【ゆ虐SS】庭ゆのまりさ

 真夏の日照りがアスファルトを黒く焦がしている。昼前なのに茹で上がりそうな猛暑日だ。セミのうるさいごく普通の住宅街の洋風の一軒家、庭に続く掃き出し窓のステップの下に1匹のまりさがいる。

「ゆぅ...たいようさんじーりじーりしててゆっくりしてないよぉ」

 日陰で暑さを凌いでいるこのまりさ、体のところどころ土汚れが見えるが野良ではなく飼ゆなのだ。まりさは飼いゆの中でも『庭ゆ』と呼ばれるゆっくりだった。

 庭ゆとは主に庭の手入れを行うゆっくりだ。もちろんゆっくりには複雑なことはできないので、花壇に入り込んだ虫を食べたり、雑草を抜くのが仕事だ。

 このステップの下がまりさのゆっくりプレイスだ。干した雑草や青虫、どこで見つけたのか色とりどりのビー玉がたくさん置かれている。あまりにゴチャゴチャ物を置きすぎてしまうと飼い主に注意されるので、ゆっくりにしては割と綺麗に置かれている。

 干した雑草や虫は、ゆっくりの越冬期間中の保存食として使われる。まりさは時折飼い主がいないのを見計らってやって来る野良ゆとの取引にこれを使っている。ビー玉などはそれによって手に入れたのだった。

 さて、当のまりさは困り果てていた。連日の猛暑で例年以上に草がよく生えるのだ。この暑さでは野良ゆも交易(?)には来ないし、干し草のストックはいっぱいだし、何より暑さで日向に出られない。草が抜けなければ怒られるし、出れば極度の虚弱体質のゆっくりでは数分で焼きまんじゅうになる。

「もうすこしまつしかないね...」

 日が落ちてから作業をしようとまりさは思った。来訪者もいないので退屈だった。

 ため息をついたその時掃き出し窓がガラガラと開く。

「おいまりさ」
「ゆぅ!おにいさん!」
「めちゃ草伸びてんじゃん」
「このあつさじゃまりさしんじゃうよ...」
「まぁそりゃそうか。上がってこいよ、スイカあるぞ」

 てっきり折檻されると思っていたのでほっと一安心。まりさは掃き出し窓に飛び乗り、おにいさんに雑巾で身体を拭いてもらってから家の中に入った。

 家の中、心地良い弱冷風がまりさの肌に触れる。ブロック型に切り分けられたスイカがちゃぶ台の上に乗っている。まりさの前にほんの少し赤い部分が残った皮が置かれ、まりさはそれを嬉しそうに食べ始めた。体の良いコンポストだ。くちゃくちゃと音を立てて食べるがこぼすことはない、及第点と言ったところだろう。

「最近すげー暑いけど大丈夫か?」
「だいじょうぶ!…でもないけど、しぬほどでもないよ」
「今度小さめの扇風機買ってやるかな」
「せんぷうきさん…?」
「あー扇風機っていうのは…まぁ今度見りゃ分かるよ」
「ゆぅ〜ん!うれしいよ!」

 飼い主の男は一人暮らしでまりさ以外に話相手はいない。ずっと家にいるが、何の仕事をしているのだろうか。そんなことはまりさの知るべきことではないのだ。

 スイカ(とその皮)を食べ終わり、まりさは少し部屋で涼んだ後部屋の外に追い出された。

 まだ昼過ぎでやることがないので、昨日抜いた雑草をまとめることにした。干し草通貨がたくさんでビー玉1つという人間からすれば全くわけがわからないレートだ。まりさにとってビー玉を集めるのは生き甲斐で、交易に来るゆっくりたちもまりさのビー玉好きをよく知っていた。

 おさげとくちびるで器用に紐を作っては草の束を作る。誰に教わったわけでもないが、手慣れた手つきだ。

 内職に励むまりさの耳(というか全身)が、小さな赤ゆの声を感じ取った。玄関の方を見ると、少し大きめの葉っぱがもぞもぞと動いている。

「ゆ...ゆゆっ?」

 なんとも不思議な光景にまりさは驚いた。

『おにぇしゃん...あちゅいよ...』
『...ぎゃんばりゅのじぇっ!もうしゅこしでごはんしゃんいっぱいたべりゃれるきゃらねっ!』
『『ゆーえすっ!ゆーえすっ!』』

