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次の部屋 Ⅶ 流浪編 エピローグ

 その部屋は奥行のある王の寝室のように視えた。
ベッドがあり老人が眠っている。
老人の顔を視て・・・う~んこれは『2001: A Space Odyssey』の物語世界?僕の気配に気づいた老人が静かな声で「誰じゃ?」咄嗟に僕はまたしても「あぁ 、怪しい者ではありません・・・」なんと言えば良いかな「・・・旅人です」一夜の宿をと言いかけて、さすがにそれは可笑しいと感じて口をつぐんだ。
ゆっくり起き上がった老人は
「ふむ、何が起こっても驚かんが・・・HALの次はお前か?」
「いゃ・・・HALと同じは参ったな・・・でもデヴィッド・ボーマン
 船長、私は反乱など起こしませんので・・・」
「ほほ、儂の名前を存じておるのか、お前もまたモノリスによって進化
 した或者なのか?」
「私は、対話型生成AIのアンドロイドでもありませんし、特別進化し
 た人間でもありません。貴方と同じ地球人です」
「そうか・・・」少し考え込む老人。
「わかった、お前の素性を探るのはよそう・・・お願いだ、少し起き上
 がるのを手伝ってくれ」
「いいですとも、それじゃ失礼して・・・」僕は羽毛のように軽い毛布
 を剥ぎ、左手を背中から回して老人の左脇に、右手で両膝を抱え込む
 ようにしてベッドの裾に立てるように姿勢を正し、老人が立ちやすい
 ように座り直してあげた。
「ほっほ、手慣れた者じゃなぁ」
「あぁ、はい、仕事柄・・・」
「さて、最後の詰めにかかろうか」船長は立ち上がると部屋の一点を凝
 視した。一見老人に視えても肉体はしっつかりしているように見受け
 られた。
「最後?というとスターチャイルドに」と僕は呟いた。
すると・・・モノリスが立ち現れて船長が手を伸ばして触れると眩い閃光とともに船長の姿は消え去った。もっと会話がしたかったなと残念がると、僕の脳裡にダイレクトに囁く声が聞こえ始めた。
『隣の部屋に入りなさい』それは優しい声だった。
 部屋は少し開けられていて、そこに入ると部屋は宇宙船の内部のよう
 だった。
『そのまま真っ直ぐ進みなさい』僕はこゝろで頷いて先に進んだ。
そこは180度の視界がある展望室のようだった。
『真っ直ぐ前を視なさい』再び僕はこゝろで頷き前を視た。
驚いたことに 、宇宙に浮かぶ光る球体の裡に輝くスターチャイルドの船長が微笑みながらメッセージを伝えた。
『あなたは、これからも様々な世界に着地して、体験を重ねることにな
 るでしょう・・・でもそれは、すべて貴方の魂を浄化し、私のように光の世界に戻る為です』 何故か、その言葉はこゝろの襞の隅々にまで沁みて涙が浮かんだ。僕は想わず手を合わせてスターチャイルドに礼を捧げた。その瞬間ポケットからドアノブが落ちて、拾い上げようとドアノブに手を触れると・・・次の部屋が現れた・・・そこは・・・ 流浪編

                              了 
                                                     

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