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注文の多いパフェ店

*実在するお店を元に、創作も入れた脚本です。課題は「魅力ある男」で、人間の二面性と葛藤を表現する、です。


   人 物
森本拓郎(53)パフェ店マスター
西田龍太(22)大学生
石川彩乃(21)西田の恋人


○札幌の古い建物・外観(夜)
築70年以上と思われる2階建ての建物。白いボロボロの外壁の上に掛けられた板金に擦れた黒いペンキで「パイとケーキ」の文字。
ドアの前に、20代後半の女性2人組が並んでいる。
建物の前を、西田龍太(22)と石川彩乃(21)が通り、足を止める。

西田「パイとケーキって書いてあるけど?」
彩乃「なんか怪しいけど面白そう!」
   
 ×  ×  ×

ドアが開き、森本拓郎(53)が顔だけ覗かせる。
森本「準備ができました、どうぞ」

○店・中(夜)
カランコロンとドアの鐘が鳴り、入ってくる西田と彩乃。
薄暗い店内の入り口横に4人掛けの小さめのテーブルが2つある。
彩乃、顔をしかめる。

彩乃「(小声で)なんか……変なニオイする」

こげ茶の古い木の床から黒い天井までキッチンぺーパーの束が積み上げられている。
西田、低い天井を見渡しながら、

西田「防空壕みたいだな」

奥に地下に続く階段があり、女性2人組が降りていく。
西田と彩乃、入り口近くのテーブルに座る。
メニュー表にズラリと並ぶパフェの名前。

彩乃「ねぇ、パフェしかないね。パイとケーキどこにもないよ」
西田「後ろ見て……」

彩乃、後ろを振り向くと、壁に手書きの紙が何枚もセロテープで貼ってある。
「マスクの人、風邪の人は入店お断り」
「くしゃみ、咳をする人はティッシュを口にあててください」
彩乃がメニュー表をひっくり返すと、小さな字でビッシリ説明が書かれている。

彩乃「何々……クリームチーズパフェは平日の暇な時間だけしか作りません。凄い!全部のパフェのこだわりが書いてある」

西田、スマホで動画を撮り始める。

西田「こんばんは。龍です!いつもありがとうございます。今日はですね、札幌の激レアなパフェのお店に来て……」 
森本「うちは撮影禁止です!」

森本が慌てたようにやってくる。

西田「す、すみません!」
森本「(早口で)ご自分のパフェだけ撮影してもいいです」
彩乃「あ、私、クリームチーズのパフェお願いします」
西田「僕も同じのを」
森本「かしこまりました。水はセルフです」

慌ただしく厨房へ去っていく森本。
ドアの鐘がカランコロンと鳴り、女性と男性の数人グループが入ってくる。
森本、厨房から顔を出し、

森本「(早口で)お客さん、何人ですか?」
女性客「4人です」
森本「すみません、うち3人グループまでになっているんです」
女性客「え……2人ずつのグループに分かれれば大丈夫ですか?」
森本「(キッパリと)3人までになっていますので、また今度いらしてください」

