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次の部屋 Ⅵ

 マチルダの独り言:「もう、此処へは来ちゃいけないと言い聞かした筈なのに・・・あなたはまるで夢遊病者で時空と夢を無意識で旅をしているのね」
ゲイリーの奴、また濃い薬を盛ったのね。そう呟いて、東屋にある小さな洗い場に行き、栓を捻って、両手で水を満たし口に含んで、ソファーに横たわっている僕に口移しで、水をゆっくりと飲ませた。
「さあ、もう起きるのよ」
そう言って、マチルダは僕の頬をピシャピシャと左手で叩いた。

 僕は、海の底にいたが、暖かい光が透過して僕を包んでいてくれるようなそんな感じで少しずつ、身体が浮上し、そして海上に達し、碧い空を視つめた。太陽を探して身体の向きを変えると、不思議なことに、海上の僕を空から俯瞰して視つめている少女がいた。僕の意識のチャネルを客観に還るだけで、世界の風貌が変わる。
偏西風の風が、強く吹き僕はまた海上の僕に戻った・・・と同時に意識が戻った。
マチルダが僕を視つめていた。

 何となく恥ずかしげに「え~と、僕はどうしたんですかね?」
「時間がないの、さあ、あの左の扉から逃げて」
「逃げて?何処へ?」
「それは・・・ドアノブに聞くのね。さあ、早く」
 僕の身体を引き起こして、マチルダは扉の前まで引き連れた。
「じゃぁ、お大事に。ほんとうに、此処へは来ちゃいけないからね」
 よく事情がわからないままドアノブをポケットから取り出して、今一度マチルダを視 つめて言った。「『ブラックスワン』に気をつけて、そして頑張って!」
「何?それ」
「17年後、君は喝采を受ける」 そう言って、僕は手を振り、踵を返し
 てドアノブを右に回した。 次の部屋が現れた。                              Ⅶに続く

次の部屋 Ⅶ

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