見出し画像

空の果て、世界の真ん中 1-8

空の果て、世界の真ん中
第1話、始まりの船8


ジーノが語りを切り、エールをゴクリ。
マリオもおかわりを受け取る。

するってぇとアレかい?
大昔の船を手に入れたってのか?

例の凄い速い船みたいな
トンデモ性能の船だったってのか?

さあ、どうでしょうと言って
ジーノは小腹が空いたのか
腸詰めをつまんで口へ運ぶ。

ジーノ、あんたすげえよ。
藪から棒に誰かが言う。

頭のイカれたホラ話を
こんな面白い物語にするなんて。

最高の賛辞にジーノは
顔をほころばせる。

さあ、続きを語ろう。


どれだけの時間、
ここで眠っていたのだろうか、
太古のドッグに横たわる朽ちた船。

光を返さぬ漆黒の装甲は
あちらこちらが欠落している。

「……さっき運命云々と言ったけれどもね、
 これは出来過ぎだ

 レイラズは知っていて私たちを
 ここへ寄越したな?」

文句を言っている風だが
ローラは興奮を隠しきれていない。

カロンが小さな声で呟く。

「…………やっぱり。
 随分ときれいだな?」

ラニは思わず、ごくりと唾を飲み込む。

「これ……一体どれくらい昔から
 あるんでしょうね。

 ……ローラさんが言うように
 運命的なの感じちゃいますね」

警戒を解けず喜んでいいのか
わからずにいるルージュ。

「……お節介と言っていたな、あいつは。
 来たこともある………。

 しかし、これまた随分と古い……よな?」

「……たしかに、こいつは随分古いもんだ」

カロンには確信があるようだ。

ローラは少し歩き回り観察をしている。

「古いだろうね、外観からでも私たちの
 知る文化のものではないこともわかる。

 と、なるとだ。動かせるのか、が焦点だね」

「そ、それですよね!
 動かないと僕たち永久に
 ここに住むことになっちゃいますし」

ローラとラニの懸念に対してカロンが言う。

「古さの割には朽ちてない。
 古い遺跡ってのは、普通もっとこう……。

 詳しく調べたほうがいいかもな、こりゃ」

「朽ちてない、か。
 そういうものなのか……
 では、希望を抱いてもいいかもしれないね」

ローラがニコリと笑う。

「誰かが管理してたんでしょうか……」

管理という言葉にルージュが
別の懸念を口にする。

「近づいてドッカーンだなんてないよな」

あり得るかもな、
と真面目な顔でカロンが言う。

「ええっ!? ありえるんですか!?」

「おう!

