20240131 スワッチさんのこと
昨年末、横浜市旭区内の障害者事業所のイベント「あっぱれフェスタ2023」に参加させてもらった。旭区地域自立支援協議会・旭区役所が主催し、旭区社会福祉協議会が共催しているイベントで、今回が10回目。コロナ禍で数回中止になり、今回は久しぶりに皆で集まっての開催が決定したのだそうだ。その中で「D-1グランプリ」なるコンテストがある。各事業所対抗でパフォーマンスを行うもので、ダンスでも歌でもジャンルは問わず、それぞれがそれぞれで作り上げる。あっぱれフェスタの中でも一番盛り上がるのだという。
私が今尊敬している人のひとり、横浜市旭区内の西ひかりが丘商店街に位置する「喫茶店カプカプ」を運営している鈴木励滋さんにお誘いいただき、サポートアーティストとして参加させていただくことになった。鈴木さんとどうしてご縁を持つことができたのか、それもまた自分にとってはとても大切な話なのであるが、ちょっと保留にして、
私は鶴ヶ峰にある「マインド葦」という就労継続支援B型事業所で働いている「スワッチ」さんのサポートをすることになった。
「スワッチ」さんは自分で作詞作曲して歌う、シンガーソングライターだ。女性で、私と同世代。彼女の歌っている動画をYoutubeで見たのが初めての出会い。コミカルな歌詞で可愛らしいなと思った。次にZOOMで対面した。あとから伺うと緊張していたとのことだったが、鈴木さんや「マインド葦」の職員であるMさん、サポートアーティストを支えてくれる谷居さんと一緒に「どんなことをやりたいですか?」などゆっくり話をした。その際にも一曲披露してくれた。ウクレレを演奏しながら歌った「ともだちのうた」という題名の曲。私はこの曲を聴いて痺れてしまう。涙が止まらなくなってしまう。枯れた体に染み渡るようだった。なんていい曲を作る人なんだ。いくらZOOMでも、いきなり私が涙を流したのでみんなびっくりしただろう。恥ずかしかったが、純粋に「この人に興味がある」と思った。
その日から月に一度「マインド葦」に通い、スワッチさんと創作をすることになった。作業所では皆さんは毎日旭区内の様々な場所から注文を受けてお弁当を作ったりスイーツを作ったりしている。事務所をお借りして、まずはお話から始めた。スワッチさんがどういう人なのか、そして私はどういう人間なのか、そんな簡単にはわかるはずもないけど、まずは二人で話すところからだと思い、インタビューみたいですねなんて言いながら、普段の生活や好きなこと、ルーティンなどをお互いに話す。昔買って読んでいた雑誌や、着ていた洋服のブランドの話、好きだったバンドの話などもした。緊張した面持ちのスワッチさんは私と話すために、家で書き溜めている歌詞ノートやイラストを持ってきてくれた。全てに心震えた。綺麗な字で歌詞、丁寧な筆で描かれたイラスト。私は自分がもし作家演出家であるとするならばこんなに幸せな瞬間はなかなか訪れないのではないかと感じていた。こんな純粋な魂がここにあって、それに共鳴している自分がいる。このプリミティブさが自分の中に存在するという「気づき」がまた涙腺を緩ませた。どんだけ泣くの。
そして考えたのは、「スワッチさんのやりたいことをやろう」というあまりに誰でも思いつくようなアイディアだった。スワッチさんの着たい衣装、スワッチさんのやってみたいこと、スワッチさんの歌いたい歌。前回までのD-1グランプリではもう一人出演者がいたが今年はスワッチさんひとりだから、どんなワンマンショーにするか。まず、その大枠は考えた。「ミュージシャンスワッチのリサイタル」と銘打ち、しかも自分の部屋からリモートで世界全国に発信しているという設定にした。そのアイディアを話すとスワッチさんはとても喜んでくれたように見えたので、これでいこう、では私が台本を書きますね、と言ってその日は別れた。台本を書き、メールする。セリフが多いかもしれない、適当に端折ってくださいと伝える。しかし1ヶ月後、スワッチさんはセリフをほぼ完璧に覚え、繰り返し練習してくれていた。リハーサルをする。また、ここはギターにしたいとか思い切ってポータブルアンプを洋服に取り付けちゃおうとかここでお客さんに笑ってほしいとかこの曲も盛り込みたいとか、たくさんのアイディアを考えてきてくれて「どう思いますか?」と私に尋ねてくれた。これはもう全部やろうと思った。スワッチさんがやりたいことは全部。その整理とか時間配分とかは私がやる。演出だ。二人で笑いながらこつこつ、そうやって10分のパフォーマンスを作っていった。
