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「ブルバスター」メカデザインのメイキング

2023年12月に最終回を迎えた「ブルバスター」の主役メカ「ブルバスター」のメイキング紹介です。


実写!ではなかった

MTV Japan関連の仕事をしていた頃(2004年〜)の縁もあってそれ以前からコンタクトはあったのですが、2017年にこの企画の実際的なお声がけを原作のP.I.C.S.さんからいただきました。広告映像やミュージックビデオ制作の印象が強く要潤さん主演のドラマ「タイムスクープハンター」の中尾浩之監督の新作ということで当初は実写作品だと思い込んでしまいました。

 アニメ放送開始の宣伝写真には声優さん達と写る実写版が
プロモーション映像も制作されました

聞けば「映像化を目標に原作を作る」というプロジェクト。
ほぼ自主制作あるいは同人企画です。予算は非常に限られていて初期デザインはかーなーり厳しい制約の中で行いました。最初期から参加させていただいたものの私の立ち位置としては原作の一員ではなく(パトレイバーのような体制では無い)外部のデザイナーです。

リサイクルデザイン

ブルローバーの腕(グラップラだけ異なる)と機関砲はブルバスターと共通

一番古いデザイン画のタイムスタンプは2017年2月でした。
当初は漠然とした「企業が怪獣を倒すために使うロボット」という程度の情報しかなくあらゆる設定や物語キャラクターデザインも未確定なままビジュアル先行でスタートしました。「ゴーストバスターズ」+「下町ロケット」が割と初期の共通的なイメージだったと回想します。

最終的な契約形態も含めて先行き不透明。迂闊にハイカロリーなデザインは作れませんが妥協もしたくなくていかに少ない手数で良い素材を作るかで試行錯誤しました。

兄弟機の「ブルローバー」「ブルダック」のパーツが部分的に共通しているのはそうした事情もあります。結果的に工業製品感を出すことには役立ったたかもしれません。
当時は「オーバーロード」2期や、映画「GODZILLA 怪獣惑星」に参加していたり「出雲重機 INDUSTRIAL DIVINITIES」の製作も進んでいたのでその隙間での作業でした。

「ブルバスター」「ブルローバー」のシルエットは最初の段階でほぼ出来上がっていました。その時点までの十数年間でボツになった複数のアニメ企画向けのメカデザインをミキシングビルドしたものを基礎としています。

すべて作品名は出せませんがSF小説原作のメカアニメ企画に何度かお声がけいただいてコンセプトデザインを作るもプロジェクト中止となりお蔵入りというのを何度も経験しました。
どのデザインもその都度設定から練って苦労して産んだので何とか再利用したいというのが潜在的にあったんですね。

原型となった過去の没ネタのひとつ(2012年)

最初からアニメで描かれた原作1〜3巻の物語を知っていたら、そして制作の体制・関わり方によってはデザインはまた全然違っていたでしょう。
加えて最近であったならば自律型ドローンを随伴させたりAIを活用するような設定が多分に含まれていたかもしれません(が描写が増えるので採用されるかはまた別かも)。この数年で現実のロボット事情は大きく変化/進化してしまいました。

コンセプトブックと原作1巻に掲載の初期デザイン
ブルバスターはアニメ版よりも少し細身のシルエットだった

当初は実写を念頭にデザイン検討したため実際の人間の体型にあわせた構造でしたが、後に窪之内英策先生にキャラクターデザインを手掛けていただく事になり、沖野に加えて武藤が乗れるコクピット内空間を実現するために数年間で3度に渡りシルエットをマイナーチェンジしています。
具体的には全高を維持しながらコクピットとなる耐圧殻=胴体のサイズを大きくしたので腕と足の細さがやや際立ってしまいました。

こちらは私が放送終了後に描いてみたブルバスター。重機然とした理想的なディテールはこんな感じです。既存作品や玩具のディテールを参考にすると途端に嘘っぽくなるので、実際の大型重機からサンプリングしています。戦車やガン◉ムみたいな意匠は避けたく、ブルバスターには建機の化身であって欲しいのです。コロナ禍での様々な(主に私の)都合もあってアニメのモデルの監修は省略となりました。


足にキャタピラ、尻にタイヤ

企画段階ではあの巨体で二足歩行が現実的ではないので(というのは武藤のセリフにも使われていましたが)キャタピラや車輪を併用する構造を提案していましたが、中尾さんからは「足は大地をしっかり踏んで歩く形で」というリクエストでその案は一端却下。

