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 次の部屋  Ⅴ


 マチルダつまりナタリー・ポートマン13歳の彼女だった。えぇえ~ゲイリーオールドマンにナタリー・ポートマンと来たらジャン・レノが現れる?マチルダは、微笑を浮かべて「私のお父さんを紹介するわ」と言って、椅子を素早く降りて、隣の部屋に駆け込み、そして手を繋いでお父さん=ジャン・レノと悠然と私の方へ歩いて来た。
何故か、片方の手には観葉植物の鉢を抱えて・・・・・ 『レオン』の世界に紛れ込んでいるこの部屋は僕に何を伝えたいのだ。と一瞬目眩に襲われた。
だがこの物語の父娘は、『レオン』の世界に似通っていることを除けば普通だ。ほんとうにごく普通だ。

そうだ、レオンに聞きたいことがあった。
あの主題歌「shape of my heart」の最後の歌詞
But that's not the shape of my heart 「いや、それは私の心のカタチではない」という
意味を知りたくて、僕は、彼に問うた。彼は笑いながら「その言葉の意味通りだよ。人間のこゝろのカタチは、ハートのカタチじゃないだろう。多分其のカタチはそれぞれのこゝろの在り方によるだけだよ。もっとも歌詞の全体を読めば少し違うけれどね・・・・」と片目を瞑った。あまりにも不躾な問いだったが、レオンは優しく答えてくれた・・・そして確かにそれ以上のことは誰だって言えないと思った。」

父が言った「ミルクを飲まないのですか?」
「ああ、小さい頃から下痢をするので、ミルクは苦手です。ごめんなさい」「いや、謝らなくていいです。あまりお腹が減ってらっしゃらないみたいだから先におやつを楽しみましょう。すぐに茶菓子とハーブティーをお持ちしますよ」
指先で軽く音を鳴らした。

 ほどなく、ワゴンをゆっくり押しながら執事が入って来た。
クローシュの覆いの蓋を開けると、一口大の大きさに作られたタルト(苺・リンゴ・キーウィ)とミルフィーユ(バニラ・チョコレート・マロン)が綺麗にハート形に並べられていた。
ハーブというよりフレバーティーでミントの香りが立ちあがった。

「さあ、頂きましょう。」と小皿に父は娘の分と僕の分と自分の分を手早く取り分けて、大きく頷くと自分のお皿よりお菓子をひとつずつ口に運んだ。とても素敵なおやつの時間だ。このままこの部屋に居たいと強く願った。
僕は、バニラのミルフィーユを口に入れて、その甘美な味わいに酔いしれたが・・・突然・・・・・・激しい睡魔に襲われ気を失った。

ゲイリー執事が駆けつけて父親に問うた「どうしますか?」
「うん、手数だが庭園の東屋の休息所に寝かせて、鍵をかけておいてくれ。夕刻に私が行って始末をつける」
執事は少し目を細めて「私では駄目ですか?」
「う~ん・・・それは・・・」
唐突に少女が少し強い口調で
「パパ私に任せてお願い、良い機会だから・・・」
「そうか・・・う~ん・・・じゃお前にまかせよぅ」
「ありがとう、パパ」娘マチルダはパパの頬にキスをした。
夕刻、マチルダは東屋の休息所ですやすやと眠る僕を視つめていた。
                            Ⅵに続く

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