歌詞が届くだろうかと心配するスワッチさんがいた。確かに旭区公会堂はとても広いらしい。図面を見ると私からしたらとんでもないキャパの会場である。腰抜けるサイズ感だ。私も純粋にスワッチさんの素晴らしい歌詞を遠くにいるお客さんに届けたい。スライドを作って、歌詞を字幕のように出すことを考え、作成した。イラストはスワッチさんに描いてもらった。スワッチさんの人柄が滲み出る可愛いイラストだ。スワッチとその仲間たち。ああ、そうか。このイラストがあれば、スワッチさんは一人じゃない。舞台上で、寂しくないなと思った。スヌーヌーで培ったPowerPoint力を使う。
そしてD-1グランプリ当日。二人で大道具小道具楽器を持ち旭区公会堂に向かった。たくさんの事業所の方が集合し、そのお祭りは始まった。喫茶店や、各事業所の皆さんが作ったスイーツや雑貨販売等多くの人で賑わいを見せる。たくさんのスタッフの皆さんがこの日のために準備を重ね作り上げた素晴らしいイベントだと感じた。ワークショップで通った「喫茶カプカプ」のメンバーにも再会できた。このイベントの持つ楽しい雰囲気で私もついクッキーやジャム、パウンドケーキを爆買い。ポイントカードをいっぱいにしてくじ引きまでやってしまった。
そんな中、着々と準備を進める。二人で緊張していた。チューニングが合わないとか、衣装の裾を踏まないようにとか、二人でとにかく舞台の成功のために時間を費やす。準備だ。準備が大事だ。スタッフさんと一緒にゲネプロ。舞台上で楽器をどう置くかとか、進行台本を元に。鈴木(励滋)さんや司会のアサダワタルさんに助けていただき、スライドを出してみる。いい感じだ。そして本番が来た。スライドを出すオペレーターとして私も舞台に上がった。スワッチさんが「どうもー、スワッチでーす」と発声する。その声は確かに緊張していたけれど、私にはエネルギーを感じた。これからの10分、自分のパフォーマンスをやり遂げる、その強い意志を。どんなに失敗してもそばにはスタッフの私もいると思ってくれている。一人じゃないと感覚的に思ってくれているとすぐにわかった。きっと大丈夫だと思った。スライド出しをミスしたので大丈夫じゃないのは完全に私のほうだった。
パフォーマンスが終わり、二人で笑った。ああ、面白かったね、みんな笑ってくれてたね、よかったね、なんて言いながらお茶を飲んだりした。
グランプリには結果がある。私はあまりよくわかっていないで参加したのだが、どうやら審査結果の発表があるらしいとのことで二人で客席に座る。私たちは「うどんにまつわるパフォーマンス」をしたので「ほっかほか賞」を頂いた。可愛い。舞台上でスワッチさんが賞状をもらった。そして優勝の発表となり、「ヌードルズです!」とコールされた。ちなみにヌードルズというのは「うどんにまつわるパフォーマンス」から命名された我々二人のユニット名である。何か名前を決めてほしいと言われ、スワッチさんが即席でつけた名前だ。私は客席でわー、と声をあげてしまった。壇上にいるスワッチさんは驚きの表情をしていた。優勝だって。トロフィーを手にしたスワッチさんに「マインド葦」のメンバーが集まった。ものすごく喜んでくれている。スワッチ、やったねー!最高だったよ!おめでとう!涙を流す職員の方と一緒にもちろん私も泣いていた。どんだけ泣くんだ。
私は、人生初の優勝だなと思った。スワッチさんの素晴らしいパフォーマンスのおかげで、私はひとりでは到達できなかった場所に連れていってもらったのだ。
と、ここまでスワッチさんとのD-1グランプリのことを書いた。
今日は久しぶりに「マインド葦」に伺い、スワッチさんに会った。今日はただ二人でお茶をするだけの会だ。私はウクレレを持っていった。もう何年も触っていなかったが、スワッチさんがストラップをプレゼントしてくれるというので、これをきっかけに久しぶりに出してみたのだ。音を出してみるとチューニングがやばくて二人で笑う。いくつかのコードを教えてもらったりした。その後、スワッチさんおすすめの喫茶店に行き、たくさん話をする。それはもう、いろんな話をした。これから、もしかしたら私たちは一緒にもっとパフォーマンスを作れるのではないかと二人であれやこれやも話した。私にとって今、スワッチさんというアーティストがいることは希望以外のなにものでもない。私はこの人に底知れない魅力を感じていて、スワッチさんは舞台に上がりたいと思っている。幸福な出会いであった、私たちヌードルズがこれから生き延びるための、たくましく生きていくための、そしてささやかに人と手を繋いでいく優しさを大切にしていくための、希望だ。
コーヒーを飲んでいたら「お口直しにどうぞ」と味噌汁をサービスしてもらった。驚いたなあ。美味しかった。