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エリート社長の溺愛!?花嫁教育

7月14日発売されましたの夢中文庫記念すべき10作目は、花嫁教育ものでございます!

一度は書いてみたかった花嫁教育もの。夢が叶いました。ヒーローは厳しさの中に優しさを隠した大人の男性で、ヒロインのことをとても大事に思ってます。

タイトル通り溺愛!です。

是非楽しんでください。

今回、hontoとebookjapanからは配信がまだされてません。あとロマンスブックカフェもまだです。それ以外の書店さまからは配信されてますので、是非読んでみてくださいね。


夢中文庫公式



お試し読みを掲載してますので、どうぞ♪

■お試し読み■


エリート社長の溺愛!?花嫁教育


 その人はフランス製の有名な陶器のティーカップを貴族的とも言える優雅な仕草で持つと、ひとくち飲み、ソーサーに音もたてずに戻した。私はヨーロッパのロマンス映画を観ているのかと錯覚するほど洗練された彼の仕草から目が離せず、多分、失礼なほど見入っていたに違いない。
 男性の指がこんなにまっすぐで美しいと感じたのも初めてだった。それにもまして目の前の男性は高貴な血が流れているのかと思うほど、全てにおいて完璧だった。それはつまり私個人の主観なわけで、他人の意見も聞かないと信憑性において自分が正しいとは言えないのだけれど。とにかく、彼は私の25年の人生で出会った男性の中で、容姿や作法の面では完璧だと思えた。というのは中身についてはまだよく知らないからだ。
 穴が開くほど彼を見つめていた私の視線を感じたのかその人が不意に顔を上げた。ばっちり目が合ってしまい、思わずビクンと体が揺れ、息さえ止めて硬直してしまう。彼の次の行動を凝視してしまうのは防衛本能に他ならない。何を言われるのだろうと不安になる。すると彼は高級ホテルの座り心地の良い椅子の背に背中を預け、ふっと微笑んだ 。
 シャープな印象のするすっきりとした奥二重の双眸を鋭く細める。そもそもクールなイメージの人だ。それが更に冷たい印象を強くさせる。私と言えば、何か文句を言われるのだろうかと身構え緊張でガチガチだ。
 彼のヘアスタイルは漆黒の短髪だが、前髪は少し長くそれを自然に流している。オーダーメイドと思われる体にぴったり 合った三つ揃えのスーツは少し光沢が ある素材でとても洗練されている。ネクタイも同系色でコーディネイトしていて、落ち着いた感じだ。確か36歳 だと聞いている。どちらかというと年齢よりも若く見えた。肌の色はオークルで白過ぎず黒過ぎない。この人がIT界のプリンスと呼ばれているのを思い出し、確かにそんな感じだと勝手に納得していた。
 高級ホテルのラウンジにいても様になっている。落ち着いた大人の地位のある男性だという事は全身からにじみ出ていた。それに対して自分は、仕事もしたことのないお嬢様で、気の利いた会話さえできずに彼を観察しているしかない。
 ジワジワと焦燥に追い詰められていく。
「大澄さんは、今の状況に満足してますか?」
 いきなり難しい質問を投げかけられ、私は早速パニック寸前だった。この質問は罠だろうか? そんな風にさえ思えて、どう答えていいのかわからない。自分の状況を考えると更に焦りだけが倍増していく。
 大学卒業して早3年。家事手伝い、つまり無職の私に対して満足してますか? との質問はかなりハイレベルだ。
「あ、あの。その、いえ、ま、満足と言うには……まだ……」
 彼の口角が上がった。笑ったのだ。きっとバカにされたのかもしれない。IT業界で名をはせている成功者の彼にしてみれば、家事手伝いの過去務めていた会社の娘と 、こんな風に時間を潰しているのは不本意だろう。時間がもったいとでも思っているに違いない。そうきっと苛立っている。そんな風に思ってしまうほど彼には愛想のかけらもなかった。
「温室育ちの世間知らずなお嬢様。君はそんな感じだね。君の父上には大変世話になったし、娘に一度会ってくれと言われて断り続けているわけにもいかず、今回見合いのようなこの状況を引き受けた。が、しかし、もし君が僕との結婚を夢見ているとしたら、申し訳ないが、結婚など論外だ」
 一語一句聞き逃さず私は彼の言葉をしっかり噛みしめた。ちゃんと脳細胞に浸透しかみ砕き、ものすごい勢いで分析さえした。しっかりと彼の目を見つめて。
