江戸城無血開城アンサング6
【GM】
背後から聞こえるいななき。
物凄い勢いで馬が疾走してくる。
「どいたどいた! 早馬だ!」
【カナエ】
「ぴゃっ!?」
【マモル】
咄嗟に鼎ちゃんの手を取り、道の脇に逸れる。
【レイ】
ヒュ~っと冷やかす。
【カナエ】
驚きで涙が引っ込む。
【GM】
座り込んだ目の前を早馬が駆け抜けた刹那、レイにフラッシュバックが起こる。
―――――――――――――――――――
【GM】
キミは先だって東海道を下り、江戸へと帰還する鳥羽伏見の戦いの敗残兵たちを先導した。
その時の縁で将軍様が娘のお芳を見初め、側室にしたばかりだ。
そんなキミは秘密裏に上野寛永寺に呼ばれていた。
麟太郎に連れられ奥へと通されると、そこには将軍、徳川慶喜その人がいた。
肝っ玉が太くなくては火消しの棟梁など務まらない。キミは真っ直ぐに将軍を見据えてから頭を垂れた。
【将軍】
「辰五郎、神君の馬印を掲げての行軍見事であった。お前の胆力を見込んで極秘の命令を下す。詳しい話は勝安房守から聞くといい」
【GM】
それだけ言うと、徳川慶喜は退室した。
キミは顔を上げて麟太郎に尋ねた。
また戦になるのかと。
【勝 海舟】
「それを最小限にするのが俺の仕事さ。まずはそうだな……新選組と伝習隊の血の気の多い連中が邪魔だ。勝手に暴走したって形で敵にぶつかってやられてもらおうか。そうやって主戦派の勢いを削いでおいて……和平交渉を進める。ただ、何事にもいざという時の備えが必要だ。辰五郎親分。俺は今からあんたに酷な命令を出すぜ」
―――――――――――――――――――
【GM】
レイはフラッシュバックの発生による、フラッシュバック表のロールと浸蝕判定をどうぞ。
【レイ】
1D6 > 1
いいね。乗っ取り。楽しそう。
1D100<=42 > 85 > 失敗
1D6 > 1
【GM】
では任意の時間、初期作成メモリーの記憶に飲まれます。
さて、キミたちの目的はリベレーターの撃退だ。
幸いなことに、調査するまでもなく敵はサンジェルマン伯爵だとはっきりしている。
奴を追い、倒すことが目標となる。
【レイ(名もなき英雄)】
危機は過ぎ去った。しかし、ものものしい顔で、得物を構える輩が一人。
「……天下の往来で!! 破廉恥な!!」
目線の先には手を繋ぐ二人の姿。
「拙者が!! 成敗してくれるわ!! 天誅ッ!!!!!!!」
【カナエ】
「……???」
【マモル】
無言で鼎ちゃんと顔を見合わせる。
【レイ(名もなき英雄)】
「な……!? な、ななな……!!??! それ以上をするというのか!」
【マモル】
「……なあ、鼎ちゃん。梓さん、完全に飲まれちまってるよなぁ……?」
一人称からして変わり果てている彼女を見て呆れたように言う。
【カナエ】
「え……ぇと、多分そうじゃないかなって。私もさっきあんな感じでした……よね。ううう……!」
【マモル】
「いんや、どう変わろうとも鼎ちゃんは鼎ちゃんさ。そんなに気にする事は無いさ」
優しく微笑み返す。
【カナエ】
「……あ、あわわ」
免疫がないので真っ赤になっている。
【レイ(名もなき英雄)】
「拙者を前にして!!」
【マモル】
「……とは言え、こっちはどうにかしねえとなぁ」
ゆっくりと梓さんの方に向かう。
【レイ(名もなき英雄)】
「くっ…!?」
【マモル】
そっと、右手を梓さんの肩口に伸ばす。
【レイ(名もなき英雄)】
記憶はぐちゃぐちゃだ。女性と男性のものが、まぜこぜになっているのだから。
「許せん!! 軟弱者めェ!!!!!」
隙アリアリの大上段からの大振り!
「天誅!!!」
【カナエ】
「あ、梓さん落ち着いて…!」
振り被られた薙刀に目を見開き、慌てて大野さんの身体を引こうとする。
【レイ(名もなき英雄)】
「うおおおおおおおおおおぉぉぉお!!!!!」
【マモル】
「……おいおい、普段の貴女ならそんな無様な事はしねえだろ」
一歩踏み込み、大上段から振り下ろされる腕を己の腕で止める。
「ちったあ、頭冷やせ」
そのまま彼女を押し飛ばし、後ろに流れる川に突き落とす。
【カナエ】
「……え。えええ!?」
【レイ(名もなき英雄)】
「なぁあああにいいぃぃぃ!?」
力は流され、利用され、視界は天を……
バッシャーン
【マモル】
派手に水飛沫を上げて川に落ちた彼女を見てすぐに服を脱いでパンツ一丁になる。
【カナエ】
「ふぁ!?」
【マモル】
「鼎ちゃん、引き上げてくるから荷物と服を頼む」
その言葉と同時に自身も川に飛び込んだ。
【カナエ】
「え、あの、ちょ!」
突然の蛮行に驚いている隙に、更にもう一人までもが半裸になり川へと飛び込んでいく光景を目の当たりにしてしまう。
「な、な、な、なんでこんなことにぃいいいいい!!!!」
驚いて引っ込んだはずの涙が再び流れるのは時間の問題だろう。それでも、律義に荷物を回収はしておく。
【GM】
――数分後。
ずぶ濡れになったふたりと頬を濡らした少女がそこにはいた。
【レイ】
濡れて火がつかない煙草にイライラしている。
「……あのスカシ野郎を追う、だったな」
何故かたんこぶが出来ている。
【マモル】
「だな、サンジェルマンの奴がここに来ている以上、とりあえずは奴を追うのが目標で良いだろう」
濡れたパンツの上から直接服を着つつ。
【カナエ】
「あ、あの、足りないとは思いますけど、せめてこれ……」
ハンカチを梓に差し出しておく。
【レイ】
「……あぁ、助かるよ」
【カナエ】
「あ、あの人、なんなんですか……? すごく……怖かった…」
幽鬼とも違う、更に得体の知れない恐怖を思い出して青ざめる。
【レイ】
「……大野、説明してやれ。」
水の滴る顎をクイっとしゃくった。
【マモル】
「そこは抵抗者としては先輩の梓さんが教えた方が良いんじゃないんですかねえ……? まあ、構わないが。さて、どこから話したものか……。ひとまず、これだけは絶対に話さねえとならねえは、奴……サンジェルマンは【秘術寺院】のリベレーター……己の目的のために世界を塗り替えようとしている連中の一人だ。連中が動く目的としては、失われた秘術を再現することらしいが……そのために周囲の環境や人々を全く考慮しねえ。ここで止めねえと、大変な事になるってのは確かだ」
【カナエ】
「そ、そんな……」
(え、じゃあ私そんな人に向けて変態とか、言って……?????)