 目の前に美味しいお宝ぶら下げて
 ふらふら~っと来たところを一網打尽!
 効率良いだろ?」

冗談なのか本気なのかといった顔のラニ。
さもありなんとローラが笑う。

「ははは、だけどね、
 目の前の美味しいお宝に
 寄って行かない私たちではない、

 そうだろう?」

「トーゼン!」

リットラのトレジャーハンターは
自信満々の様子だ。

それを見てラニは心強く感じた。

「……気を付けて探索しないと、ですね」

「ま、慎重に。
 絶対に一人にならないように。
 なんかおかしいと思ったらすぐ呼べよ」

目を逸らすルージュ。
聞いているのかわからないローラ。

「呼 べ よ ?」

「は、はい! 仮に得体の知れない
 ボタンとかあっても絶対押しませんから!
 呼んだらすぐ来てくださいよ!」

大丈夫だ、大丈夫、と笑顔のルージュ。
きょとんとするローラ。

「得体の知れないボタンだって?
 押すに決まっているだろう」

「じょ、冗談ですよね……?」

本気かもしれないと震えるラニ。

「やっぱさっきのなんかやってたか~」

急に点いた明かりの原因に
カロンは辿り着いた。

「連行する必要があるらしい」

ルージュに右腕を掴まれるローラは
特に抵抗もせず首をかしげている。

「冗談はこのぐらいにして……行くか」

「ええっ……」

ラニはルージュの言う冗談の範囲が
わからず困惑した。

包帯を解き、紙に血液を垂らすルージュ。

朽ちた船の開口部へと
階段のようなステップが出来上がった。

「抜け駆けはナシってことだな?」

ハンドサインで続けと促し
真っ先に内部へ向かうルージュ。

言われるまでもなくカロンも足を掛ける。

「わくわくするね、
 探空士の本懐といったところか」

笑顔で進むローラと不安げなラニ。

結局、二手に分かれることにした。


ローラとラニは機関部に到達する。
あちこちをいじくり回す博識なアンティーク。

「どんな本にも、こんな技術は
 書いていなかった……歯がゆいね。

 だが、おおよそ、我々の知る技術の
 延長線上にはあるはずだ。

 機関部についてはお手上げだけれどもね」

ラニには何を見てもよくわからない。

「機関部ダメだったんですか……
 一番大事な箇所だったのに、残念ですね。

 でもやっぱりローラさんすごいですね!
 見て回ったけど、なんか壊れてる
 くらいしか僕わかんなかったですよ」

「はは、わかったと言っても、消去法さ。
 わからないことがなんなのかわかった、
 といったところだよ」


一方、ルージュとカロン。

周囲の技術を理解しようと考えながら
歩いていたルージュは
飛び出していた構造物に頭をぶつけた。

「な!?」

古さと老朽具合の差について
頭を悩ませていたカロンは
目の前の大女の失態に気付くのが遅れた。

「……って、は!?」

咄嗟に支えようとしてしまった。
思考に集中していたせいで
判断を誤ったようだ。

「みぎゃ!?」

背中で人を押し潰した感触。
ルージュは開き直って一言。

「……トラップ発動だ」

「…………」

恨みがましい目を向けながら
なんとか立ち上がるカロン。

「トラップ、ねえ?」

気まずい沈黙。
それを破ったのは
後方からやってきたローラだった。

「ああ、いたいた。船長、カロン君。
 わかったことを共有したい、
 ちょっと来てくれるかな」

「おっ。了解」

「……今行くー」

何食わぬ顔のルージュと不機嫌なカロン。
ラニが違和感に気付く。

「なんか船長おでこ赤いですね。
 カロンさんは鼻の頭が赤いですし……
 なんかあったんですか?」

「言われてみれば……」

「アッ……まさかトラップ!?」

ラニは慌てて周囲を警戒しだす。

「ああ、ちょっと巨人がな……」

「運命の悪戯に翻弄されちまったようだ。
 許せ、カロン」

「ま、次あったら
 たたっ切るから心配すんな!」

「物騒な奴だよまったく」

勘のいいラニは何があったのかを把握した。