 私はその間、ただ硬直したまま彼の目を見据えていたのだが、こんなにはっきりと突き放されたのは初めてのことなのでまるで雲の上を歩いているように、現実味が全く持てず、言葉を理解しているのに夢の中にいるようなふわふわした気分のままではっきりとリアクションできなかった。
 初めて彼の眉間に皺が寄った。
「僕は昔の男とは違ってお飾りの妻など要らない。ビジネスの面でもプライベートの面でも常に対等なパートナーになれる女性が理想だ。君は僕の理想の足元にも及ばない。君にとっての救いは僕が処女に価値を見出していない点だけだろう」
 ふわふわした気分だった私はその言葉に雷に打たれたような衝撃を受けた。まさに丸焦げ寸前状態だった。一気に覚醒し、その反動で椅子から立ち上がってしまったほどだ。
「な、なんですって!? 大人しく聞いていたら、何なのよ、偉そうに。そんなにあなたがお偉いの? 確かにご立派でしょうよ。IT界のプリンス、新城実! 冗談じゃない。そこまで馬鹿にされて誰があなたと結婚なんてしてやるものですか! 父に頼まれたから、父の顔を立てるためにあなたに会っただけよ。こっちこそ、お断りよ!」
――君は僕の理想の足元にも及ばない。君にとっての救いは僕が処女に価値を見出していない点だけだろう。
 その言葉が脳裏から離れなかった。鼻が痛いほどつんとし、涙が溢れてしまいそうになるのを必死で堪え、私は逃げるようにしてその場を去った。当然のことながら彼は追いかけてはこない。これ幸いと含み笑いをしているに違いなかった。
 綺麗な男性だと……少しだけ、そう少しだけ思ったけれど 、とんでもない自意識過剰男だった。あんな男と結婚させようなんて、両親に激クレームをつけてやる!
 そんな風に息巻いていたが、外資系高級ホテルのエントランスを抜けると涙が勝手にあふれ頬を伝った。肩の震えを止めることができないほど、嗚咽が酷くなる。
 恥ずかしくて目の前に待機しているタクシーに乗り込んだ。
 何が悔しいってそれこそ私は25歳で処女だ。初体験の相手に相応しい乙女の夢をかなえてくれるような男性に出会っていなかったから、今まで処女だっただけだ。プライドが高いと言われればそれまでだが、初体験の相手を妥協で決めることなんてできやしない。それなのに彼はあんな……あんな……人だった。私がさも経験豊富なような言い方をして、処女に価値がないなんて! 許せないっ!!
 今回は両親の説得に負け、大好きなパパがぜひ会ってみてというから、見込んだ男だからと言うから会ったのだ。
 パパはパソコンなどの精密機器を製造する会社を経営している。今やパソコンだけでなくスマートフォン、タブレットを手掛けている。ママは企業弁護士で、パパの会社の専属弁護士をしていたことで知り合い結婚した。
 そんなキャリアウーマンのママから生まれた私はいまだ就職難民で、家事手伝い状態だった。こんな状態でもパパの会社にコネで入社するのが嫌だった。しかも、プライドが邪魔してそれこそ大手でないと働きたくないという私は、ママに言われせれば、無駄な信念を持っているがゆえに就職難民状態――なのだった。
 それでも日々何もせずに過ごしているわけではない。カルチャースクールで習えることは一通り制覇している。お料理教室にも通い、フレンチからトルコ料理まで幅広く作れるようになった。自分はもしかしたら料理人に向いているのかもしれないと思うほどだ。
 ママは専業主婦になったが時々細かい調べ物などを頼まれ仕事をしている。そのママに変わって三度の食事の準備は私が行っていた。
 とにかく、お嬢様としての勝手なプライドがなければ私は今の状況に非常に満足しているのだけれど、人の目を気にしてしまうところがあり、本来ここはどう答えるべきかなどと余計なことを考え、自分の意思とは違う返答をしてしまうことが多々あった。
 今回も、彼に問われた時に、満足していると胸を張って言うべきだったのだと、後の祭りだがそう悟った。
 もしそう言っていたら彼の辛辣な態度は違うものになっていただろうか……?
 そんな思考に囚われるとますますみじめさが増した。
 タクシーの中で肩を震わせながらぎゅっと唇を噛み嗚咽を堪える。みじめで情けなかった。彼に言われるまでもなく25歳の大卒にして何も成し遂げてない脱落者、負け組だと責められたようで居たたまれなくなる。
 結婚することしか考えていない女だと思われていることが悔しくてならなかった。
 私だって……私だって……
 そう思ってもママのように弁護士になれるわけでもなく、パパのように会社を経営できるわけでもない。何もできないという事実を思い知るだけだった。
 
