家族生活満足感・幸福感尺度の開発

はじめに

人々は家族生活に対してどの程度満足し、幸福感を感じているだろうか。実は、これらを測定する方法は、非常に限られている。本記事では、「家族生活満足感・幸福感」の尺度を開発することを念頭に、私論を述べたものである。まだ研究アイデアの段階で、サーベイも不足しており、雑筆も多い。

家族とは

家族は対人システムの一つであり(家族システム)、システムの要素(家族成員)間の相互作用(コミュニケーション)から観察されるものである。

研究者は、家族に関する変数を扱う場合に、家族間のコミュニケーションの内容や形式を測定し、家族の構造(関係性の組み合わせ)と機能(精神的安寧や子育て、問題解決力)を評価することが多い。

家族構造

家族構造の測定では、持続的なコミュニケーションで形成された家族成員間の結びつき(お互いの仲の良さや親密さ)や勢力関係(影響力や発言力、決定力)に着目し、それぞれのサブシステム(父と母、母と子、父と子など)のそれを評価して抽象・類型することを通じて、特定の家族構造(関係性の組み合わせ)をみていく。

家族機能

家族機能の測定では、持続的なコミュニケーションのうち、お互いに助け合う、家族間で相談する、家事や役割を分担する、取り組み方を柔軟に変更する、など特定の行動を測定し、抽象・類型化することを通じて、特定の家族機能(適応性など)をみていく。

以上の方法は、いずれも家族のコミュニケーションがどのような内容であるのかを見ていると言える。すなわち、コミュニケーションのうち結びつきや勢力関係に関する内容をみることで関係構造を捉えるか、分担や相談行動などの適応的な内容をみることで機能を捉えるなど、目的に応じて使用尺度を選択することになる。

コミュニケーションの形式

コミュニケーションの内容的な側面に着目する研究の他には、発話量、コミュニケーションのルート(母を通じて父が子に間接的にコミュニケーションをとるなど)やパターン(同じような行動の連鎖(相称性)か違うような行動の連鎖(相補性)か)など、コミュニケーションの形式的な側面に着目する研究もある。また、ストレスモデルに従って、家族内のストレッサーを測定する研究もある。

先行研究の問題点

以上の研究は、概して、家族の構造や機能あるいはコミュニケーションそのものを測定する方法を示しており、家族の客観的な状態や状況を明らかにできる。しかし、家族の客観的な状態や状況に対して、家族成員が主観的にどのように評価(満足感・幸福感・イメージ)しているかを測定する尺度は少ない。家族がどのように意味づけているのか(満足感・幸福感・イメージ)を測定したい場合に選択できる尺度が少ない。

家族成員にとっての家族に対する主観的な評価(家族場面に限定した満足感や幸福感)に着目することは重要である。なぜなら、家族システムを相互主観的なものと捉えられるからである。

家族機能をとらえることは、家族全体の機能/機能不全をとらえるという点で理に適っている。しかし、研究者にとって、対象者からみた家族の主観的な評価を測定する必要がある場面は少なくない。ワークライフバランスの研究を例に挙げると、労働者にとって家族がどのような存在として意味づけられているのかを測定することは、家族の構造と機能の測定と同じ程度に重要である。

家族に関するアウトカム指標

家族に関するアウトカム指標(生活満足感、主観的幸福感など)は、家族の状態や状況の影響を受けた個人がどのような満足感、幸福感を示すかを測定するものである。

既存の研究では、家族に対する個人の主観的な評価を測定する尺度が少ないため、家族に特化していない、生活全般における満足度や主観的な幸福感を測定する尺度で代用することが多い。今後は、家族場面に限定した満足感(「家族生活満足感」)と幸福感(「主観的家族幸福感」)を測定する尺度が求められる。

目 的

本研究の目的は、家族場面に限定した満足感と幸福感を構成因子とした「家族生活満足感・幸福感尺度」を作成し、信頼性と妥当性を検討することである。

尺度開発後

個人を対象とした「家族生活満足感・幸福感尺度」は、①②のように利用できる可能性がある。また、この尺度を用いた実証研究と、満足感・幸福感の規定要因を検討する必要がある。

①相互主観性

家族成員全員に対して、主観的な評価(家族場面に限定した満足感や幸福感)を尋ね、その総和と偏りを抽象・類型する方法

②他者想像性

家族成員1人に対して、主観的な評価(家族場面に限定した満足感や幸福感)を尋ねると共に、他の家族成員について視点からの主観的な評価を尋ね、その総和と偏りを抽象・類型する方法