「あはは、まぁまぁ、
 おふたりとも無事なようで良かったです」


ローラは機関部に全員を集めると、
電探より複雑な謎の機械を
コンコンと軽く叩いて見せる。

「まずは残念なお知らせだよ、
 こいつは多分いかれている。
 そして、直し方は見当もつかない」

目に見えて落胆する一同。

「ただね、この船にある機材すべてが
 駄目というわけではないんだ。

 インペリアルフローレスの無事な部分を
 取り外して持ち込めば……
 飛ばすことは不可能じゃないと見た」

「それは本当なのか、ローラ。
 つぎはぎ……のようなものだろう?」

用途不明の壊れた機械をいじくりながら
ルージュが尋ねる。

「構造は意外なほどしっかり残っているんだ。

 見た目はボロだけどね、
 機関さえ、我々の理解できるものにすれば
 飛ぶ。多分ね」

ローラが機関らしきものを指差す。

「あれを分解して調べよう。

 プロペラ類も無いからね、
 インペリアルフローレスの
 パーツをうまく使うんだ」

インペリアルフローレスのパーツ。
その言葉にラニが興奮する。

「す……すごいじゃないですかローラさん!
 それってそれって……。

 インペリアルフローレス号とまた一緒に
 空を飛べるってことですよね!」

ぱぁあっと純粋な笑顔を輝かせる。

「かぁ~~~早とちりって訳かよ。
 操舵輪だけじゃなくていいんだな」

ルージュも嬉しそうだ。
カロンも朗らかな顔をしている。

「なるほど、朗報じゃん。

 あのホブゴブリンなら
 ここに来るまで散々面倒見てたからな。

 一部でもあいつが使えるなら
 こっちも大助かりだ」

大破したエンジンが
どこまで使えるかは賭けだ。

「まぁ、やってみるしかないさ。
 でないとここで飢え死にだよ」

「そうとなったらとっとと動くか。
 とりあえずここの近くにも
 拠点作らなきゃな」

カロンが、ルージュが動き始める。
食料の残りは少ない。
すぐにでも取り掛かる必要がある。

まずはインペリアルフローレス号の
無事なパーツの修理と取り外しだ。


ルージュの腹の虫が鳴る。
それを隠すように大きな声を出した。

「こっちは出来たぞ! どうだお前ら!」

ローラから念話で答えが返ってくる。

「電探なんて正直、
 持て余していた機構だけれど、

 こうなってみると
 使える部品が多くて助かるね。

 というわけで、電探は大丈夫だ船長」

こまごまとしたエンジン部品を
運び出しながらカロンが応える。

「……いや~、ぶっちゃけ最後に結構
 無茶させたから再起不能になるかな~
 と思ってたんだけど。

 どうにかなるもんだな!」

ラニの方も順調なようだ。

「船室、食堂、倉庫あたりから
 使えそうなもの確保できましたー!」

威勢のいい声を受け取り、
ルージュがニカッと笑顔を作る。

「そんじゃぁ……少し休憩だ!
 ……あそこまで運ぶのも一苦労だからな」

休憩時間。

ラニはクロッキー帳に
さらさらと筆を走らせる。

「あと少し……よし!」

描かれていたのはインペリアルフローレス号。

「また一緒に飛ぼうね、
 インペリアルフローレス」

微笑んでそう呟き、休憩を終える。


「……木っ端微塵だと思ってたけど。
 こうして見ると結構使えるもの多いな。

 いいねぇ。しぶとい奴は好きだぜ」

プロペラ、シャフト、クランク……。
梁材、伝声管、床板、窓枠……。

並べられたインペリアルフローレスの
まだ使えそうなパーツの数々。

これを運ぶのはルージュの言う通り
かなりの重労働だ。

「しかし、あいつらこういう肉体労働
 苦手そうだよな……。

 とりあえず端材使って
 台車でも作っとくか~」

そして、過酷な作業が始まる。

「ひぃ……ひぃ……。
 カロンさーん、待ってくださいよ~」

ぜぇぜぇと息を切らせながら
台車に乗せた重い荷物を運ぶラニ。

と言っても、
少年に荷が勝ちすぎているだけで
