわばここが<空き家>になっていたのですが、元々月の定座ですから、<空き家>と雖もちょいと気の利いた平句を詠むのが一座するものの心得だったようです。

そこで一茶は、女性たちの夏の風俗を伝える早苗饗(さなぶり)というやや古風な民俗語彙で応じていたのです。

     〇

 火打入へき革袋ぬふ        樗堂
早苗饗の日と契たる中なれハ     一茶
 身はぬれ鷺の夕暮の声        堂

樗堂一茶両吟/蓬生の巻(寛政七年)にもその用例が認められ、よっぽどお気に入りの語彙だったのでしょうね、一茶には。

22.8.2023.Masafumi.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?