 東京都心の高級住宅地と知れ渡っている地区にある実家の前で、 タクシーが静かに停車したことで物思いから覚醒した。私は料金を払い、車から降りた。高い塀で囲われた表玄関の前で立ち止まり、暗証番号を打ち込むと銀色の重厚な扉が自動的に開く。
 砂利が敷き詰められた庭には椿や、ボタンが植えられている。椿の花がポトリと落ちる音が嫌に大きく聞こえた。
「茉莉花《まりか》、お帰り。早かったのね~」
 玄関を開けて入った途端、陽気なママの声が静かな家に反響した。それを無視して自分の部屋へ直行する。幸運にもパパは出てこなかった。二人とも事の成り行きを聞きたいに違いない。しかし二人の思う通りには事は運ばなかった。
 あんな失礼な人と誰が結婚なんてするものか!
 私はまだ怒り心頭状態で、涙が止まらないままベッドにダイブしうつぶせで拳をベッドに打ち付ける。
「茉莉花ちゃん」
 いつの間にかママが部屋に入ってきていた。泣きはらした顔を見られたくなかったが、どう考えてもママがそれを見逃すわけはないと思いなおし、涙でぐちゃぐちゃの顔を上げた。
「まぁ、いったい何があったの?」
 抱き締められ背中を摩られているうちに、興奮状態が収まっていく。
「あ、あんな人と絶対結婚なんてしないんだから――っ」
 その一言で賢いママは悟ったようだ。
「あらあら、そうなの? まぁ大変ねぇ」
 などとのんきな声が聞こえてくる。
「本当に最悪なんだから。私は私は……彼の理想の足元にも及ばないって、そう言われたんだから! そんな何様な男なんていやよ!」
 ママはまだ私を抱きしめたまま背中を摩ってくれている。
「そうねぇ。そんな風に言われたら怒っちゃうわよねぇ」
 ママの気の抜けた声にも私の怒りが収まることはなかった。
 
 
 
 両親が設定した『お見合い』から1週間が過ぎた。
 パパから会うだけでもと言われ、『パパが望むなら』――と、渋々指定された外資系ホテルのラウンジに向かったあの日だ。両親にどうしてもとお願いされて私は断れたためしがない。 両親にしてみれば真剣に頼めば娘は言う事を聞いてくれると思っていることだろう。実際そうなのだ。
 両親に頼まれれば嫌と言えない。それが私なのだから仕方ない。しかし、結婚となるとそうはいかないのだ。相手からも完全に拒否されているし、悔しいけれど彼は正しいと思う。私だって望まれていないのに相手が会社社長で、リッチでハンサムだからと言って何が何でも結婚したいなんて思わない。
 そんな女じゃない。プライドは捨てない。それが私、大澄茉莉花なのだ。
「パパの思い通りにはいかなかったけど、仕方ないじゃない」
 心の声を発してしまったことに我に返る。今家族で食事中だった。ちらりとパパの方へ視線を向ける とばっちり目が合ってしまった。
 委縮してしまい下を向く。
「茉莉花、顔を上げなさい。結婚はね。お互い愛情がなければ成立しないものだ。だからパパも無理強いはしないよ」
 そう言われパッと顔を上げた。笑顔になったのを自覚する。しかしパパの表情は少し困惑気味だった。
「茉莉花、よく聞いてくれ。彼は厳しい人かもしれないが、きっと茉莉花のことを理解してくれる。そうすれば可愛がってくれるに違いない。ふところの大きな男だよ」
「でも、彼は私のことなんて求めてないし、しかもすごく酷いこと言われたのよ。確かに私は無職だし、大したことできてないかもしれないけど……」
 私はもうそれ以上何も言えなくなってしまった。確かにエリートと呼ばれる人からしたら自分なんてただ遊んでるだけで、親に養ってもらっている半人前に違いない。彼が私を見て下した評価がそれなら仕方ないとしか思えない自分が情けなかった。
「茉莉花、パパはね、新城君こそが義理の息子になってほしいただ一人の信頼できる男なのだよ。茉莉花を任せられる唯一の男だ。それにね、こんなことを言いたくはないが、うちの会社には彼の力が必要なんだ。私利私欲で結婚を望んでいるとは思ってほしくないが、彼が茉莉花と結婚してくれればこんな喜ばしいことはないんだよ」
 固唾を呑 んだままパパの顔に視線が釘付けになってしまう。こんな風に弱さをさらけ出したパパを見たのは初めてだったから尚更動揺を隠せない。
「あなたったら、止めてちょうだい! 私だって新城さんと茉莉花が結ばれてくれればって本気で望んでいるけれど、こればっかりは二人の気持ちが大事なんだから。周りがやきもきしたって仕方ないのよ」
 ママまでがそんなことを言い出す。
 私は途方に暮れた。考えなくてはいけないことが山積みでどう対処していいのか全くわからない。しかし、この会話でわかったことはあった。
 パパの会社が危機的状態なのかもしれないということ、そして、愛する両親に恩返しできるなら今しかない。
 そのことははっきりと私の意識に刻み込まれた。今夜しっかりと考えなくてはならない。お荷物でしかなかった私が両親を喜ばせるだけでなく役に立てるなら、何をするべきか……。それをしっかり考えるのだ。


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