そこまで重いものを運んでいるわけではない。

体の頑健なルージュが問題ないのは
言うまでもなく、リットラのカロンも
健闘している。

予想外だったのはローラだ。

「多少だけど身体強化ができる。
 意外と働けるんだ、私は」

言葉の通り重い荷物を運ぶが、
魔法の代償は血だ。
長期戦には向かないだろう。

ルージュが魔法で強化したロープを
エンジン周りの構造物に括り付ける。

「……よし。
 クッションもそれなり……」 

肝心要の機関部の取り外しが始まる。

「お前ら! 準備完了だ!
 カロン、船体を切り離してくれ。

 あとの3人はロープを引っ張るぞ~」

そう言いながらラニを見てニヤニヤする。

「ギブアップか?」

「これは……体力回復中でして……
 ……どうぞ……おかまいなく……」

ラニはへろへろだが
最後まで頑張る気概を見せる。

カロンは、あいよ~と応えて
するすると船体の隙間に潜り込んだ。

「ハッハッハ!
 そんじゃ……せーーのッ!!」

重たい音を立てて機関の一部が
船体から剥がされていく。

「よーしよーし、そのままー。
 あぶねーから手ー離すなよォ~」

ルージュとローラが
魔法を活用してロープを引く。

ラニが気力を振り絞ってロープを引く。

カロンが後ろから全身を使って押し出す。

「船長、血を使い過ぎないように。
 ただでさえ、無茶して減っているんだ」

「まぁ、無くなったら……。
 現場調達だな」

ニヤニヤしながらラニを見て言う。
ラニはサッとローラの影に隠れた。

「僕の血はのど越し最悪ですよ~」

ぼそぼそと言っているが
ローラもわざとらしくこんな事を言う。

「あー、私も血が足りないなー」

食料の残りはわずかだ。

重いパーツを運ぶ身体は疲労を訴え、
空腹と眠気が精神を襲う。

だからこうして
冗談を言い合って気力を保っている。

体力と気力、時間との勝負だ。


使えるパーツを朽ちた船のドックに
運び込んだところで、
最大の懸念点、機関部の問題に向き合う。

まずは謎のエンジンを
無理にでも動かしてみることにした。

「……そっちはどうだ、ラニ」

ルージュは勘を頼りに
無事なパーツを繋ぎ合わせていく。

「こっちはゲホ……ゲホ!
 なんとなく、火は入りそうだなって
 感じですけど……よくわかんないですね」

それは本当にエンジンなのだろうか。
円筒の中にプロペラのようなものがあり、
燃素を燃やす機構がある。

「……ものは試しだ。着けてみるぞ」

わけのわからない機関に火を入れる。
爆発するかもしれない。
危険な所業だが、背に腹は代えられない。

凄まじい音と共に火炎が噴き出す。
もし背後にいたら一瞬で丸焦げだった。
まるで超高温の火炎放射器。

慌てて燃素の供給を止める。

「あぶ……あぶなっ!?
 火炎放射器になってませんでしたこれ!?」

「ハッハッハ!!
 とんだ兵器じゃねーか

 ……結局、そうだな。
 回転する構造、それがねーと、
 力が運動に切り替わらん」

そう、内部のプロペラが鍵なのは確かだ。
それが破損しているのか回転しない。

よしんば回転したとして、
今の環境でそれを動力に
変えることはできそうにない。

「でも、それじゃあどうするんですか?

 構造上……えっと、力がうまく
 伝わってなくて火炎放射器に
 なっちゃってますけど」

「使いようによっては………」

ルージュがニカッと笑う。
なにか思いついたようだ。

「……ローラ! カロン!
 そっちはどこがイカれてるか
 分かったかー?」

ホブゴブリンの残骸を確認していた
ふたりに声を掛ける。

「やはりボイラーがなくなっているね。
 これでは蒸気を送り出せない。

 燃素を燃やす機構を
 あり合わせで作るのは無理だね」

「ほーん?」

扱い方はわかっても、
そもそもの理屈がわかっていないのか
カロンは首をかしげている。

「そうか! ボイラーか!!
 ハッハッハ!! こいつは……

 最高の運のツキだ!