泣きそうというか泣いている。
「こ、この状況もあの人が、っていうことですよね……」
【マモル】
「ああ、そうだな。この江戸で何か後の時代を狂わせるほどのことを企んでいる。それを止めるために、新たなメモリーを得た俺たち抵抗者は戦わねばならない。……ん?」
そこまで言って気が付く……否、気が付いてしまった。
「待てよ、となるとふたりも新たなメモリーを得てるんだよな。どんなのが舞い込んだんだ?」
【カナエ】
「あ、そうですよね、おふたりも……」
自身が得た福沢諭吉のメモリーと、このヴィジョンに巻き込まれた際に発生したフラッシュバックについてつっかえながらも話していく。
「……なんだか、あの記憶を見た時、すごく混乱してしまって。まるで私が私じゃないみたいな……私の中の誰かとの境界があいまいになるような……。あれが、乗っ取られるってことなんですね……」
つい先ほど、同じように“乗っ取られていた”であろう梓をちらりと見つめる。
【レイ】
煙草をしまいつつコクリと頷く。
「説明、ご苦労、後輩。あたしが得たメモリーは新門辰五郎だ。江戸の火消し。なにやら勝海舟と関わりがあったらしい。それで、だ。さっきの状況を見たらわかると思うが、新しい記憶を思い出した。勝海舟、そいつが和平交渉を進めるために、なにやら計画を立てていた。内容は……」
という感じで、思い出した事を共有。
「……という事だ」
【カナエ】
「そ……それって……」
思った以上に物騒な内容に息をのむ。
「下手をしたら、江戸が……この街が火に飲まれていたってこと、ですか……?」
周囲を見回しながら身をすくめる。
【マモル】
「……本来の歴史だと江戸は血を流さずに明け渡されたんだ。って事は……奴の狙いはこの江戸を大火で包み、焼き尽くす事か……?」
【レイ】
「……ま、させないがな」
ジッポライターをカシャカシャと弄っていたが、それをしまう。
「さてっ……と。手遅れになる前に動こう。この町はそれなりに広いからな」
【GM】
では、この場を去ったサンジェルマンを追うのに適した秘術を持っている方は行使を宣言してください。
【マモル】
「ああ、一刻も早く追うぞ。幸い、俺に継承された秘術はその辺に適している様だからな」
〈番犬の知覚〉
目標値:80/コスト:3/タイミング:キャスト/効果:何者かがいた痕跡と、どちらへ向かったかを知る。/クリティカル:痕跡を残した生物の情報を得る。/ファンブル:意志を2点失う。
【GM】
判定をどうぞ!
【PC1マモル】
1D100<=80 > 35 > 成功
【GM】
成功!
秘術で消えたリベレーターも、秘術を行使すれば追うことができる。
方角は、上野方面だ。抵抗者の思い出した記憶に上野という土地は出てこなかっただろうか。
【マモル】
奴がバケモノを使役していた秘術の残滓を見つけた。
「……よし、痕跡を見つけた。これで追える、方角としては……上野の方か?」
【GM】
キミたちが江戸の地理に詳しくなくとも、記憶が道を教えてくれる。
【レイ】
「上野か。いきなりやべぇ状況だ。辰五郎は、上野寛永寺で、時の将軍と勝海舟と会った。重要人物を消そうって魂胆か。急ぐぞ、一般人なんて一瞬で昇天させられちまうからな」
【カナエ】
「そ、そんな大それたこと……じゃあないんですよね、あの人にとっては」
彼の目を思い出し独りごちる。
【マモル】
「ああ、サンジェルマンに関してはガキのイタズラ程度にしか思ってないだろうな。こうしてみたら、どうなるのだろう? なんてタチの悪い考えをためらいも無く実行しているに過ぎねえ。……何としても、ここで止めるぞ」
そう言った後、鼎ちゃんに手を伸ばす。
「行こう、俺たちで……この江戸を、ひいては俺たちが生きる時代を守るんだ」
【カナエ】
差し出された手を、じっと見つめる。
もう一度自分たちの周囲――江戸の町を盗み見る。
そして、自分自身の帰る家を思い浮かべる。
「……私なんかにできることが、あるかはわかりませんけど……がんばるって、決めたから」
ぎゅっと、その手を握り返す。
腕も、足も、どうしたって震えるけれど。
【GM】
抵抗者たちは覚悟を胸に歩み出す。
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