 謎の赤ゆの声はこの動く葉っぱの下から聞こえるようだ。葉っぱはまりさの家にまでやってきた。まりさは恐る恐る葉っぱをめくった。

『『『『ゆっきゅりしちぇいっちぇねっ!』』』』
「ゆゆうっ!?ゆっくりしていってね...!?」

 まりさは度肝を抜かれた。なんと葉っぱを動かしていたのは4匹の赤ゆたちだったのだ。れいむ2匹にまりさが1匹とアリス1匹。饅頭の皮も白く柔らかく、あんよには所々に擦り傷が見える。相当な長旅だったのだろう。

 事情を聞くと、どうやら郊外の公園にある群れがゲスゆの不手際によっていっせいくじょされたようだった。この赤ゆたちはその生き残りだという。

「まいちゃはおきゃーしゃんたちからおばちゃんがびーだましゃんがすきってきいてたのじぇっ!」
「ゆぅ...そ、そうだけど」

 おばさんと言われたことにまりさは少し不服を感じつつ、何となくこの赤ゆたちの要求を察することができた。赤ゆたちの目線は保存食に向かっている。

「だきゃらきょれとごはんしゃんをこうかんしてくだちゃいっ!!」
「「「おにぇがいしましゅう!!」」」

 おそらくラムネ瓶の中のものだろう、青いビー玉を差し出し、ベチっと額を地面に叩きつけて赤ゆたちは懇願した。

「うるせえぞっ!!!」

 飼い主の男が窓から出てきて言い放った。赤ゆたちは人間の存在を感じ取り恐ろしーしーと涙を流し、ポインポインと体を弾ませながら喚き始めた。

「ゆんやあああああああ!!!にんげんしゃんだょおおおおお」
「きょわいよおおおお!!!おきゃああしゃああああ!!」
「ぴぃっ!!ぴぃっ!!」

 騒がしいのはステップの下だと気づいて男はまりさを鷲掴みにしてすっこ抜いた。

「何やってんだお前ぇよお!」
「ゆっゆうう!!まりさじゃないよおおお!!」

 まりさはおさげでステップの下を指さした。男は数匹の赤ゆたちを見て愕然とした。まさかまりさが勝手にどこぞの野良とすっきりー!して子供を作ったのだろうか。頬を握りつぶす勢いで男がまりさを手に持つ。

「てめぇ...何勝手にガキこさえてんだ...!」
「いだいいだいいだいいい!!まりさのおちびちゃんじゃないよおお!ゆっくりしてええええええ!!!」
「は?」

 泣き喚いている赤ゆたちを虫かごに入れて、家の中で事情聴取が始まった。赤ゆが泣くのをやめるまで大分かかった。

「...なるほどじゃあこいつらは親が全員死んでお前に餌恵んでもらいに来たわけか」
「そうだよ!わかってくれたんだねっ!」

 男の理不尽な暴力でまりさの顔は医療用小麦粉まみれだ。

「ふーん、こいつらそんな長旅してたのか」
「あに゛ゃああああああ!!」

 赤ゆたちを虫かごから放り出し、煙草をまりちゃにおしつけながらおにいさんはつぶやいた。

「まりさ、こいつら片しとけ」
「ゆっ...」

 男はゆっくりが嫌いだった。たまたままりさは言うことをよく聞いて賢い個体だったから庭に住まわせていただけだった。まりさに選択肢はない。

「...わかったよ」
「お゛っびゃ!!」
「も゛ぢょ...ゆっぐじ...じ...ぶむっ」

 まりさは全体重をかけて赤ゆたちを殺した。「制裁」という名目のない同族殺しは人間でも基本的にタブーだ。しかし、それ以外にまりさが生きる道はないのだ。皮が破けあんこが漏れて床を汚さないように、じんわりと体重をかけて中枢餡を潰すのがまりさのやり方だった。

 特に面白みのない虐殺ショーを終えて、赤ゆたちの死骸と一緒にまりさは庭に放り出される。

 日が落ち始めている。夕焼け空をしばらく見上げ、まりさは赤ゆたちの墓を掘る。赤ゆたちはまとめた干し草と乾燥青虫と一緒に埋められた。

 まりさは仕事を始めた。草を抜き、虫を捕まえる。それがまりさのゆん生なのだ。

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