 こっちは燃焼装置だけ
 生きてやがるようだ!」

「は、はぁ……?」

ラニにはルージュが
何を思いついたのかわからない。

「……正気かい?」

意図を察して珍しく真顔で返すローラ。

「……要するに?」

説明を求めるカロン。

ルージュはふたりを呼び寄せ
再び謎の機関に点火してみせる。

「まぁこいつを見てみろ」

ごうごうと燃える炎。

「クソ強ぇバーナーを使うのさ」

この炎で湯を沸かし、
蒸気機関を動かそうという魂胆だ。

「へー? そんなんできんの?
 すげえな」

カロンはピンときていないが、
ローラは疑惑の目を向ける。

「吹き飛んでおしまい、
 なんてことにならないかい?」

「えっ…!? そんな規格外の事
 しちゃっていいんですか……!?」

ラニも把握したようだ。

「ここまで来たんだ。
 自分のツキをどこまで信じられるか。

 人生ってそんなもんだろ?
 うまく行く時はうまく行くんだよ!」

ケラケラと笑うルージュにつられて
ローラも笑い出す。

「ははは、降参だ。
 そういうことなら、預けた命だ、
 好きにしてもらおうか」

一か八かに賭けるのは
得意だと言わんばかりにカロンはニッと笑う。

「ま、やんなきゃここで骨になるだけだろ?
 んじゃ無茶でもなんでもやるだけだな!」

真剣な顔のラニ。

「無茶ですし無謀ですけど……
 やらないと可能性はゼロですものね……。
 ほかに道はないですし。

 ……なんか僕達いつもこんな感じですね」

「ギリギリを生きていくのさ。
 さいっこうにゾクゾクするだろ?」

ルージュは3人の顔を順に見る。

「さァ、動くぞ。
 時間はそこまでないからな!」

こうして、ふたつの機関の合体という
無茶な作業が始まった。

朽ちた船の配管を丸々組み替える。

燃素のタンクだったと思しき容器を
新たな釜として組み込む。

あとはインペリアルフローレス号の
機関部を接続すれば蒸気機関の完成だ。


ルージュが魔法でロープを操作する。

重い機関部を吊り上げるには
かなりの血を消耗するはずだ。
明らかに無理をしている。

だが、ここで踏ん張らなければ
待っているのは餓死。

「――オーライ、オーライ」

ラニがパイプを振ってルージュに合図を送る。

「船長、もう少し右にいけますか?
 具体的に言うと22インチくらい右に」

「ぐぅぅ……右だな?!」

ロープを引きつつ、魔法で操り、
位置を微調整する。

「どうだ!? こんなもんか?!」

苦しそうな表情。

「すごい! 誤差1インチも無いですよ!」

ここ数日間で魔法を見慣れたと
思ったラニだったが、
まだまだ奥の深いものらしい。

だが、理解が進んだ今ならわかる。
ルージュもローラもかなり無理をしている。

だから、自分にできることを精一杯やる。

「はい、そこでOKです!
 ローラさんがあとは繋いでくれれば
 行けると思います!」

「ああ、任せてくれたまえ」

接合部で待ち構えていたローラが応える。

異なる構造物の結合。
耐熱性を求められる部位。
金属と金属。

本来なら超高温の溶接機が必要だ。

今この場にそんなものは無い。
鋲で取り付けるなど言語道断。
そんなことをすれば一回の点火ではじけ飛ぶ。

ならば――

「集中しろ、応用できるはずだ。
 無理なことではない。
 理論上可能だ」

息を大きく吸い、細く吐き出しながら
自らの血流に意識を向ける。

世界をへし折る感覚――

異なる金属同士が重なり合う。

「繋がった……隙間は、無いな?」

ローラの顔は貧血により蒼白だ。
機関部より這い出して来ると、
カロンに言う。

「肝の部分は繋げたよ、
 すまないけれど、あとは頼んだ」

ふらふらと歩いていき、適当な所に座り込む。

「ああ、任された。
 とりあえずしっかり休めよ~」

カロンもまた、
ふたりの消耗を強く意識していた。

「……魔法ってのは便利な分、
 代償もでかい、と。

 必要以上に使わせるわけにはいかねえな……。
 ……ま、オレはオレの仕事をしますかね」

するり。
トールマンではまずくぐることのできない
隙間に難なく入り込む。

狭く、暗い空間に適応した種族の身体は、
こんな時にこそ役に立つ。

「おーおー、すげえなこりゃ。
 あの全然違う二つの機関が溶け合ってる。

 これだけきっちり仕事してもらえりゃ
 こっちも楽だ」

どうしても生まれる僅かな歪み。
それを逃さずカロンの腕が動く。

「……ん~、こうだな」

暗い隙間に一筋、刃の軌道が走り、
不要なでっぱりを切除する。

「たまにはこいつも使ってやんなきゃな!」

身の丈よりも長い刀を
狭い空間で器用に使い、
カロンは次の歪みに目を向ける。

仕事は迅速に。
それがリットラってものだろう?
瞳はそう語っていた。

そして――

「こっちも終わり~、お疲れさん!」

ひょっこり隙間から顔を出すカロン。

表から裏側までしっかりと繋がっている。
まるで最初からそうであったかのように。

やっぱり、みんなすごいや!
ラニの体が感動にぶるっと震えた。

「……はい、皆さんオーケーです!
 やったやった! すごいですよ!

 ふたつの船、
 ちゃんとひとつになりました!」

ルージュが大きく息を吐く。

「そうかそうか、上手い事いったか!」

呵々大笑してぐったりと座り込む。

「はは……久しぶりにこんなに血を使ったよ。
 船長に毒されてきたようだ」

ローラも頭を上げて出来を確認する。

インペリアルフローレス号のプロペラ。
剥離した装甲を塞ぐ木材と布地。
不格好だが立派な飛空艇だ。

目的だけが重なったバラバラの4人。

彼女たちは、ここに至るまでに
いくつの無理を通し、
いくつの困難を乗り越えただろうか。

見上げるのは1隻の船。
ふたつの魂と4人の願い。

それはまるで歪なパッチワーク。
テセウスの船が、今ここに完成した――

その名も
インペリアルフローレス・グラフト。

グラフト、接ぎ木という意味だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?