いまも公式サイトで使われているブルバスターの初期デザインはそのような構造で実は足にはキャタピラがありません。

実はキャタピラが内蔵されていない初期の足
機体重量を支える強固な足首フレームを検討していた

ところが中尾さんが1巻執筆中、「装輪走行形態」のリクエストが発生。その時点で脚の構造を作り直す余裕も無くコンセプトブックやグッズの形で既にデザインは世に出てしまっていたこともあり、ひとまず「足にキャタピラ機構が内蔵されている」ということを了承。

2020年、3巻用に新型機のブルダックとブルバスターの背面を含むイラストを制作する事になりますがその時点で初めて正面からのイラストの見えない足の内部にキャタピラを、臀部に小さなエアレスタイヤを増設。

タイヤは上半身を支えるには貧弱でキャタピラもおそらくパワー不足ですがアニメではそのあたりの違和感を感じさせないように見せ方がよく検討されています。


兵器無用

敵となる怪獣(巨獣)の設定が未確定な企画初期段階ではブルバスターは立派な兵器を装備していました。ロケットランチャー、機関砲、杭打ち機など割と安直でありがちな内容でした。

主役が零細企業となり、法の下で民間で使用できそうなものに変化させていきました。単純な兵器ではなく、道具を工夫して問題の解決に用いるというのは「Aチーム」や「マクガイバー」的で面白いなと思いつつ装備を考案。

「ミリタリー要素」は派手で刺激的ですが軍事面など設定で網羅すべき情報量が大きくなるとコストも肥大=専門の設定考証が必要になります。描く世界が広範囲になるほど映像化の敷居も高くなり、品質の維持も課題になります。(より専門的なスタッフを集める必要も出てくる)

ちなみに「なぜ警察や自衛隊が出て来ないのか」と思われた方も多いと思いますが上記に加え、自衛隊の武器使用は法律により厳しい制限があり市が国に要請するも困難だったという経緯が原作では描かれています。


その飛翔体はセーフ?

公式サイトのブルバスターは最初期デザイン
差し替えの絵も作ったんですけど不採用

初期のブルバスターの胸部左右にある高電圧危険マークの箇所が元々のスタンショットの射出口で、テーザーガンようにケーブルつきのチゼル(ブルポイント)を射出して高電圧を与え巨獣を倒すというものを提案していました。ヒントはマグロ漁の電気ショッカーです。

「巨獣の正体とは」の検討と同時期だったと思い返しますが「無残に殺すのはよろしく無い」ということでほぼ無傷で倒し、死骸を再利用する事で波止の運用資源になるというアイデアが初期からありました。

しかし派手さが欲しいという事で中尾さんのリクエストでミサイルが復活。当初は血液凝固弾としていました。が、前年に流行った怪獣映画と被っていたため(スタッフに観た人がいなかった)電気ショック式ミサイル=「スタンショット・ミサイル」に変更となります。

いずれにしても噴進筒は使っていて、その点は武器製造法に関わるんじゃないかと思うものの、爆発はしないのでギリギリセーフ?

コンセプトブックのイラスト
この段階では「血液凝固弾」で弾体にもその記載がある

余談ですが結局ケーブルつき電気ショッカーもブルダックで同様の機構として復活します。アニメでは経緯が省略されてますがブルダックの電撃アンカーは最終決戦用に応急的に増設したものです。(蟹江技研で沖野が最初に見た段階では水中建機なので当然非武装。塩田の支援で購入する段階でオプションとしてアンカーが増設されます。)

私としては、後付け裏設定ですが「蟹江技研がそもそも開発していたのが深海開発用のWT2-M(海神の文字り)=ブルダック(沖野命名)」であり「耐圧殻を備える基本構造を転用して沖野が対害獣用に開発の指揮を担ったのがブルバスター」でも良いかなというイメージでした。

ミサイル同様に機関砲も派手さを求められますが、こちらもやはり火薬と弾丸を使った銃器にしてしまうと残虐かつ法にも触れるため「バイオ球弾を高速連射する魔改造されたピッチングマシン」(まさにロボピッチャ)ということになっています。

アニメのCG造形に関しては、私からはエピソードを追う毎にブルバスターに破損や汚れを加えて言って欲しいというリクエストをしました。

回を追う毎に外装が汚れていくのは最高でした
背部のバンパーも歪んで、
原作では片側のライトも破損します

ブルバスターのアクションは想定の3倍のスピード&軽さという印象でした。
数十㌧の(あるいは百㌧近い)鉄塊と巨獣がぶつかり合う重量感はもっとあって欲しかったなと思う一方で、アニメ向けかつ3巻の内容を1クール、1話30分でまとめようとするとそういう演出が最適だったのかなとも思います。