ドアが閉まる。
西田と彩乃、目を丸くして、隣の空いているテーブルを見る。

  ×  ×  ×

西田がスマホで時間を確認していると、森本が小走りにやってきて、パフェ2つを持ってくる。

森本「お待たせしました」

グラスから溢れ出そうなクリームとチーズがアイスの上に無骨に乗っている。

森本「クリームは溶けやすいので、3分で召し上がってくださいね」

森本、慌ただしく去っていく。

西田「1時間半待って、3分で食べろって無茶だろ」
彩乃「ヤバ~イ!!美味しい!!」
西田「うん!これはうまい!」

○同・レジ前(夜)
西田が森本にお金を支払っている。

西田「めちゃくちゃ美味しかったです!」
森本「(微笑みながら)パフェを残したお客様の顔は何年も忘れませんね」
彩乃「えっ!」

森本、4センチ四方の紙を2枚手渡す。
ハサミで端が不ぞろいにカットされている。表には「People Peape(ぴーぷる ぴーぷ)」の文字。

西田「ぴーぷるぴーぷって、お店の名前ですか?」
森本「そうです。造語で地球を意味します」

○同・外(夜)
西田が紙の裏を見ると、漢字以外は半角カタカナの、かすれて読みにくいインクで「5円サービス券 地球ハ生命ニトッテ大切ナノデ環境ハ……」の文字。

西田「読めねーし(笑)。宇宙人の交信みたいだな」

西田「店と全然関係ねーし(笑)」

西田、「パイとケーキ」の看板を見上げながら、スマホで看板とカードの写真を撮る。

彩乃「(笑いながら)でもきっと、札幌で一番美味しいパフェのお店だよね」

(タイトル)1カ月後
○ぴーぷるぴーぷ・外観(夕方)
マフラーや帽子を被った50人以上の若者の行列ができている。
前から10人目くらいに西田と彩乃の顔。
西田、後ろを振り返る。

西田「ヤバッ!どんどん増えてるぞ。開店2時間前だぜ」

彩乃、手をマイクにして西田の口の前に出す。

彩乃「バズったご感想、どうぞ!」
西田「(満足そうに)想定外ですよ、あんなにシェアされるなんて……」

西田、スマホの画面を取り出す。
インスタに、ぴーぷるぴーぷの外観、パフェのアップ写真の記事に3252シェアの文字。
Twitter、12715リツィートの文字。
「まるで廃墟」「勇気を出さないと難しいお店」
「難易度が高い締めパフェ店」
「パフェを残した客の顔は忘れないマスター」
など、拡散されているたくさんの人の投稿。

 ×  ×  ×

森本、ドアを開けて顔を出し、行列を見て顔をしかめる。
黒いセーターの上にカーキ色のエプロン姿の森本が出てくる。
行列の最初の人から順に、番号が書かれた厚紙を配っていく。

森本「1……2……3……」

西田、彩乃の厚紙は「12」「13」の番号。
彩乃の後ろの男性2人組が、森本に話しかける。

男性客「あとどれくらい待ちますか?」
森本「うち、初めての人?」
男性客「あ、はい」
森本「(ため息をつき)初めてか。そういう質問する人、うちに向いてないよ」
男性客「えっ……」

森本、その後ろの女性2人組に話しかける。

森本「うち、初めて? 終電に間に合わないかもしれないよ、帰ったら?」

西田「(後ろの様子を見て)マスターの攻略法、俺がせっかくネットにまとめたのに読んでないのかな」 

更に後方で、森本が外国人と揉めている。森本が何か言っても通じていない様子。
両手のひらを天に向けて首を振って去っていく外国人。
その後ろ姿を見て悲しそうな表情の森本。

○同・中(深夜)
レジの前で、西田が支払いをしている。

西田「すごい人気になりましたね」
森本「(悲しそうに)いや~昔の馴染みの方が入れないのが辛いですよ」
西田「あ……」

森本「今日は外国人に誤解されちゃって。僕は昔、アルゼンチンに旅行に行ったとき、もの凄く美味しいアイスを出すお店に出会いました。その味が忘れられなくて、このお店を出したから……外国人によい思い出を作れなかったなぁ……」

○同・外(深夜)
西田と彩乃、複雑な表情で出てくる。

西田「マスターの真意、俺は気づけていなかったな……」

彩乃、西田の背中にそっと手を置く。

○翌日・ぴーぷるぴーぷ・外観(昼)
森本が中から出てきて、張り紙をセロテープでドアに貼る。張り紙の文字、クローズアップ。

「お願い 外国のお客様が来店される場合、忍耐強い日本人と違い、待つことの価値観が違います。もし外国のお客様が来店された場合、日本の名誉の為、なるべく優先して作りたいと思います。その時は日本人のお客様1人1人に了承の確認を伺います。よろしくお願いします」
       ~おわり~

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