リグはジョイント機構の造形の数よりも多く設置されて
アニメでは人間的な動きも

ちなみに坂本康宏さんの小説「歩行型戦闘車両ダブルオー」で描かれたダブルオーがブルバスターのデザインを考える上で個人的に割と初期からヒントになっていました。映像化して欲しい作品です。

2004年頃に描いた“ダブルオー”のイラスト
自衛隊ではなく環境省が管轄する00式歩行型車両
注)似てますが手癖、ブルバスターとは無関係です
反外見重視主義


参考になったもの

ブルバスターの外観と挙動については「エイリアン2」のパワーローダー(これは中尾さんとも共通項でした)、「マトリックス レボリューションズ」のAPC、「アバター」のAMPスーツは初期のイメージソースとなりました。ロボットというよりはパワードスーツですね。

アニメ制作時にNUTさんに提供した参考ネタ
TITANFALLも含まれていたが「機敏すぎる」とも追記


操縦室は未来的?演劇的?

操縦は操縦者の動作を拡大するマスタースレーブ式としました。「パシフィック・リム」や「戦隊ロボ」などを参考にしています。人型なので「シートに座って操縦桿握って」というよりは「パイロットの動作とロボットの動作がシンクロしているほうが観ていて気持ちも力も入る」という考えからで、ギレルモ・デル・トロ監督も同じ理由だったのではないでしょうか。

操縦装置のデザインはアニメ化に際して(その予算がついたので)より具体的に検討しました。複雑な構造も検討しましたが、作画のコストが爆上がりするのでかなり極力シンプルな形に。

コクピット内の周囲モニターは主に「Gガンダム」を参考にしましたが目的はコクピット内空間の造形・作画の手間を省くことで、ブルバスター自体よりも更にオーバーテクノロジーな要素です。
(LEDウォール自体は可能そうですが、腕に阻まれるはずの左右の映像がどうやってシームレスに構築されているのかは謎技術。AI?)

パワーアシスト機能のあるパイロットスーツもアニメでは簡略化されています。考案していた専用のヘルメットも最終的に省略されましたが、演劇的にはそれで正解だったのだろうとアニメを見て感じました。 

ノーヘルは決してご安全ではありませんが
このほうが表情もよく見え、髪の動きで勢い・躍動感がアップ


割り切り御免

その成り立ち故「ブルバスター」はなるべく小さな規模感を守りながらの物語構築を試みた作品だったと思います。原作の時点で特にメカ周辺の設定はコスト相応の要素として割り切っています。アニメのプリプロ期間中はコロナ禍の只中で取材にも出かけられなかったのは残念でした。

個人的には「ドラマの背景に実は徹底した考証がある作品」は好きなのですが、ブルバスターやブルローバーとブルダックの存在を成立させるために必要となる設定=フィクションの量はそれだけでも多く、細かな設定とそれらの整合性を実現するためのコストはそれなりです。SFやファンタジー(長年「オーバーロード」というアニメ作品にも携わらせていただいていますが)は本当に設定面のコストが大きいです。

今回アニメ化に際してはその制作費の中でガレージと備品、専用の輸送トラックや船舶類ほかのデザインも新たに行いましたが、それらの設定だけでも相当な量が必要でした。

設定考証に高島雄哉さんが参加されていますが、担当されていたのは主に巨獣発生の仕組みについてだったと思います。


厳しい制約のなかで色々と手探りでしたがアニメ化に至れたことが何よりありがたい事でした。(コロナ禍においては関与企画がいくつも頓挫・お蔵入りになりました。本当に悔しく無念です。)

あくまで主人公は「波止工業」です。メカは舞台装置の一つですので、シンプルに彼らの人間模様を楽しんでいただけたら幸いです。

私としては初めて主役ロボデザインを担当させていただいたオリジナル作品でした。テレビアニメで玩具然・スーパーヒーロー然とした日本のエンタメロボット像とは違う、世界観に合ったSF的な架空メカデザインができた事に満足しています。このような機会をいただけただけでも幸運でした。

続編制作や実写化の可能性もありますので、引き続き応援いただけたら幸いです。

沖野が好きなアニメのロボット(PCの壁紙にしていた)を描いてみました。元のデザインはアニメに際してのNUTスタッフさん作だと思います。ダイガードのオマージュっぽいですね。私は未見なので詳しくないのですが。


リアルブルバスター

現在このような企画が進んでいるようです。
「アニメロボのような疑似ロボを作ってみた」の類のものではなく、「ブルバスター」という作品がきっかけになって社会的な問題(激甚災害における救助や復興も)を解決できる何かがこれをきっかけに実際に開発されることを期待してします。